第1話 無能は消えろ
「この役立たずめが!!」
勇者ロイの裏拳がアルトの頬を叩いた。
「いたっ!」
まだ12歳になったばかりの少年は大地に倒れた。空からは激しい雨が降り、雷鳴が轟いている。アルトは泥だらけになってしまった。
「お前のスキル、全然役に立たねぇんだよ!なにが解呪のスキルだ!誰かが状態異常にならなきゃ、お前なんて戦闘も魔法もできねぇただの屑だ!」
「で、でも、僕がいなきゃみんな呪い状態になってたわけだし……、その……」
「今まで、そんな事態あったかしら?ねぇ、アルトくん?」
妖艶な魔法使いカリスが艶やかに言った。
「今時、解呪のスキル一本で冒険者になろうっていうのがふざけてるのよ。そうよね、ゴードン?」
「もちろんだな!ガッハッハ!お前のようなちびっこさんはさっさと村に帰ってお布団の中でぬくぬくしてるがいい!」
重戦士ゴードンが豪快に笑いながら言う。
「おっと、ゴードン、冗談がきついぞ?こいつの村は魔物に焼き払われてもうないんだからな」
「そうだったそうだった!こりゃ失礼!」
「ゴードン……、あんたわかってて言ったんでしょ?」
ロイ、カリス、ゴードンは三人して高笑いを響かせた。
「うぅ……」
悔しさのあまり、アルトは唇を噛んだ。
(でも、僕は何もできない……。カリスさんの言う通り、僕は解呪以外は何もできない無能なんだ……)
「とにかく、今日でお前はお払い箱だ!もう二度と俺たちの前に顔を見せるんじゃねぇぞ!俺たちはこの地を支配する竜貴族どもの退治で忙しいのだ!」
竜貴族――。この大地を支配する人類にとっての敵種族である。
「ロイの言う通りだわ。君みたいな坊やに構ってる暇なんてないの。あなたをクビにして、もっと強力な仲間を手に入れなきゃ。解呪スキルしか持っていないような無能よりはマシな仲間をね?」
カリスが意地悪く笑う。
「がーっはっはっは!!まあそういうわけで、お前とはここでおさらばってわけだな!」
「おい、アルト……。泥水飲んで腹壊すなよ!」
ロイはぬかるんだ土を蹴り飛ばした。ぐちゃり、とアルトの顔に泥水が跳ねる。
「お前みたいな雑魚にはお似合いだぜっ!あ~っはっはっはっは!!!」
ロイの非道な笑い声がこだまする。アルトは言い返す気力も残っていなかった。
「そんじゃ、まあこれから一人で頑張れよ、解呪師アルトくん……。へっへっへ……」
雨の音だけがアルトの周辺で響く。もうすでにロイたちはどこかへ行ってしまったようだ。
少年には泥を払う気力も残っていなかった。ただうつろな目で目の前を見つめている。
(……ああ、一人になっちゃった。村のみんな、ごめん……。村を滅ぼした竜貴族に復讐するって誓ったのに、僕の冒険はもう……)
アルトが意識を失いかけたその時である。
「……あら?こんなところに小さい子が……。一体どうしたのかしら?」
鈴を転がすような、凛とした、けれど慈愛に満ちた声。
泥の臭いしかしなかったアルトの鼻腔を、甘く気品のある香りがくすぐった。
(……だ、誰……?)
天使――。アルトはそう思った。
(なんて綺麗な人……。黄金の髪に、天使のような優しい顔……。僕を迎えに来たのかな……?)
”天使”はアルトを拾い上げ、その柔らかな胸に抱いた。
(あっ……。温かくて気持ちいい……)
彼女の胸の中で、傷ついた若き解呪師はまぶたを閉じた――。




