10話:う●こ漏らし魔法の恐怖
人間を自殺へ追い込む方法。
魔界にはその技術でメシを食っている者もいる。
そして我は元魔王。当然その概要くらいは知っている。
しかも今回の標的はただのイジメっ子。
イーキリの学友、つまり多感な十代の学生だ。
大人の場合は長期的に精神もしくは経済を責める必要があるが、子供なら簡単。
ただ『普段の行動圏にいる近しい者達から嫌われる』ように仕向ければ良いのだ。
他人から嫌われた時、大人ならば開き直って図々しくもなれようが、子供は中々それが出来ない。
何故ならば子供は自分の世界が狭いため、価値観における友人の存在比率が大きいのだ。
それもイジメっ子のようにクラス内カーストが比較的高めの者ならば、急に皆から嫌われたギャップとショックは大きいだろう。
そして子供の力では逃避行動をとる事が中々出来ないため、ただ嫌われているというだけで、精神がどんどん追い詰められていく。
ここでいう逃避とは転校や法廷の事であるが……もしそれが出来るようでも、逃避先を念入りに潰せば良い。
さて。では肝心の『嫌われる方法』であるが。
「我の魔法で、イジメっ子のリーダーをクラスメイトたちの目の前で脱糞させるのだ。その際は恋人などが隣にいると尚良い」
「洗脳とかじゃないのかよ!? だけど……う●こ漏らし魔法か! それはそれで凄いぞオレの召喚獣メッシュ!」
「ただし一度の脱糞では同情されるだけの可能性もあるので、何度も何度も毎日脱糞させるのだ」
「おおお、連続うん●魔法! スゲーぜオレの召喚獣メッシュ!」
イーキリは、いつの間にか我をメッシュと愛称で呼ぶようになっている。
まあ呼び名などどうでも良いが。
以前のドブネズミおっちゃんは『ほぼC級なのにギリギリB級の召喚術師であるため、報酬を払い続けるのが困難』という状況だった。
一方のイーキリは逆だ。『ほぼC級なのにギリギリD級であるため、報酬を余裕で払い続けられる』というケース。
我が見積もった所、おそらく半年は延長報酬を払い続けられるであろう。
だが我は半年もここにいるつもりはないし、出来れば今日中に終わらせたい……のだが、自殺に追い込むという長期スパンの任務。最短一週間は掛かるか。
一週間以上もみんなの目の前で脱糞を続ければ、さすがのイジメっ子も精神がボロボロになるだろう。そこからすぐ自殺するか、粘りまくるか。粘って家に引きこもった場合は、家を潰して外に放り出せば良い。
ともかく根気の勝負だな。
レンタル召喚獣にとって泊まり込みの仕事は別に珍しいケースでもない。我は初めてだが、たまには良いだろう。
「我の魔法……いや、念動力なので超能力と言った方が良いか。とにかくその力でイジメっ子の腸と肛門括約筋を刺激し脱糞を促す。ただしこれは繊細な技量を必要とするため遠距離からは出来ぬ。せめて教室前まで近づく必要がある」
「ってことは学校へ侵入しないといけないのか! メッシュは目付き悪いから、警備員に見つかって不審者騒ぎを起こさないでくれよ!」
「目付きの悪さは関係ない。傷付くのでやめろ」
◇
そして翌日。
さっそく脱糞計画を決行すべく、我はイーキリが通う学校へと侵入した。
イーキリは先にいつも通り登校し教室にいる。
我は感知能力でイーキリを察知し、教室の場所を把握し近づく……そしてイジメっ子の腸と尻をヤッてしまう。という算段である。
「ふむ、教室は三階にあるようだな」
イーキリの教室を確認した我は誰にも見つからぬよう注意して、まずは校舎入口である下駄箱置き場に忍び込み……
「待ちなさいキミ。怪しい奴だな?」
即行見つかった。
警備員のおじさんだ。
「怪しすぎる……なんだその目付きの悪さは!」
「目付きの悪さは生まれつきだ。傷付くのでやめろ」
しかし困った。いくら何でも見つかるのが早すぎた。我は隠密行動が苦手なのだ。
先程イーキリから「教室に入るまでは騒ぎを起こすな」と頼まれた手前、警備員を殺して片付けるのは駄目であろう。
仕方がないので、この下駄箱置き場から千里眼にて教室の様子を伺いながら、遠距離で念動力脱糞コントロールをおこなうか?
