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43話:ありがた眼鏡

「……まあ良いでしょう。承認です」


 と言ってサディートは眼鏡を光らせ、我が作成した書類の表紙に署名した。


「ただし、もっとビジネス文書の勉強をすることですね。昔散々教えたでしょう。まずこの資料を書いた背景と目的を過不足なく書いて──」

「分かっている。次は気を付ける」


 サディートの説教をかわしつつ、バインダーに書類を挟んで棚へ収納した。

 この書類は、先の仕事で宇宙最強マンが語った『初代魔王ルキフェロイオン』の過去を記録したものだ。


 魔界の創始者である祖父殿について、残されている記録は少ない。

 何故ならば祖母殿を始めとした『初代魔王を知る古き悪魔たち』が筆不精だからである。皆面倒臭がりなのだ。悪魔だからな。

 特に、祖父殿が魔界を作るより以前に何を考え何をやっていたのか──という点については、記録文書が皆無に等しい。


 そんな訳で、今回聞いた祖父殿の過去を歴史資料として残しておくことは、国にとっても重要な仕事なのである。

 我は嫌いなデスクワークを、久々に丸一日もかけて頑張った。


 ちなみに資料作成には、鑑定係の手も借りたのだが──


「ふふー。初代魔王の弟子に同情したメシュトロイオン陛下がー、『あいつを仲間に入れてやってくれよ』ってお優しい言葉をー」

「待て。そのことは記録するな」

「えー。どうしてですー? 私たち二人の秘密ってことですかー?」

「うむ。そうなるな。頼む」

「ふふふー。じゃあその代わりにー、またショッピングに連れてってくださいねー。たくさん奢ってくださーい」


 と、約束を取り付けられてしまった。

 あやつも女子らしく買い物が好きであるようだ。



「それにしても、辺境の世界でお爺様の弟子と出会うとは。運が良かったですねメッシュ」


 サディートが、壁に掛かっている祖父殿の肖像画を見ながら言った。


 どうして肖像画が飾ってあるのかというと、今いる部屋が魔王城の魔界資料室であるためだ。

 元々は祖父殿の寝室だったが、祖父殿の死後に記念館的なノリで改装したらしい。


 初代のみならず、歴代魔王の顔資料が飾ってある。ただし二代目以降は絵でなく写真だ。


 全ての者を見下しているような軽快な笑みを浮かべる、初代魔王である祖父殿。

 全ての者を容赦なく葬り去るような非情さを醸す、二代目魔王である父上。


 そして勿論、三代目魔王である我の写真もある。

 朗らかな笑顔……で写ったつもりだったのだが、固い表情で大口を開け、全ての者を威嚇しているような写真になっている。目付きが悪い。いや悪くない。たまたま写りが良くなかっただけだ。

 機会があれば撮り直そう。


 四代目魔王であるマートの写真はまだない。

 引退後に飾られるはずだ。


「……メッシュ。今更言うのもなんですが、あなたには感謝しているのですよ。感謝と……それに、申し訳なくも思っています」


 ふと、サディートが肖像画から目を離さずに言った。


「感謝? 申し訳ない? 何がだ。フォルと遊んでやっていることか?」

「いいえ、もっと昔のことについてです」


 サディートは眼鏡を指先で上げ、チャキッと音を立てた。


「二代目魔王であるあなたのお父様、そして私の父……その二人が同時にお亡くなり(おかくれ)になった頃の話です。あの時は、三代目魔王候補として私も担ぎ上げられました」

「そうであったな。貴族や大臣たちが勝手に盛り上がり、派閥を作って対立していた」

「魔王になる条件は『初代魔王の子孫であること』『成人していること』『強いこと』の三つ。条件に合うのは私とあなた、叔母上の三人だけでした……正確に言うとあなたも子供でしたが、『特別扱い』だったので」


 どうして我だけ特別なのかと言うと、とにかく強いからだ。と自分で言うのはちょっと恥ずかしい。

 なのでネア姉上は『子供だから』という理由で候補から外れたのに、一つ年下である我は候補になった。

 それにマートも当時から強かったのだが、流石にまだ子供過ぎたため除外された。今のフォルよりも幼かったからな。


「実はマートも『特別扱い』しようという動きはあったのですよ。本人も乗り気だったらしいですが、しかし如何せん妾腹だったので……いや、その話はやめましょう……とにかく。結局は私も叔母上も早々に辞退し、あなたが三代目魔王になった」

「ふむ。我も気付いたらいつの間にか魔王になっていた」


 あの頃は大変だったな。

 魔王としての役割やら心得やら、お偉いさん達に厳しく叩き込まれたものだ。


「叔母上は『メッシュが一番強いから』と言って辞退しました。私も当時は同じような事を述べましたが……本当は、もっと情けない理由があったのですよ」

「情けない理由だと?」


 サディートにしては珍しい、弱音に近い発言だ。


「あの時、私の妻は子を宿していました」

「フォルのことか」


 ちょうど我の魔王就任と同時期に、フォルが生まれたのだ。


「…………初代魔王は、息子である二代目魔王に殺されました。その『親殺し』の儀式は、当時の魔界には必要だったらしいのですが……しかし……」


 サディートは初代魔王の肖像画と二代目魔王の顔写真を見比べながら、言い淀んだ。

 二代目魔王。父上の顔はいつも冷酷さに溢れている。我も見習いたいと思っているのだが……


「正直に言いましょう。私は魔王になることが怖かったのです。もし魔王になったら、妻の腹の中にいる自分の子供がいつか私を殺すのではないかと。だから、どうしても嫌だった」


 サディートは肖像画と写真を見るのをやめ、我の方へと振り向いた。


「で、辞退しました。ということで、代わりに魔王になってくれたメッシュへ謝意の念を抱いているのですよ」


 そう言って眼鏡を指で上げて光らせ、


「……余計な話をしてしまいましたね。帰りましょう。明日からは通常の業務に戻りなさい」


 照れ隠しするかのように、更に二回連続で光らせた。


「分かった。だが明日は休日だぞ」

「なら週明けからです」


呼び出しマン編おしまいです。

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