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水面に生ずる波紋の如く その陸

広大な地下空洞内で爆音と轟音が幾重にも重なり響き渡る。

その音の原因は、ザインが放ったハエトリソウの様な触手を有した植物型の怪物と颯、夏美、晶彦、鈴蘭、そして志度の五人が戦いを繰り広げているからだ。


「やぁああああ!!!」


女性の悲鳴よりも高い高音の気合と共に人の胴体よりも太い根や蔦を薙刀で斬り払う晶彦を後ろから鈴蘭は鉄砲魚の精霊のラピスを右手のガントレットに憑依させ6mm口径の銃口が二門備わったガントレットを用いて援護射撃を行う。


「晶彦!あんまり前に出過ぎないでよ!当たっても知らないかんね!!」


鈴蘭は怒鳴りつけるようにハエトリソウの触手に飛び掛かっていく晶彦に注意を促しながら晶彦が仕留め損なった触手を撃ち抜く。

しかし、撃ち抜かれ千切れ落ちた触手であったが1分にも満たない間に再生し、再び襲い掛かってくる。


「うそでしょ!?」


仕留めたと思った触手が再生し襲い掛かって来た事に鈴蘭は、驚きのあまり反応が遅れ紙一重で何とか回避する事は出来たものの、触手が地面を叩きつけた衝撃で吹き飛ばされ岩に背中を打ち付けてしまう。


「いったぁ…」


「鈴ちゃん大丈夫!?」


「これくらい平気です…でもあの再生力が厄介です」


「そう…なら、私の雪羅(せつら)で凍らせれば!!」


岩に叩き付けられた鈴蘭に心配そうに駆け寄る夏美に痛みをこらえつつ気丈に振舞う鈴蘭。

其処へ容赦なく襲い掛かる数本の触手を躱しながら距離を取り体勢を立て直しつつ夏美は雪羅という妖刀を手に駆け出し触手の攻撃を掻い潜り巨大植物型の魔物の懐へと飛び込んでいく。

鈴蘭も呼吸と体制を整えた後、夏美の行く手を阻む触手を撃ち抜きながら夏美の後に続く。


「てやぁあ!!」


幾多の触手を掻い潜り気合と共に上段から雪羅を振り下ろす夏美であったが折り重なった触手に阻まれ大きなダメージを与える事は出来なかったが斬り付けた部分は凍結し分厚い氷で覆われていた。

しかし、その氷もものの数秒で砕け散り拘束が解かれた触手と新たな触手が夏美達を襲う。

夏美と鈴蘭は左右に分かれる様にして回避した後、それぞれ反撃に打って出るのであった。

そんな志度達を筆頭に陰陽寮の戦い慣れている連中が攻めあぐねている中戦闘経験の乏しい颯はと言うと―――。


「おりゃぁあ!やったらぁああボケェェェ!!!」


怒声を上げながら迫りくる触手を十字槍のガングニールでバッタバッタと切裂きながら一人ハエトリソウの本体へと驀進していた。


「おぉ、颯姉ちゃんいつの間にあんなに戦闘慣れしたんだろう?」


「まぁ毎日アンタのお兄さんとラディさんに扱かれてれば、嫌でもコレぐらい出来るようになるわよ…」


「いや~あの娘中々やるなぁ」


「志度先生は感心してないでコレ抑えらんないですか!?」


「まぁ行けん事も無いが、止め刺せるか?」


「こういうのって核みたいなのが何処かに在ると思うんですけどそれさえ分かれば刺せます」


「なら其れは何処に在ると思う?」


「おそらく、あの本体と思われる幹の先端部、もしくは根っこの部分だと思います」


志度と夏美が敵の分析をしていた丁度その時、突撃していた晶彦が触手を掻い潜り本体の先端付近へ攻撃を加えていると赤く光る拳大の石が露わになったのであった。


「ねえねえ!核ってコレの事?」


「そうそれ!!それをそのまま破壊して!!」


「合点承知の助!!雷術!紫電一閃(しでんいっせん)って、ヌォオオオ!」


晶彦が振るう薙刀、景光の刀身に霊力を込め飽和状態となったエネルギーが電気へと変質し放電現象を起こす。

その状態を維持したまま大きく景光を振りかぶった晶彦であったが、いざ振り下ろそうとしたタイミングで、触手に足を取られ体勢を崩され振り下ろした斬撃は核から大きく外れ周りの幹や触手を薙ぎ払う。


