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 そして数時間後、私達は再度『ホーム』の地を踏む事が叶った。今か今かと待っていたメイドの歓迎を受け、その日はお腹がはち切れる程彼女の特製スコーンを食べて就寝した。


―――大丈夫、既に“銀狐”を通じて手配済みだ。明日の昼頃には全て終わっているよ。


 そして己を取り戻した以上、まずは偽者の自分達。即ちララ、及びシン・アンダースンとは永遠に決別しなければならない。つまりは似た年格好の死体を二つ用意し、私達が二度と聖族政府の手を煩わせない存在になった、そう偽装する必要があるのだ。

 果たして翌日。裏組織からの吉報を聞き、動植物達にも歓迎され、私とアダムはようやく訪れた自由を満喫した。日長一日中彼等と語り合っていても、この『ホーム』では誰も邪魔などしない。長年に亘る孤独は日に日に満たされ、三日もすると完全に本来の私達を取り戻していた。

 しかし―――我が家の巨大過ぎる空白に目を瞑れたのは、たったの一週間だった。

「どうなっても知らないからね、僕」

 ジョシュアに懇願し、私達がやって来たのは“赤の星”オルテカ大学。目的は勿論私達の姫君、キューに会うためだ。

 仮令記憶が封印されていても、私達に接触すれば思い出すかもしれない。そこに希望を托した上での行動だった。が、


「キュー!」「?何ですか?」


 メアリーさん似の美人に成長しても、相変わらず屈託の無い笑顔を浮かべた彼女。無警戒で近寄り、私達を見て首を捻る。

「えっと、別の学部の人ですか?生憎私、教育学部以外の教室は殆ど分からなくて。あ、それで大丈夫なら案内しますけど」

「い、いや……」

 ショックで卒倒しかけたアダムの背を突き、私は首を横へ振る。

「ごめんなさい。私達、間違えて構内に入ってしまっただけの部外者なの。忙しいのに呼び留めてごめんなさい」

「気にしないで下さい。ここの正門って分かり辛いから、偶に迷い込む人がいるんですよ。―――あれ?でも私の名前」

「た、偶々よ!私、人の名前を当てるのが得意なの」

「へえ、凄いですね。あ、もう講義五分前だ!私、そろそろ行きますね」

 ペコリと頭を下げ、彼女は小走りで建物へ。遠ざかる背を呆然と見送る私達へ、ほらね、“紫”がわざと大きな溜息を吐いた。

「だから止めといた方が良いって言ったのに。キューに掛けられている術は、君等の物とレベルが段違いなんだ。定期メンテナンスもバッチリだしね。感動物の映画みたいな展開、期待するだけ無駄さ」

「ぐっ……だがそうなると、お前の力でも歯が立たないのか?」

 質問に、まさか、ジョシュアは小馬鹿にしたように笑む。

「あんなの、所詮は小娘の児戯だよ。にしても二人共。こんな往来で記憶を解放して、その後は一体全体どうするつもりだったのさ?」

 鼻を鳴らす。

「事前準備も抜きに連れて帰ってみなよ。即座に君等の時の比じゃない大捜索が行われるだろうね。宇宙中に指名手配が回されて、あっと言う間に詰みさ」

「そう、ね。ごめんなさい、軽率だったわ……キューはメアリーさんの実の娘、しかも一番助手だもの。仮令本人に犯罪性が無くても、政府としては抑えておかずにいられない」

「別にあんな能天気娘、放置した所で何も起きやしないのにね」くすくす。「―――ま、最凶最悪なウイルスを除いては、だけど」

「だな」

 普通に大学生活を満喫している言う事は、まだ例の難病は発覚していない筈だ。それはそれで凄く怖い事だけど……。

 帰路の途中、アダムは案内役に先に戻っているよう頼んだ。想定済みだったらしく、あっさり姿を消すジョシュア。とは言え、覗き趣味で心配性の彼の事だ。異能を使い、私達の意識の外側に留まっているに違いない。


「―――赦さねえ、あいつ等だけは」「私もよ、アダム」


 新参者の私とアダムだけならまだいい。だけど、あの無作法な大人達は『ホーム』の女主人を、あまつさえ私達の姫君を奪い去った。その報いは何としても受けさせなければならない。

「小父様達は止めろと言うでしょうけれど」

「このままナメられっ放しでたまるかよ」

 コツン。握り拳を突き合わせ、互いの瞳を覗き込みながら宣誓を行う。


「―――メアリーさんを逮捕した部隊と、彼等を指揮した聖族政府」「そして、俺達の誇りと記憶を奪ったアンダースン三姉妹に」


 すぅ。


「「―――復讐を」」





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