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12話:おっぱいファンタジー

「やったなメッシュ! ベスト四進出だ!」

「うむ。次勝てば、最低でも二位賞品のドライブレコーダー(スポンサー協賛品)が貰える事になるな」


 ここは選手控え室。

 ベスト四まで進んだ者は、各々に個室を与えられている。


「よっしゃ! まずはドラレコ目指して頑張るぞ! そして最終的には騎士の称号とタイヤだぜ!」

「ああ。ドラレコとタイヤ……ふむ……」


 ドライブレコーダーを餌に志気を高めようとしてみたが、イーキリはともかく我の志気はさほど上がらなかった。

 我は自分で飛んだ方が早いため、自動車を所持していない。ドラレコもタイヤもあまり魅力的な賞品には思えないのだ。というか多分イーキリのものになってしまうしな。


 と、今更ながらのモチベーションダウンに苦しんでいると、控え室の扉がノックされた。


「おお、誰だ!? 今ノリにノっているこのイーキリ様に用があるのは誰だ!?」


 イーキリは調子に乗っていて、かなりウザい。


「いいから早く扉を開けてやれ」

「分かってるさ!」


 扉を開けると、イーキリより四、五歳ほど若い男児が立っていた。

 我とイーキリの姿を確認し、顔を輝かせている。


「試合見てました。凄いですね。僕、お二人の大ファンになったんです。サインください!」

「おおそうかそうかー! よしサインあげよう! ええっとお……どういうサインがいいかな? なあメッシュ」

「名前を書けば良いだろう」

「そういう事じゃ無くて、なんかカッコイイ感じの文字にするにはどうしようって話だよ!」


 イーキリは浮かれた様子で色紙とペンを受け取った。しかしサインを書くのは初めてらしく、どのような書き始めにするか迷っている。

 そんなイーキリの前で、ファンの男児はそわそわと話を続けた。


「ありがとうございます! 実は僕もイーキリさんと同じ召喚術師で、カス職業とか言われてイジメられてたんですけど……」

「おお、そうかお前も……!」

「でも、お二人のおかげで勇気を貰いました! 騙されたと諦めてたんですけど、ゲームみたいにちゃんと強くなれるんですね!」

「そうだ! そうだぞ! ホントは最強職業なんだよ! レア職だしな!」


 子供同士で慰め合うようにはしゃいでいる。

 一見微笑ましくもあるが、しかしイーキリの中身は元四十代の中年男性。更にこの世界でも十年以上生活しているため、実質の精神年齢は五十過ぎ……


 いや、待てよ?


「貴様。今『騙された』『ゲームみたいに』と言ったな?」

「え? あ……はい。そうですね、言いました……けど、え……?」


 この世界は、イーキリが元々いた世界で作られたゲーム『ブレイブ・グランディア』にそっくりだと言う。

 イーキリは転生時に『ゲームでは最強職業だったから』という理由で召喚術師の職を選択……しかし実際はゲームと違い最弱の職業だった。「神に騙された」などと愚痴をこぼしていたな。

 そして先程の男児の言葉には、イーキリの愚痴と同じようなニュアンスが含まれている……ような気がしないでもない。


「おいおい、急にどうしたんだよメッシュ?」


 イーキリは自分に関連する事ながら気づかなかったらしい。というか黙っていろ。


「もしや貴様は、別の世界から転生してきた訳ではあるまいな?」

「え……それはその……も、もしかして……お二方も?」


 こう聞き返したということは、つまり我の予想が的中したという意味であるな。


「我は違うが、このイーキリはそうだ」

「ええ! イーキリさんも異世界転生者なんですか?」

「ええ! ってことは、お前も異世界転生者なのか!」


 イーキリはやっと会話の流れを理解した。


「ってことは、お前も! 前世であのゲームにハマって、この世界に……?」

「はい! そうなんです! 僕は前の世界でも丁度今くらいの歳だったんですけど、あの人気RPGゲームにハマって……ハマりすぎて一睡も食事もせずにプレイし続けて、いつの間にか死んでて……」


 馬鹿なのか。

 しかしやはりそうか。この男児もブレイブ・グランディアのプレイヤーであったと……


「気が付いたらあのゲーム、『おっぱいファンタジー』に似ているこの世界に転生していたんです!」




 違うゲームだった。




 ◇




 おっぱいファンタジーの男児が帰った後、次は更に幼い少女が訪ねてきた。

 この流れ。まあ当然のようにその子も召喚術師であり、転生経験者であった。


「実は私は寿命を全うしたお爺ちゃんだったんですけどぉ……死ぬ直前まで孫と一緒にハマってたゲームに似てるぅ、この世界に転生出来たんですぅ。転生直前に神様に会ってぇ、ゲームでは最強職業だった召喚術師にして貰ったんですけどぉ……ああ~ん! 騙されましたぁ!」


