34話:上には上がいる
「だから……卑怯かもしれませんが、ここはぜひ三人で戦って欲しくて……」
「”卑怯”でも”外道”でも構わないけど、私は単純にアイツらと一緒ってのが”嫌”なのよ!」
呼び出しマンが、必死にレイスを説得している。
その説得中、我は暇だったので、
「貴様、中々に毛深いな。夏場は困らないか?」
「ガハハハハ。夏毛に生え変わるんだぜ」
「ほう。それは便利だな」
と、敵であるかみビリマンと雑談していた。
我は闘技場観客席のヒーロー関係者席に座り、試合場のかみビリマンを見下ろしている形になる。
かみビリマンはこの世界の大敵らしいが、我としては別に個人的恨みなどは無いので普通に会話しても構わんだろう。戦いになれば非情に殺すので問題は無い。
フォルも最初は元気に会話へ参加していたが、いつの間にか我の肩に頭を寄せ眠っていた。子供は突然充電が切れたように静かになる。
魔界の王族は年に三時間程度の睡眠しか必要無いのだが、成長期である子供の場合は話が少し違ってくる。
大人と同じ年三時間のしっかりとした本睡眠とは別に、月に数十分の仮眠が必要となるのだ。このタイミングで、ちょうどその仮眠時期になってしまったのだな。
「あーもーハイハイ。分かった分かったわよ”クソ”ども。じゃあ”三人”でやったげる」
呼び出しマン必死の交渉の末、ようやくレイスは折れた。
かみビリマンは「ガハハ、やっと試合開始のようだなあ」と試合開始の定位置へ戻る。なんか律儀な奴だな。
ともかく我も戦いの準備をせねば。
そのためには、フォルを起こさねばならないのだが……
「フォル起きろ。出番だぞ」
「あらぁ……? やーっとですの? わたくし、ちょっと眠いですの……寝ちゃいそうですの……」
「眠っていたぞ実際」
「まだ寝てませんのぉ……」
フォルはムニャムニャ言いながら、我の首に抱きつく。
「起きろ。離せ」
「起きてますのぉ……ぅぁ……ジャスティース……スリープ……」
寝ている。
困ったな。これでは『三人で戦ってくれ』という望みを叶えられない。
仮眠とは云え、悪魔は睡眠から中々醒めない。
無理矢理起こそうとすると、うっかり殺してしまうかもしれない。
他人を殺すのに抵抗は無いが、肉親を殺すのは避けたい。以前も述べたが悪魔は身内に甘いのだ。
さて、どうしたものか。
と思いつつ、ふとレイスを見ると……
「へっ。”チャ~ンス”」
意地が悪そうな笑みを浮かべ、白い布きれのような卑猥な服をひるがえし、関係者席から試合場へ降り立った。
「ほら審判、さっさと”試合開始”よ!」
間髪入れずに戦いの準備。どうやらこのまま無理矢理一人で戦う気らしい。
「ちょ、ちょっと……レイスさん……!?」
呼び出しマンは、先ほどまでの説得がまるで無意味であったことに頭を抱えた。
とはいえ神どもはワガママであると相場が決まっている故、説得しようと思ったこと自体が間違いだったのやもしれぬ。
ちなみにレイスは「審判」と言っていたが、この試合に審判はいない。
つまり試合開始のタイミングは対戦相手との合意で決まる。
「おいおい良いのかい、エロい格好のねーさんよぉ」
「これだから男は……全然エロくないわよ、”神聖”な恰好なんですけどー? とにかく良いのよ。”一対一”で勝負よ!」
「俺様はどっちでも構わんがなあ。後悔するなよ!」
始まってしまった。
呼び出しマンは「ああ……せっかく三対一だったのに……」と顔を引きつらせている。
だがこうなったら仕方がない。レイスが負けても、どうせ我一人でどうにか出来る。
よく考えれば『三対一で戦ってくれ』という望みは副次的なものであり、本当の望みは『宇宙を支配しようとする奴らを倒せ』だからな。
そうなると我としてはむしろ、ここでかみビリマンに勝って欲しいとさえ思う。
左遷されたとは言えレイスは神。我の責任でない所で消えてくれるのは歓迎だ。それに先ほど、かみビリマンとはちょっとだけ仲良くなったしな。
頑張れ、かみなりビリビリマン。負けるな、かみなりビリビリマン。
どうせ後で我が殺すけど、とりあえず今は負けるな。
と我が敵方を応援している間に、レイスとかみビリマンは手合わせ前の会話をしていた。
「アンタ、”かみなりビリビリマン”って名前だっけ?」
「そうだ。てめえを殺す超人の名前だ。きちんと覚えておくことだな」
「うざ。きも」
レイスは罵倒しつつ、右手五本の指をかみビリマンへ向けた。すると指先から火花が走り、雷撃がかみビリマンへ襲い掛かる。