とも考えたが……いや、やはりそれは無理だ。
脱糞コントロールは精密作業ゆえ、この距離でおこなえばイジメっ子の腸と肛門をグチャグチャにして殺してしまうだろう。
「おい何を黙っているんだねキミ。早く帰らないと警察を呼ぶぞ? な、なんだ? 怖い顔をしても無駄だぞ」
「怖い顔は元々だ。いや怖くない。というかちょっと黙っていろ警備員のおじさん」
とはいえ他に方法も思いつかない。脱糞コントロールをやるかどうかはともかくとして、とりあえず千里眼で教室内の様子だけでも見ておくか。
…………
「オラッ! 生意気なんだよテメー!」
「やーめーてーよー」
「抵抗すんなよ無能召喚術師のクセに!」
「やーーめーーてーーよーー」
ああ、イーキリがイジメられている。イジメっ子たちに鉛筆で腕をチクチク刺されているではないか。
担任教師もそれを見て見ぬフリして、別の生徒と談笑している。
あ、いや流石に見て見ぬフリは無理があると思ったのか、先生がイジメ行為に気付いたぞ。
気付いた上で、
「おいおいお前ら。仲良くふざけ合うのは良いけど程々にな(笑)」
と言っている。「(笑)」の時に満面の笑顔だ。
ふむ。魔界の教師に欲しい逸材だな。
しかしこれではどうしようもない。
すまぬが今日は我慢してくれ、イーキリよ。
◇
「という理由で今日は無理だった。すまぬな」
「なんだよクソッ! つかえねえなあ!」
「まあそう言うな。便器に顔を突っ込まれそうになった時に、念動力で便器を破裂して助けてやったではないか」
遠距離からでも、ただ破壊するだけなら容易いのだ。
「それは助かったけど、便器壊れたのをオレのせいにされて先生に怒られたし……クソクソクソッ!」
「そのクソとは、便器に掛けた洒落か?」
「違うよクソッ!」
イーキリ宅、イーキリの部屋にて。
脱糞計画の失敗+αに怒り心頭なイーキリは壁を殴った。そして拳の痛さに「うふぁああ」と悶え四つん這いに伏す。
拳の痛みが治まった後、床に伏したまま頭をばりばり掻き、我を見上げた。
「とにかくメッシュ、お前が警備員に見つからずに教室に近づけば良い話なんだろ!? 体を透明にするとか霧になるとか、ソッチ系の技は無いのかよ!」
「無い。我はどちらかというと破壊活動向けの悪魔であるからな」
「じゃあどうするんだよ! 明日こそは脱糞でアイツらを自殺させたいんだけど! でもメッシュのせいで警備員のクソどもが張り切ってるし……」
「脱糞は諦めて、別の方法を考えるしかあるまいな。いっそ単純に殺すか? 足の先から少しずつ徐々に徐々に血肉骨を削って殺すという拷問などなら、貴様の気も晴れるだろう? 拷問の執行は家族や恋人にやらせると尚良い」
そんな提案を聞き、イーキリは「それ良い!」と我を指差した後、またすぐに「いやダメ!」と言い直した。
「ただ殺すだけでなく、アイツらの立場を貶めた上で自殺させるってのが重要なんだよ!」
「どうしてそこに拘る?」
「だって、そうすれば相対的にオレの立場が高くなるだろ! オレは皆を見返したいんだよ!」
色々と倒錯している。やはりこの少年、頭はあまり良くないな。
「イジメっ子の立場が底に落ちたとしても、自殺していなくなったら、どうせまた貴様が底になるだけだぞ」
「ううっ!? そ、それは……確かに……」
「貴様は『無能召喚術師』と馬鹿にされていたな。皆を見返したいのならば、無能でない所を見せれば良い。学生だし勉強でも頑張れ」
「勉強!? 勉強ねえ。勉強かあ……」
イーキリは露骨に嫌そうな態度を取る。
勉学は苦手なのか?
「俺は元々、四十代になってもブラック零細で飛び込み営業やってた男だしなあ……そりゃあ、勉強なんて……ねえ?」
「そうか。それは難儀だな」
なにか面倒臭くなって来た。そもそもこやつの立場などどうでも良い。我は身の上相談員ではないぞ。
昨晩この世界の菓子を食べたがあまり旨くなかったし、もうさっさと切り上げて帰りたいのだが……どうにか『イジメっ子を今すぐ殺して終わり』という方向に持っていきたい。
と、その時。
窓の外から大きな音……いや、大きな声が聞こえて来た。
『今年もやってきました、エキサイティング大魔術大会! ついに明日開催です!』
何事だ?
窓から確認すると、巨大拡声器を上に乗せた車がゆっくりと走っている。
声はあの拡声器から聞こえているようだ。
『神様から授かった職業とスキルを使って、格闘トーナメントを勝ち上がれ!』
なるほど格闘大会の宣伝カーか。
この世界の娯楽という訳だな。
というかここはブレイブ・グランディアなるゲームの世界に似ていると言っていたが……ファンタジー世界っぽいタイトルなのに、普通に自動車とか鉄筋コンクリート造りの建物とかがあるのだな。
『優勝者には豪華賞品として自動車の冬用タイヤ(スポンサー協賛品)と、な、な、なーんと騎士の称号が! 飛び込み参加もお待ちしています! 皆さん、ふるってご参加オアご観覧を!』
「ここここ、これだ! これだよ!」
「どれだ?」
イーキリは勢いよく立ち上がり、窓の外を指差した。




