44話:悪魔らしいファッションとはだいたい少し古い
休日の昼下がり。
馴染みである行商人の言葉を聞き、我は愕然とした。
「地球の菓子が……無い……だと?」
「へえ。仕入れが難しくなっちまいやして……へへへ。旦那のご期待に沿えず、あっしも心苦しいんですがねえ」
行商人は怪しく笑う。
話によると、地球への通門ゲートが突然整備中になり、通行不可能となってしまったらしい。
しかも整備は既に数日続いており、いつ再開するかも分からないとか。
「他の世界の菓子ならたくさんありやすぜぃ。別の魔界から取り寄せた、口内炎だらけになるキャンディーなんてえのは珍品中の珍品でさあ」
「今日の我は、既に心の中がハイチュウで一杯になっているのだが……」
と我ながら未練がましく呟くと、隣にいるゴシックドレス姿の鑑定係が、
「拗ねないでくださーい。顔怖いですよー」
と言って笑った。
こやつがいるのは、書類作成の時に『買い物に連れて行く』と約束したためだ。
本来なら地面にまで届くほど長い髪を、余所行き用にぐるぐると編み纏め肩に垂らしている。
「拗ねてなどいない。顔も怖くない」
と答えたが、正直に言うと我は拗ねている。顔は怖くないが。
とはいえ、拗ねた所でどうしようも無いのも分かっている。ちょっと未練が出てしまっただけではないか。
とりあえず口内炎は嫌いなので、別のキャンディーを買ってみた。
あまり甘くない……
「うざったいからクヨクヨしないでくださーい。それより約束通りー、私に服とか宝石とか買ってくださいねー」
「うむ……?」
奢ってやるとは言ったが、服や宝石という具体的な物品の約束はしていなかったような気がする。
まあ良い。
我と鑑定係は行商人と別れ、魔界大通りにある服屋へと足を運んだ。
我はファッションに疎い。何故なら幼い頃より、服や装飾品は全て城の者が選んでいたからだ。
幼き頃は『魔王の長男』に相応しい服装を。だいたい七五三みたいな服だ。
魔王に就任してからは『魔王』に相応しい服装を。だいたいトゲトゲがたくさん付いている服だ。
そして今も『魔界の貴族』に相応しい服装が、面倒見良い元執事やメイド達から送られてくる。だいたい葬式みたいな服だ。
あとはネア姉上が選んだ服装。だいたいヘソ出しで露出が高い。姉上の趣味だ。
そのように、服については他人任せで無頓着な我。
鑑定係の服についても、本人が選んだものをそのまま買ってやるつもりである。
我から「似合う似合わない」など口出しするつもりは全く無い。
鑑定係もそんな我の性格を見抜いていたのか、「これとこれ、どっちが私に似合いますー?」などとは聞いてこなかった。
それはそれで良かったのだが……
「これとこれ、どっちが陛下に似合いますー?」
想定外の質問が飛び出してきた。
こやつ、自分の服だけでなく我の服まで選びだしたのだ。
しかも彼女の趣味であろうメンズゴシックファッション。
黒い布地の所々に銀の刺繍が施してある。異様な数の銀色ボタン。無駄に太いベルト。さらに腕や腰、足首にチェーンがジャラジャラ付いており、うるさそうだ。
まあ黒さにおいては、いつもの喪服みたいなのとあまり変わらぬのだがな。
「メッシュ陛下っていっつもカッチリした服装だしー。召喚獣として活動するにも、もっとこういうカジュアルな悪魔っぽい恰好が良いと思うんですよー」
「そう言われてみれば、そうかもしれぬな」
一応、古風ではあるが悪魔の好むファッションだ。
トゲトゲだらけの服とはまた別のベクトルで、実に悪魔らしいと言えば悪魔らしい。
我は納得し、鑑定係が提示した二通りの服装を両方とも購入した。
「せっかくなのでー、今すぐ着てくださーい」
と言われたので試着したまま金を払い、我もゴシックファッションで街を歩くことにした。
やはりチェーンが金属音を立てうるさい。
街角の大きな窓ガラスに、我の姿が映った。
「確かに悪魔らしさは出ているな。しかしやはり少々古い気もする」
「古いくらいが良いんでーす」
「そういうものか」
「そういうものでーす」
「ふむ」
我は頷きながら、ふと鑑定係のゴシックドレスも眺めてみた。
彼女にも新しい服を数着買ってやったが、我のように着替えてはいない。
ただネックレスやチェーンや指輪等の装飾品は、買ったばかりのものに取り換えている。
我と同じく、歩くたびにうるさい。
しかし、ふむ……なんとなくネア姉上の言葉を思い出した。
『も~メッシュくん。せっかく女の子とお揃いの服(露出多い)を着てるんだから、嬉しがってよ~』
『女といっても姉上だろう』
『お姉ちゃんも女の子~! とにかく、こんな時はもっと気の利いたことを言わないと駄目なんだよ』
と。
あの時の状況に似ている。
今の我も、鑑定係と揃いの服……とまではいかぬが、同じジャンルの格好である。
確かこの場合に言うべき『気の利いたこと』とは──
「まるでペアルックだな。悪くない。嬉しいぞ」
「んえっ!?」
鑑定係が奇妙な声を上げた。
頬を赤く染めている。姉上が言った通りの反応だな。
これで我は『気が利く小粋な男』であると評価されたはずである。
などと考えていると、隣を歩いていた鑑定係の姿が消えた。
後ろを見ると、赤面したまま立ち止まっている。
「どうした。疲れたのか?」
「べ、別にー。何もないでーす。セクハラはやめてくださーい」
「何! 今の発言はセクハラにあたってしまうのか! その意図は無かった。訴えないでくれ」
「うっ、あっ、えー……こほん」
鑑定係は咳払いし、顔を横に軽く振った。
普段の表情を取り戻し、「ふふー」と笑う。
「許してあげますからー、来週も買い物に付き合ってくださいねー」




