42話:仲良しさん脱衣
「最初の取り決めに応じる。ごほっ。負けた私はもうヒーロー達を殺さないし、宇宙を支配したりもしない」
宇宙最強マンは血を吐きつつ、更に胸に空いた穴からも血を噴き出しながら言った。
「液体化マンが勝手に交わした約束だったけど、約束は約束。それに元々私は、宇宙を支配なんてするつもりはなかったし……じゃあ帰る」
そしてゆっくりと立ち上がった。
大怪我をしているので、足がガクガク震えている。
無理せずまだ寝ていれば良いのにな。
そんな宇宙最強マンの姿を見ながら、呼び出しマンが「あの……!」と叫んだ。
「もう僕たちも『宇宙最強』って称号は、金輪際使いませんので……! で、できればもう来ないでください……!」
「…………」
しかし宇宙最強マンは何も答えない。
そういえばこやつは、『自分が認めた強者としか言葉を交わさない』という自分ルールを強いているのだったな。
仕方ない。サービスだ、また通訳してやろう。
「もう『宇宙最強』とは名乗らないので、ここに来るな。と言われているぞ」
「別に名乗っても構わないし、もう来る気も無い。私の方こそ『宇宙最強マン』という名称を捨てる。何故なら私は『呼び出しマンの呼び出し術に負けた』とも言えなくもないので、もう宇宙最強じゃないから。呼び出しマン本体は雑魚だけど」
「うっ、ざ、雑魚……うう……でも分かってくれたようで、一応ありがとうございます……はい」
呼び出しマンは傷つきながらも頭を下げた。
礼を言われた宇宙最強マンは、再び無視をする。
「それにしても貴様。その『弱者とは喋らない』という精神鍛錬法を、一体誰に教わった?」
我は気になって尋ねてみた。
まさかこれも祖父殿の教えなのだろうか?
「もちろん師匠から教わった」
「しかし魔界にはそんな鍛錬法など無いぞ」
「……そうなんだ」
宇宙最強マンが、我の目をじっと見つめた。
「……私は……師匠に助けられて修行して強くなった後も、皆に迫害され続けていた。むしろ強くなればなるほど、皆から避けられた。そんな時──」
『他人がお前さんを無視するだあ? だから何だ、違うだろーが。お前さんが他人を無視するかどうか選べる立場なんだよ少年。だってお前さんは強いんだ。弱い奴と喋ったら弱虫が移っちまうぜ?』
「──って師匠が言った」
「なるほどな」
やはり精神鍛錬法などでは無かった。
むしろ逆に、挫けそうな精神を保つための方法ではないか。
祖父殿は、こやつを励ますために言ったのであろうな。
悪魔らしからぬ言動だが、当時の祖父殿はまだ悪魔ではなかったので良しとしておこう。
「……じゃあね」
宇宙最強マンは大穴の空いた胸を押さえながら、宇宙の果てへと去っていった。
◇
「言っとくけど、私はアンタに”活躍”の場を”譲ってあげた”だけなんだからね。勘違いしないでよね! バーカ! バーカバーカ!」
「馬鹿ではない」
「うっさい”バーカ”!」
元女神レイスが毒づいている。
こやつは首から下が動かなくなっていたのだが、我の戦いを見物している間に、上半身だけなら動かせる程度に回復したらしい。
地面に寝ころんだまま帰還用魔方陣を描き、ほふく前進で足を引きずって魔方陣へ乗る。
「もうアンタなんかとは”一生会わない”から! さよなら! 死ね!」
「貴様が死ね」
「アンタが”死ね”!」
そうして、うるさい神はようやく帰っていった。
「それでは我も帰るとしよう」
我は未だ気絶したままのフォルを肩に担いだ。
フォルは、
「うみゅぁにゃぁ……ジャスティース・食べ放題……」
などと寝言を口にしながら、我の服によだれを付ける。
担いだのを少しだけ後悔した。
「ありがとうございました、メッシュさん……あなたのおかげで宇宙は救われました……!」
呼び出しマンとその他ヒーロー達が、我に深々と頭を下げた。
「礼はいらん。仕事だからな」
そう言って我は、帰還用魔方陣を地面へ描く。
「……犠牲は多かったですが……これから僕たちヒーローが、この世界の未来を良い方向へと導いていきたい……その理想を胸に、邁進していきたいと思っています」
「そうか。頑張れ」
この世界の未来など、我にはどうでも良いのだがな。
