41話:みんなも自分流にカスタマイズしてみようぜ!
宇宙最強マンの千切れた腕が破裂。
爆風が我を包んだ。
だが爆風だけ。ただそれだけ。
闘技場が壊れた訳でもない。
「100%を超えた限界以上の力、にしては小規模だな」
もうもうと立ちのぼる煙の中、無論、我は無傷である。
「さっきのはそれじゃない。逃げるついでの事前準備。あなたが師匠の孫なら、あの爆弾程度じゃ傷一つ付かないのは分かってる。ただ特別な工夫は施しておいたけど」
「工夫?」
そういえば、喉や目、鼻がピリピリするような気がしないでもない。
花粉症ではないぞ。
「煙の中に毒が入っていたのか」
「うん。腕に残っていた魔力に毒素のような役割を与えた。もっと詳細に言うと、毒素っていうより細胞を食い荒らす微生物に近い」
「ほう、器用なものだな」
我が感心していると、その会話を聞いた観客達が「毒!?」と慌て逃げ出した。
無理もない。このままでは、毒素入りの煙が観客席まで届いてしまう。
観客などどうでも良いのだが、それよりこのままでは召喚術師である呼び出しマンにまで毒が届いてしまう。それは不味い。
我は念動力で煙を全て一か所に集め、潰して打ち消した。
「あーっ! ちょっと、私に”恩”でも売ったつもり!? こんなことで”感謝”なんてしてあげないんだからね!」
レイスが喚いている。
元より神のためでは無い。黙っていろ。
一方、宇宙最強マンは悔しがるわけでもなく「すごいね」と呟いた。
「余裕だね。毒に侵されてるのに、まず人々を助けるなんて」
「何! それは気持ち悪い誤解だな。人々を助けた訳では無いぞ」
まったく心外だ。我は悪魔であるぞ。
「それに毒には侵されていない。一瞬侵されたような気もしなくはないが、すぐにピリピリは治ったぞ」
「治ってない。あなたの体内にはまだ毒が残っている」
そう言われた途端、我の体が火照った。
「ふむ。確かにそのようだ」
目や口の粘膜から体内へ侵入した毒素が、突然活性化したようだ。
すごく痒い。
痒いだけなら良いのだが、
「足が動かぬ」
「下半身の神経を重点的に食べ荒らしてみた。文字通りの足止め。もちろん、あなた相手じゃ一分も経たない内に治っちゃうだろうけど」
しかし一分もあれば、攻撃のチャンスとしては申し分ないな。
と人ごとのように考えてしまったが、攻撃されるのは我だ。なるべく痛くないのが良いな。
「この毒素を利用すれば私自身のドーピングも可能。魔力の経絡を刺激し流れを促す。終わった後にしばらく全身の痛みが続くし、不死身の力も削がれてるような気がするけど……でもこれで100%を更に超える力を得る」
宇宙最強マンの肌が薄っすらと赤みを帯びた。ドーピングとやらを使ったのだろう。重ね重ね器用な奴。
そして更に攻撃へ移ろうとしている。
右手の指を四本。左手の指を三本。計七本の指を立て、その両手を合わせる。
再び七色の光線技──七宝を使うつもりか。
「殲魔・七宝。派手なだけで威力が伴わないデモンストレーション技。本来なら攻撃には向かない。威力が出ない理由は、『七色の光を生み出す』という見た目以外の意味がない割に高度で繊細な技術へ注力しないといけないから。ついでに私のは追尾能力も付けているので、更に威力は出難い」
「それにしては、貴様の七宝は高威力であったぞ」
「うん。鍛えたからね。でもデモンストレーション技は所詮、見世物の域を出ない」
宇宙最強マンの七本の指先が光を帯び始めた。
ただし、七色の光ではない。一色だ。
血のような赤、一色。
「だから私は考えた。常に研鑽を怠らないというのが師匠の教え。ここで言う私の研鑽とは技の昇華。殲魔・七宝の色彩、光沢、ついでに追尾──それらに割いている魔力を、全て『威力』に注ぐ。そうして出来たのがこの技」
指先が更に強く赤く輝いた。
「殲魔・七頭一宝」
宇宙最強マンの手から、七つの光線が放たれた。色は七つとも同じ赤。
光が互いに交差しうねり狂いながら、我へ向かってくる。
その光線には、七宝とは比べ物にならぬ濃密な魔力が籠っている。
ただし動きは滅法遅い。子供の疾走レベルだ。
確実に我へ当てるため軌道をコントロールするには、この速度が精一杯なのだろうな。
宇宙最強マンの顔に大量の汗が流れている。
おそらくはドーピングにより魔力を高めすぎて暴走寸前。気を抜けば技が明後日の方向へ飛んでいく、もしくは霧散してしまいそうなのであろう。