「にゃろぉ!外したぁ!!」


晶彦の足を捉えていた触手がそのまま晶彦を振り回した後、地面へ向かって叩き付ける。

触手が晶彦を手放す寸前に景光で触手を切り落とした晶彦は、体を捻りながら勢いを殺し地面への激突を免れる。


「ふぅ~危なかった…」


「今の惜しかったわね」


「あとちょっとだったんだけどねぇ」


「晶彦、もう一度行けそう?」


「ん~、今ので警戒されちゃってるからさっきより難しいと思う。そこで鈴蘭ちゃん、一つ提案があるんだけど」


「何?あんたの考えって時々あんたのお兄さんに似てて嫌な予感しかしないんだけど?」


「うわぁ兄ちゃんに似てるとか超心外なんだけど。兄ちゃんの極悪な悪だくみより僕の方が良心的だし」


「あぁ、うん。悪かったわよ。それで提案って何?」


「ちょいと耳かして…ごにょごにょごにょ…」


「え?………それマジで言ってんの?」


耳打ちで晶彦の提案を聞いた鈴蘭は、眉間に皺を寄せ怪訝そうに呟く。

しかし、そんな彼女に対し晶彦は、あっけらかんとした表情でその根拠を述べていく。


「大丈夫だよ、だって兄ちゃんと模擬戦してる時に白虎と霊装憑依状態の兄ちゃんを一撃で撃破してたもん」


「あの状態のお兄さんに【当てる】だけでも凄いのに撃破したの!?」


「くらった兄ちゃん曰く「その気になれば【必殺必中になれる術】だった。次は耐えきる自信が無い」だって」


「うわぁ、あんたのお兄さんにそこまで言わせるなんてどんな術放ったのよ…」


「そんな訳でその本人にちょっと作戦伝えて来るねぇ!」


「それじゃあ私は志度先生に伝えて来るわね!」


そう言って晶彦と鈴蘭は二手に分かれ作戦を志度と作戦の要である颯に伝えに行く。

その間にも植物型の怪物の攻撃を其々凌ぎつつ作戦遂行の機会を窺う。

晶彦から作戦を聞いた颯は自分にそんな大役が務まる訳が無いと一は断っていたが晶彦の強引な説得に根負けし渋々了承するのであった。


「それでも、アレ発動させるのにごっつ時間が掛かるしその間殆ど隙だらけやねん」


「その辺はフォローするから大丈夫。泥船に乗ったつもりで任せてよ!」


「いやいや、大丈夫やあらへんやろ!てか、そこは泥船やのうて大船やろ!泥船は沈んでまうやろ!」


「…そうとも言う!」


漫才のような会話をしている最中も触手の攻撃を防いだり回避しながら体制を整えていく颯と晶彦。

颯は晶彦から聞かされた無茶振りともとれる作戦を聞いて心の中で僅か乍らにキレつつ渋々ながら作戦を遂行する為、

準備をし始め颯の準備が整うまで晶彦は迫り来る触手をバッタバッタと斬り伏せていく。


「ナウマクサンマンダボダナン・オン・インドラヤ・ソワカ」


晶彦は触手を斬り伏せながら詠唱を始める。


颯もガングニールを地面に突き立て詠唱を始めていく。


「ガングニール起動!」


《セーフティ解除。エネルギー充填開始。》


「天空より気高き者、戦場を駆ける死神よ。我、此処に汝に願う。我等が前に立ち塞がりし敵を、打ち滅ぼす力を授けたまえ!」


颯が詠唱を始めていくと、颯の周りに魔力が光り輝く雪の様に集まりだしていく。

そんな颯を庇いながら再びコアを露出させコアまでの障害を一掃する為の術を放つ為、晶彦は薙刀を振るいながら真言を唱え始める。


「ナウマクサンマンダボダナン・オン・インドラヤ・ソワカ!」


真言を唱えた晶彦は、本日三度目のインドラの真言を唱え、続けて紡ぐのはこの地下空間に入って魔物の群れを一掃した術を放つ為の呪文である。


「天を覆いし黒雲よ、迸れ雷光よ。天より落ちるは、雷神の剣。我は請う、我は願う。幾百幾千の刃もて、我に降りかかる災いを振り払い、我が前に立ち憚る敵に等しく滅びを与えんことを!!」


晶彦は霊力を景光の刀身へと注ぎ、霊力が込められた刀身からバチバチと稲妻が迸る。

此処で晶彦は更に威力を上げる為に霊力を込めようした為、数秒の間、隙が生じてしまう。その隙を逃すまいと襲い掛かる触手であったが夏美と志度に作戦内容を伝え終えた鈴蘭がラピスを憑依させた銃口を備えたガントレットから弾丸を放ち仕留めていく。

そして、晶彦への攻撃を鈴蘭が防いだ瞬間、晶彦は溜めていたエネルギーを全て解き放つのであった。


「雷術、天魔轟雷裂波斬(てんまごうらいれっぱざん)


振り下ろされた刃から放たれる幾千もの稲妻が轟音と共にハエトリソウの怪物の触手を根こそぎ焼き払い再び本体からコアを露出させる。


《エネルギー充填完了》


「後は宜しく!!」


術を放ち役目を終えた晶彦は、直ぐに颯の射線上から離脱し前を開ける。


「真名解放。刺し貫くは必中の聖槍(ガングニール)