 元爺さんという割には、調子よく女児を演じて可愛こぶっているではないか。


「で、そのゲームの名は?」

「それはもちろん『どホルモンのぶ子と緑の巨人伝』ですぅ。イーキリさんと同じくぅ」

「いやちげえよ! ブレイブ・グランディアだろ!?」

「えー? わかんなーい。うけるぅー」



 そして少女は我らのサインを貰って帰った。



「一体どういうことだ!? メッシュ、分かる?」

「分からんが……どうやらこの世界に転生してきたのは貴様だけでは無かったようだな。ここは転生の名産地か何かなのか?」


 この事実が何を意味するのか?

 我とイーキリは、頭を捻らせしばらく考えたが……


「さっぱり分からぬな。というかどうでもいい。さっさと優勝して帰ろう」

「そうだな! オレも騎士になって皆を見返してモテモテハーレム生活になれば他はどうでもいいや!」


 細かいことは考えず、前向きにいこうと決めたのであった。




 ◇




 そして準決勝。

 大きな歓声と共に、我とイーキリは入場した。

 試合場中央には既に対戦相手が立っている。


「あなたが大会を騒がせている、異界からの侵入者ですね?」

「侵入者というか召喚獣だが、まあ侵入者と言っても間違いではないか」


 相手は女。

 裾の長い純白の服に身を包み、長い錫杖(しゃくじょう)を持っている。

 おそらくはこの世界の神官や巫女だろうか……我が嫌いな『空気』を醸し出しているな。


「私は神官リリ。騎士の称号には興味ありませんが、主の神託を受けこの場にいます……神託、それは異界の邪悪なる悪魔を滅すこと。そしてこれまでの試合を見て理解しました。異界の悪魔とは、まさにあなたの事に他ならない」


 最初から我目当てで出場したという意味か。

 神託とは、これまた我の嫌いな言葉だな。


「だがやはり神官か。自己紹介と分かりやすい経緯説明恐れ入る。我の名は……」

「悪魔の名など聞く気はありません。魂が汚れます。いざ、浄化の光で消えなさい……必殺神技・”聖なる破邪の希望(ホーリー・ホープネス)”!」


 言うやいなや、神官女は錫杖からまばゆい光を放った。

 今までの相手と同じく『”』付きの必殺技名を叫んだが、これはもうルールなのだろうか?


 しかし……むう、肌がピリッとする。間違いなく神々の力を借りているようだ。

 若いのにやるではないか。イーキリは調子に乗って自分のことを天才と呼んでいたが、本当の天才はこの神官女であろうな。


 ただし、


「どうです……さあ、消えなさい悪魔!」

「すまぬな。そのホーリーなんとかという技で我を消そうと思うのならば……」


 我は眩しがって左手で目の上にひさし(・・・)を作りながらも、光の中をすたすたと歩き、神官女に近づいていった。

 女は慌てて「な……っ!? ち、近づくな汚らわしい!」と後ずさる。が、我は地面を蹴り一気に距離を詰めた。


「五万年くらい掛かるぞ」

「あぐぅ……」


 女の錫杖を折り、そのまま脇腹を殴り気絶させた。

 当然、我の勝利。


「忘れていた。必殺”レーザー虹”」

「おぐっ」


 可哀想だが、駄目押しで七色光線を喰らわせておいた。


「やったー! メッシュ、やったぜ決勝確定! 最低でもドラレコ!」


 イーキリが試合場の端で喜び飛び跳ねている。

 ドライブレコーダーか……やはり我的にあまり嬉しくないが……

 む、そうだ。換金して菓子を買えば良いのでは無いか? 


「おいイーキリ。ドラレコは売――」




 …………




「――れ」


 突然、我の視界からイーキリが消えた。

 イーキリだけではない。試合相手の神官。審判。観客。人だけでなく試合場の壁、床、天井。

 確かに今までそこにあった者や物が、唐突に消えてしまった。


 真っ白で何もない。全てが綺麗に無くなっている。

 以前戦ったドラゴなんとかの世界と似ている、この空間は……


「何者かが、我を別次元へ転移したというのか? いや」


 我はそんな攻撃に気付かぬ間抜けではない。

 むしろ転移されたのは、


「我以外の全てが、別次元と入れ替わった……入れ替えられた(・・・)のか」


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