「また何かあったら召喚、もとい呼び出し術を使え。再び我が来るとは限らぬが」
「はい……その時はまたお願いします」
そして我は魔方陣に乗り、いざ帰還しようとした……のだが。
ふと最後に、一言だけ付け加えることにした。
なんというか、我ながら悪魔らしくない『一言』になる。
しかし祖父殿の意向を汲むと、何となく言っておいた方が良いような気がしたのだ。
「──今後もし。万が一だが。おそらくは無いと思うのだが……宇宙最強マンが『貴様らの仲間になりたい』などと申し出たら、受け入れてやってくれ」
「……え? ええと、はぁ……」
皆きょとんとしている。
どうかしているぞ我。
やはり悪魔として、今の台詞は言うべきでは無かったな。
フォルが寝ていて助かった。
「ふふふー」
……笑い声が聞こえた。
「陛下ってー、意外と優しいんですねー」
鑑定係の女。
不覚。こやつが監視しているのを、すっかり忘れていた。
◇
「わたくしが敵を倒しましたの! 体をドロドロにするっていう一番強そうな能力の敵を! わたくしが! 倒したんですの! わたくしが、わたくしが、いーちばん大活躍でしたのよ! ネアお姉様!」
「まっ! 偉いわね~フォルちゃん。でも液体化する敵って、やっぱりお肌ぷるぷるなのかしら~? 美味しそうなのと戦ったのね~」
ここは魔王城の中庭にある、従兄弟サディートとその家族が住んでいる屋敷。
大怪我で三日寝込んでいたフォルがようやく目を覚ましたと聞き、様子を見に来たら、偶然ネア姉上も見舞いに来ていた。
「で! わたくしの! わたくしが! わたくし! わたくしに!」
フォルは子供らしく興奮している。
三日の熟睡で身体は全快。むしろエネルギーが有り余っているようだ。
「落ち着けフォル。そもそもお前は二戦目で負け──」
「あー! あー! お兄様のいぢわる! あー!」
フォルは慌てて両手を伸ばしながらジャンプし、我の口を塞いだ。
更に我の首へ抱きつき、
「しーっ。お兄様、しーっ。ですの」
耳へ息を吹きかけるように囁いた。
「むず痒いからやめろ」
「しいいいいい、ですのー」
「まっ! 仲良しさんで妬けちゃうわ~」
ネア姉上は楽しそうに笑いながら、
「お姉ちゃんも混ぜて欲しいの~」
と言って、我に抱きついてきた。
姉上の強大な力と巨大な胸に押され、我はよろけ転びそうになる。
それに抱きつくだけならまだしも、
「姉上。何故我の服を脱がそうとする?」
「裸が見たいからよ~。お姉ちゃんのことも脱がして良いからね」
「特に脱がしたくは無いので良い。あと股間を触るな」
「なんで~!?」
姉上はわざとらしく「ぷんぷん」と言いながら、尚も我を脱がそうとしてくる。
それを見ながらフォルは「お兄様とお姉様も仲良しさんですの!」と笑っていた。
などと騒がしくしていると。
子供部屋にしては大きすぎる扉が、軋む音を立てながら開いた。
「……何をやっているのですか。フォルへの性教育はまだ早いですし、あなた達に頼む気は無いのですが?」
と言って現れたのは、茶色い髪をオールバックにし角ばった眼鏡を掛けている男。
フォルの父であり、我や姉上の従兄弟であるサディートだ。
いつものように眼鏡をクイッと上げ、上手い具合に光を反射させキラリと光らせた。
◇
部屋にフォルと姉上を残し、我とサディートの二人は屋敷から出た。
「すまんなサディート。我がいながらフォルを怪我させてしまった」
我は歩きながら謝罪した。
呼び出しマンの世界から帰還して三日経つので、謝るには少々遅い気がする。しかしサディートに会う機会が中々無かったのだ。
我は怒られることを覚悟していたが、
「メッシュが謝ることはありませんよ。戦って負けたのはフォルの責任です」
意外にもサディートは優しかった。
「フォルは優秀な悪魔。むしろ子供の頃は強者と戦い負けることで更に成長出来る。というか元々、次の職場体験先である異界侵略で『わざと負けさせる』経験を積ませようと考えていましたからね。手間が省けましたよ」
「わざと負けさせる? 過保護な貴様らしくないな」
「…………まあ妻の提案ですけどね」
サディートは再び眼鏡を光らせた。