中段に構えた十字槍のガングニールを気合と共に突き出す颯。

穂先から放たれた一条の光線は真っ直ぐに怪物のコアへと突き進んで行く。

その攻撃を防ごうと無数の触手が壁となって阻もうとするもその抵抗を嘲笑うかの様に光線は触手を穿ち、貫き、そして、コアを破壊し盛大に爆発するのであった。

コアを破壊されたハエトリソウの怪物はゆっくりと燃え尽きる様に灰となっていく。

颯もその目で標的の消滅を確認して安堵の息を漏らした次の瞬間、足元から地鳴りが起こり始め天井や壁に亀裂が生じ瓦礫や拳大の石が天井から落ち始める。

この事態に颯を含めこの場に居た全員が顔を引きつらせる。


「これは…ちょっとヤバいんじゃない?」


「ちょっと処じゃ無いわよ!バカ彦!!」


「今回は僕の性じゃ無いよ!?」


「二人共喧嘩して無いで逃げるわよ!!」


遺跡全体が崩落し始める中、言い争いを始める晶彦と鈴蘭の二人を宥め脱出を図ろうとする夏美であったが視線の先でその出口が瓦礫によって塞がれたのを目の当たりにしてしまう。


「………」


「………」


「………」


瓦礫で塞がった唯一の出口が塞がった事に颯達三人は時が止まったかの様に動きが止まり沈黙してしまう。

一瞬の沈黙が長く感じる程であったが、三人の元へ鈴蘭も駆けつけ声をかけた事で、はっと我に返り、三人の中で止まっていた時間が進み始めるが余りの出来事にパニックを起こしてしまう。


「あの~………出口が塞がったんですけど、コレ如何したらいいんですか?」


「どうしよう!出口が無くなった!!」


「うっそやろ!?何でこんな事になっとんねん!!」


「こういう展開になるのは兄ちゃんと一真兄ちゃんが居る時だけにしてほしいんだけど!?」


「ちょう待って、それってうちの性って言いたいん!?」


「どっちかって言うと、晶彦の方が大技出してたような?」


「おっとっとっと鈴蘭ちゃんそれは聞き捨てならないよ?僕は兄ちゃんや一真兄ちゃん程の高火力術なんて使えないし、それに周りに影響が無いようにちゃんと手加減出来るもん!!」


「いや、今日は結構大技出してたよね!?」


「確かに。ごっつ威力の高い大技出しとったなぁ?」


「………いやでも止めは颯姉ちゃんでしょ!」


「うちのせいなん!?やれ言うたのきみやろ!?」


「此処までやれなんて言って無いもん!!」


口論がヒートアップしてきた正にその時、天井の一部が崩れ

巨大な瓦礫が颯達の頭上へと落ちて来るのであった。


「あ、これ死んだかも」


頭上を見上げた颯は眼前に迫り来る瓦礫の塊に死を悟り微動だに出来ずにいた。

その場に居合わせた晶彦、鈴蘭、夏美も咄嗟に迎撃の為の術を放とうとするが間に合う筈も無く、颯は恐怖の余り目を瞑って両腕を交差して身を守る姿勢を取る。

ガラガラと轟音と共に舞い上がるが颯は、自身に中々衝撃も痛みも感じて来ない事に疑問に思いつつ恐る恐る目を開けると、志度の生み出した巨大な骸骨の両腕が自分達を覆うようにして瓦礫から庇っている光景を目の当たりにするのであった。


「た、助かったぁ~…」


「死ぬかと思った…」


「マジで死ぬかと思った…」


「志度先生、感謝!!」


腰を抜かしへたり込む颯達四人がそれぞれ盛大に安堵の息を漏らしていく。

志度も感謝の言葉を受けつつ颯達を襲った瓦礫を退かし、ついでに塞がった入り口の瓦礫を撤去し一同は、無事に陰陽寮へ帰還するのであった。


 ◆ ◆ ◆


ジパング北部上空4千メートルにて一隻の飛行艇が飛行していた。

しかし、パイロットを含め、乗組員は3名を残し全員死亡しており、制御を失った飛行艇は徐々に高度を落とし墜落し始めて居た。


「よし、任務は完了した。これより離脱する」


「了解です」


「隊長、この機体を墜として積み荷の中身は大丈夫なんですかい?」


「障壁をかけられているから墜ちても傷一つ付かねぇよ。それより、さっさとずらかるぞ。巻き添えを食うなんざ御免だからな」


そう言ってリーダー格の男は懐から拳大の水晶を取り出しそれに魔力を注いでいく。

すると、三人の男達の足元に魔法陣が現れ光を放ち、その数秒後、男達の姿は消え飛行艇はみるみる高度を下げ山間の深い森の中へと墜落するのであった。


後日、山の麓の村からの通報を受け付近の街に点在しているギルドから複数のパーティーが山の中へと調査に赴き飛行艇の残骸と野生動物に食い荒らされた痕跡が残る複数の人の死体を発見するのであった。

尚、飛空艇の残骸の中に内側から破壊された檻の様なコンテナが複数見つかり、そのコンテナの中には複数の死体が転がっており調べた結果、その死体はすべて女性であると判明、だが不思議な事にその女性達は衣服を身に着けておらず代わりに手首にあたる部分に鉄の手錠を掛けられているものが有り、損傷が特に酷かったという。

そして、極め付けは、飛行艇の周りにゴブリンと言う魔物の足跡が多数見つかったという報告がジパング全土のギルドへと報告されたのであった。


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