15話 じいさん、得する
シズカは意を決してもう一度ドアを開ける--
そこではやはり陸太とヒナが、ステータス画面を開いて笑い合っている。
シズカは色々と諦めた--
パタン
ドアが閉まる音に振り返ると、シー子さんが立っていた
「なんであなたがいるのよ。ブラボー」
「あ!陸太さんに湯呑みをお願いされたの」
「そうなんだよ。シー子さんが出た後、お茶を飲もうとしたら熱くてね」
「お茶ですか?」
「そうそう、こうやってね」
僕は空の湯呑みと、お茶が入った湯呑みを両手に持った。慣れた手つきで、お茶を空の湯呑みへ移す。移し終えるともう一度移す。それを繰り返す。
トクトクトクトク…
トクトクトクトク…
トクトクトクトク…
…ズズズ。
「ほら!これで冷めるでしょ!」
一口、お茶を飲んで得意げに言った。
「おおぉぉ!!すごぉい!!陸太さん、ほんと物知り!おじいちゃんの知恵袋だぁ!」
「ははは!92年の生活の知恵だよ!」
歓声と共にパチパチパチと拍手をするBさんに、僕は少しだけ胸を張った。
(…あっ、そういえば小さい時おばあちゃんが、ああやって冷ましてくれてたな……って何センチになってるのよ!)
この時のシズカは、こうして自分に突っ込むことで、なんとか正気を保っていた--
「…まあ、いいわ。この後の話もあるから、貴方も一緒にいてくれるかしら?」
「!!…あのシズカが私に一緒にいて欲しいなんて…いいでしょう!私が…ヒナちゃんが一緒に居てあげましょう!」
腰に手をあて、喜びを噛み締め胸をはるBさん
「あ…クライアントの前で名前を使うのはダメでしょ!」
「…しまった。まあ、陸太さんだし…大丈夫じゃない?」
「上層部から、『つきまとい・カスタマーハラスメント・プライバシー保護』の対策として規定が出ているのわかってるでしょ?」
「う、うん…」
「…まあ、私だってこんなよくわからない『チャーリー』って名乗ったり、『ブラボー』とか呼んだりするの本当は恥ずかしくていやだけど…」
「でしょ!でしょ!ほんと上の人って現場の事わかってないし、センスないよねー!」
「それとこれとは別だから。他では気をつけてよね。今回は海部さんだから…私も、大丈夫だとは思うけど」
(…この2人…相当、不満溜まってるな…)
そんな2人の会話を聞いていて、僕は少し気になったことがあった
「ところで、今話してたんだけど…お二人は『シー子さん』と『Bさん』じゃないのかな?」
3人の時間が少し止まった。
「だから、違うって何度も言ってるでしょ!」
「アハハ!そうそう!あんな変な名前なわけないよー!あたしが『ヒナ』でこっちが『シズカ』ね!」
「ちょっと!何、自己紹介してるの!」
(なるほど!こっちのBさんが「ひな」。お雛様みたいな名前だな。それといつも良くしてくれる、この人が「し……」…何じゃったかな?…ええっと…思い出した「しー子さん」だな)
「あいあい。わかりましたよ。おひなさんに、しー子さんだね」
「違うわよ!シズカ!シズカよ!」
「…」
「…」
「うん、うん。わかってますよ。しー子さん」
「だから違うって!」
「うん。うん。」
「…もう、いいわ。好きにして下さい」
「アハハハハ!陸太さんおもしろい!おなか痛いぃ!」
「面白くない!」
笑うおひなさんに、怒るしー子さん。
僕は何がおかしくて、なぜしー子さんが怒っているのかよくわからない。だけど
(この2人仲良いんだな)
と、ほほえましく思った――
「…ていうか、シズカがクライアントのこと『さん』って呼ぶの珍しいね。」
「え?」
(確かに、いつのまにか海部様から海部さんになっていた。いつからだろう?)