「おおってめえも雷の能力者か! だがその程度じゃあ、俺様に──」
かみビリマンは両手を広げ、それぞれの手から電気を発した。
二つの雷が線を描くように飛び、かみビリマンの胸の前で合わさり巨大な雷光の玉と化す。
「──敵わねえぞ!」
関係者席から身を乗り出すようにして見ている呼び出しマンが、「あれは……殴る蹴るマンを倒した必殺技……!」と焦る。
かみビリマンの生み出した雷球が、レイス目掛け高速で放たれた。
雷球はレイスが放った霊撃を打ち消し、尚も勢い衰えずに前進する。
「喰らえ、雷虎撃ィ!」
「”敵う”わよ」
レイスは雷球から逃げることもせず素手で払いのけた。バチリと大きな音がして、何事もなかったかのように雷は消えた。
「んげえ!? どういうことだ、てめえ、どうやって俺の雷虎撃を消した!?」
「短くて”ショボい”名前の技ね。威力もショボショボ。普通に”散らした”だけですけどー?」
レイスは仰け反り、偉そうに言った。
「うがが……やるじゃねえか! 雷虎撃をものともしねえ奴ぁ、てめえで三人目だぜ!」
かみビリマンはそう言って、背後をちらりと見た。そこには自称ミステリアスパートナー1号と2号がいる。
雷虎撃とやらが効かなかった先の二人とは、あの1号2号のことなのだろう。
「どうやら久々に本気を出さねえといけねえようだな」
「へえ。”本気”ねえ。いいわよもうアンタの底は分かったから」
「言ってくれるな、ねーちゃん! おらあああ喰らえええ!」
かみビリマンは、再び両手に雷光を発生させた。しかも先ほどよりも数段大きく、ビリビリとうるさい。まさにかみなりビリビリマンという名前に相応しい、ビリビリな技だな。
しかし……派手な技というのも考え物だ。
自分の技が出すビリビリとした光、音、空気の流れにより、かみビリマンは己の頭上の変異に気付いていない。
彼の頭上──天井の無い闘技場の遥か上空に、もくもくと黒い雲が発生している。
すなわち、
「ほい。超真必殺迅雷頂点神技”女帝の雷撃”」
「うおおおおおおお! 真・雷虎……おおっ!? な、なにいいいいいいいいいい!?」
雷雲から放たれる巨大雷──レイスの長ったらしい名称の必殺技が、かみビリマンの頭上にて準備されていたのだ。
レイスは我と戦った時の『名前が長すぎて隙だらけだった』という敗因から学んだのか、以前は技名を唱え終わってから放っていた技を、今回は技名を唱えながら放った。(名前を変えるのはダメだったらしい。というか毎回名前違うし)
そのせいでギリギリまで気付けなかったかみビリマンは、雷をモロに受けてしまった。
「うがああああ! 俺は! 俺は宇宙一の雷の使い手なのにいいいいい! 馬鹿なあああああああああ!」
「”馬鹿”はアンタよ! バーカバーカ!」
「うぎゃあああああああ!」
かみビリマンは黒焦げの炭となり、砕け散った。
雷への耐性がありそうな雰囲気の奴だったが、レイスの雷はその耐性を真っ向から打ち破る威力であったようだ。
もしくはそもそも電気耐性は無かったのかもしれない。
今となっては、どちらなのか確認も出来ぬ。
「かみなりビリビリマンって名前のくせに、きちんと”雲から作った”雷を出さないからよ。私の”ビューティフル”な”様式美”の勝ちね! バーカ! ざまああ!」
レイスは笑っている。
神が無傷で勝ってしまったのは少し残念だが、ともかくこれでヒーロー陣の一勝だ。
「やった……し、しかし信じられない……あの殴る蹴るマンと木刀で殺すマンをあっさり倒した、かみなりビリビリマンを……更にあっさり倒すだなんて……こ、これが禁忌の呼び出し術か……」
呼び出しマンは、勝った喜びよりも驚愕の気持ちの方が大きいようだ。
その呟きを耳聡く聞きつけたレイスは、何故か我に向けて勝ち誇った顔を見せた。
「ふふーん。私が特に”エリート”なだけよ。それよりこれ”勝ち抜き戦”なのよね? じゃあこのまま私が”三タテ”してあげるから──」
レイスは試合場から、敵方関係者席に立っているミステリアスパートナー1号2号を指差した。
「さっさと掛かってきなさい!」
「くくく……」
1号2号は、悔しがるどころか余裕そうな笑い声を出している。
ふむ。これは我にも何となく予想が付くぞ。
きっと1号2号は、次にこう言うはずだ。かみなりビリビリマンは俺達の中で最弱──
「かみなりビリビリマンは俺達の中で最弱。ミステリアスパートナー2号である俺は、3号であるかみなりビリビリマンの何倍も強いのだ……次は上手くいくかな、ヒーロー諸君?」
ほらな。言った。




