33話:男性不信の神様
「私はね、ずっと”エリート”街道を走ってたのよ!」
女神……いや、今は転職し召喚獣の仕事をやっているらしいレイスが、我の胸倉へ掴みかかった。
鬱陶しいので手を払いのけると、レイスは大袈裟に「痛ぁーい! 結局男は”暴力”なのよね!」と喚く。
「何よバーカ! アンタのせいで、私は左遷されて”召喚獣”なんかになっちゃったのよ! どうしてくれんのよ!」
「我も召喚獣だぞ。良い仕事ではないか、責任が少なくて気楽だし」
「全然気楽じゃないわよ! たまに命が”危険”にさらされる時もあるって聞いてるわよ!」
そう言われるとそうかもしれない。
ここ一か月くらいでも、魔界の召喚獣は十人近く死んでいる。
「あらメッシュお兄様。あの変態さんみたいな恰好のお方とお知り合いですの?」
「……知り合い、なのですか……? それなら話もスムーズに進みそうで、助かるのですが……」
フォルと呼び出しマンが、そう尋ねてきた。
知り合いという言葉の意味は『互いの顔と名前を知っていて、ある程度の付き合いがある』というもの。そして我とレイスには、知り合いと呼べるレベルの付き合いは無い。
しかしそれを細かく説明するのも面倒臭いし、別に何でも良いか。
「ああ知り合いだ」
「そうなんですのね。見たところ天界のおばさまらしいですけど、お兄様ったらお顔が広いんですのね」
「おばさんじゃねーわよ。何この”クソガキ”!?」
レイスはフォルを睨みつけた。神のくせに柄が悪いな。
しかしフォルは子供とは言え魔界の王族。神の恐喝に怯えることもなく、平然とレイスを眺めている。
「あっ! ねえねえお兄様!」
フォルは何かを思いついたようで、我の耳に口を近づけ小声で話し掛けてきた。
「あの方、きっと…………なんて…………だけど…………ですわよ。うふふ」
「ふむ。なるほどな」
「ですの。ぷーくすくす」
耳打ちし、レイスを指差しながら無邪気に笑うフォル。
笑われたレイスは不思議そう、かつ不機嫌な表情になる。
「な、何よ? 何”笑って”んのよ?」
「別にー。笑ってませんことよ。くすくす」
「くすくす”言って”んじゃないのよ!」
レイスは凄み、我に「教えなさいよ!」と迫ってきた。
「大したことはない。ただフォルが貴様のことを──」
「あの方、きっと殿方に騙されて捨てられた過去なんかがお有りなのですわ。『結局男は~』なんて言葉が出るあたり、コンプレックスにまみれてますの。だから『男になんか興味無いし!』って顔してらっしゃるけど、内心本当は恋人が欲しくて焦ってるんですの。うふふふ。あははは。うふふ」
「──と、言っただけだ」
「あーもうお兄様。ヒーミーツ! でしたのにー。図星突かれておばさまが怒っちゃいますの。ふふふふ」
「な、な、な、なぬあああ、なんですってーっ!?」
レイスはフォルを捕まえようと手を伸ばした。が、フォルはするりと避け逃げる。レイスの腕が放つ衝撃波で周辺の床や壁へヒビが入った。
フォルのやつめ。女神で遊ぶとは将来有望な悪魔だな。後は勇者ごっこの趣味さえなくなれば良いのだが……
「あの……もういいですか……? そろそろ、本題に入りたいのですけど……」
呼び出しマンが困った顔で、おずおずと言った。
そして試合場でスタンバイ中のかみなりビリビリマンも、「おい、やるのかやらねえのか!?」とイライラしているようだった。
◇
呼び出しマンが現状の説明をすると、レイスは「へえそっか。だいたい分かったわ」と頷いた。
「ここは私が管理する”世界”じゃないから、”宇宙平和”とかはどうでも良いけど。つまりはあの”マッチョ虎マン”と他二名を倒せば良いのね?」
「虎マンじゃねえ! 俺様はかみなりビリビリマンだ」
かみビリマンが大声で訂正した。
ちなみに彼は呼び出しマンが説明している間、ずっと黙って待っていてくれた。意外と律儀なやつだ。
「”雷”ビリビリですってえ……? ふーん。私の真必殺破邪神聖神技”女帝の雷撃”と被ってるじゃない。不愉快!」
レイスは唇を尖らせ、かみビリマンを見た。
そう言えばこやつの長ったらしい名前の必殺技は、巨大な雷で攻撃するものであったな。
「レイスさんには、メッシュさんたちと協力して貰って……三人がかりで、かみなりビリビリマンを倒して欲しいのです……お願いします」
呼び出しマンは我へ頼んだ時と同じように、レイスへ頭を下げた。
レイスは「ふふーん」と偉そうな顔で応える。
「そういうことね、分かったわよ。じゃあ私”一人”で全部”片付ける”わ!」
「いや……あの……三人で、お願いします……」
「分かったわ。”一人”でやるから、アンタたちは”間抜け面”して見学してなさい!」
「いや……三人……」
呼び出しマンが再び困り顔になる。
「あのおばさま、ちょっとお耳が悪いのかしら? お婆さまですのね。うふふ」
「ちょっと、聞こえてるわよ”クソガキ”!」
耳が悪いわけではないらしい。
「なら何故一人でやろうとするのだ? 術師は『三人でやれ』と望んでいるぞ。召喚獣ならその望みを叶えるべきであろう」
我がそう問うと、レイスは「チッ」と舌打ちしながら、こう答えた。
「私がアンタらを嫌いだからよ!」
分かりやすい理由だな。さすが神だ。