シズカはぼんやりと記憶をさぐる。
「まあ、前回の件でバタバタした時に何となくこんな感じになったかしら?」
「ふーん…仲良くなったんだね!」
「仲良くなるとかそんなんじゃないから!これは仕事で…まあ、実家のおじいちゃんみたいな感じだけど…」
そんなやりとりをした後、本題に入ったーー
・
・
・
タブレットで僕の情報を開き、3人で覗き込んだ。
そこにはーー
個体名:海部陸太
種族名:--(魂魄体)
メインスキル:不屈の心
定着スキル:変身Lv.10
侵食Lv.10
・
・
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・
・
タブレットを操作しようとするがなかなか進まない。
「…やっぱり動作重いわね」
「うーん。多分、普通なら2つしかスキルないから、処理が遅くなってるのかな?」
「そうなの?」
「うん。それとバックグラウンドで、他の人の情報開いてたら消した方がいいよ?」
「…」
「貸して」
おひなさんが、しー子さんからタブレットをとりあげ少し操作した。
「ほんとね。少し早くなったわね。助かったわ」
「いえいえ。この程度ならあたしに任せなさい!」
(意外と、システム関係はおひなさんの方が詳しいのか?)
などと僕は2人のやりとりを観察していた。
その後、スクロールを進め、下までスキルを確認した。
確認した内容は以下の通りだった
個体名:海部陸太
種族名:--(魂魄体)
メインスキル:不屈の心
定着スキル:変身Lv.10
侵食Lv.10
思念因子Lv.10
砂操作Lv.10
走電性Lv.10
環境耐性Lv.10
巨大化Lv.10
物理耐性Lv.10
状態異常耐性Lv.10
粘菌Lv.10
共生Lv.10
サブスキル:自己再生Lv.10
しー子さんが、頭を抱えている。
「す、すごい量ですね…それで、海部さん。先ほどのスキル定着って何だったんですか?タブレットには載っていない情報ですが…」
「ああ、それね。今は名前が【不屈の心】に変わったから…まだあるかわからないけど…」
といいながら、僕は手慣れた様子でステータス画面を開いて
ぽん!
と、【不屈の心】をタッチした。
そして僕のステータス画面にはこう書かれていた。
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エピックスキル【不屈の心】
【折れない心】を獲得した状態で、同一種族への転生を1000回達成した場合に進化取得可能。
効果:精神耐性、精神攻撃無効、記憶保持、スキル定着・改、試行錯誤、神格魂魄候補
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「あった、あった。ここに書いてるでしょ!はて?スキル定着に『改』ってついてるけど何か変わったのかな?」
ぽち
っとスキル定着改の項目に触れる
「なになに?」
と、胸ポケットから遠近両用メガネを取り出し、少しずらして下を見るように文字を読んだ
「ふむ、サブスキルを覚える時にスロットを空けて、今あるスキルは定着スキルに。新しいスキルをサブスキルにする。うん、ここまでは前と一緒だ。…それと?なになに?…レベルが上限になったスキル同士を合成して?上位のスキルに変えることができる…とな?」
「…」
「大丈夫かな?くたびれとりゃせんかな?」
「…『大丈夫かな?』…じゃないですよ。何ですか?ステータス画面開いただけでも驚きなのに。スキルの詳細まで…転生省でもスキルの詳細なんて誰も知らないんですよ」
ぼーっとして話を聞いていたかと思ったしー子さんは、今にも泣き出しそうな表情になっていた。
(あっ…お目目が真っ赤だ!)
僕は昔CMで聞いたフレーズを思い出した。
「どうしたらいいんですか…もうこれ、転生省の認識変わっちゃいますよ。それにスキルを上位スキルに変えるって…無茶苦茶じゃないですか…」
「うぉぉお!ほんとだぁぁ!私のスキルの詳細見えるぅ!」
「そこぉ!自分のスキル確認しない!!」
「アハハ…ついつい…でもほんとに目からウロコだね!」
「もう、本当に嫌だ。海部さん…こんな大量のスキルやスキルの詳細を確認できたり。転生省がパニックになりかねませんよ。…こんなすごいエピックスキルまで…異常すぎるんですよ。」
「誰も知らない」「大量」「すごい」さらには「異常」
その言葉に、僕はこう思ったーー
(何か得したな。あれだあれ!焼き肉の帰りのレジだ。よくわからないガムじゃなくて、ぽこちゃんキャンディーだった時くらい得したな。)