「派手さを捨てたというコンセプトの割に、結局は派手だな」
と、我はとりあえず感想を述べてみた。
いや呑気に言っている場合ではない。
我は毒のせいで足が動かない。そして足が治るよりも先に光線が到着してしまいそうだ。
つまり避けられないので、受けて立つしかない。
だが先ほど七宝を身で受けた時とは違い、今回の七頭一宝という技は少々キツイかもしれない。
下手すれば死ぬ。
我でさえもそう思ってしまうほどのエネルギーだ。
「しかし『師匠の教え』とやらを守って自己研鑽し生み出した技か。恐れ入る。ところで『教え』と言えば、我も今日は貴様から興味深いことを教わったぞ」
我はそう言いながら両腕を前へ掲げた。足は動かぬが手はなんとか動く。
右手の指を四本。左手の指を三本。計七本の指を立て……ええい面倒臭い。つまりは七宝の構え。
「『七色を捨て一色にし威力を得た技』も見事だが、我としては先程の『七色のままで威力を上げた技』の方が好きだぞ。ただの見せ技も工夫すれば、見せ技のままで破壊力を高め実用性を持たせることが出来る」
なるほど当然といえば当然だが、普通は他の効率的な技へ走ってしまうものだ。
一つの技への拘りは賞賛に値する。
「そしてその威力を上げるコツ。一度見てだいたい分かった。我も使ってみよう」
「……『一度見て』『だいたい分かった』?」
宇宙最強マンは軽く首を傾げた。
我は構わず喋る。祖父殿の弟子と相まみえたことで、我ながら喜んでいるのかもしれない。
「このコツで、正面から貴様の技を迎え撃とう。貴様のおかげで名も思い出したぞ。七宝。そうだ七宝だ。名前はどうでも良いと思いずっと忘れていたが、思い出すとそれはそれで感慨深い。貴様は祖父殿から学び、そして我は父上から見て盗んだ技。元は『殲魔』だったのかもしれぬが、父上はこう呼んでいたぞ──」
我の七本の指が、七色に光る。
「煌魔・七宝」
七色の光線が爆音と共に発現した。
光は辺りを激しく照らしながら、敵の赤い光線へと特攻する。
「……くっ」
光が激突。
しばらく拮抗していたが……色鮮やかな爆風と共に、双方の光は消滅した。
後に残るは砂埃と静寂のみ。
そして今までほぼ無表情であった宇宙最強マンが、初めて明確に表情を変えた。
「……ただの七宝で、私の七頭一宝を打ち消すなんて…………あっ」
透明な衝撃波──我の放った八本目の光線が、宇宙最強マンの胸を貫いた。
「……えっ。何が……起きた……?」
「ただの威力向上では芸が無いからな。貴様が追尾能力を付加したように、我は八色目を追加してみたのだ」
七本の指から七色の光線を出した後、一寸遅れて右人差し指から八色目を出した。
それも透明色……と言っても、ただ視覚で捉えにくくした色。
つまりこの試合場に敷き詰められた砂土と同じ、薄茶色。
七色光線の派手さをカモフラージュとし、この透明な一撃で不意をつく、という目的である。
適当に思いついた追加攻撃だが、上手いこと機能してくれたようだ。
「……負け。あなたは私より強い」
宇宙最強マンはそう言って仰向けに倒れた。
胸に空いた穴から血が噴き出し、地面に血だまりが出来る。
「でも七宝と言いながら八色目を出すなんて。これじゃ八宝」
「言われてみればそれもそうだが、我は技の名前に拘らない性格なのだ」
「そう……師匠とは逆の性格。ごほっ」
宇宙最強マンは咳と共に血の塊を吐いた。
胸に空いた穴が治らない。我の魔力が宇宙最強マンの魔力を上回り、再生能力を妨げているようだ。
「…………師匠と最後にあった時、故郷を出て新しい『世界』を作ると言っていた」
宇宙最強マンが語りだした。
これはアレだな。負けた後に良い感じの言葉を残すヤツだな。
しかし祖父殿が作った世界か。それはきっと魔界のことであろう。
「本当は私も、その『世界』へ連れて行って欲しかった。師匠と一緒に行きたかった」
「着いて行けば良かったではないか」
「私がまだ子供だったから、許して貰えなかった」
宇宙最強マンは仰向けのまま目を細め、空を眺めた。
「私には、師匠相手にやり残した事が二つある……ってさっきも言ったけど。一つ目は師匠を越える事。そしてもう一つは、師匠に言葉を伝えること」
「言葉?」
「うん。私は、師匠を」
そこまで言って、固く瞼を閉じた。
「ううん。やっぱり、いい」




