第39話 ダイアグラス
「ゼロスえも~ん! ギンガが可愛すぎるよォ~!」
ここはゼロスの私室。いつものように俺とゼロスは添い寝している。
「俺が知るか」
俺がギンガと重婚してから数日。初夜を経てギンガ分が暴走しそうな俺はゼロスの胸板で荒れ狂う情欲を浄化していた。
「ああ~。やっぱりゼロスの胸板は落ち着く。溜まっていた情欲が消えてなくなりそうだ」
「重婚で解消できるようになったんじゃねぇのか?」
ゼロスの言葉通り、夫婦判定の俺とギンガは夫婦の営みが出来る。だが、
「いや、なんていうかさ。主導権は俺が握っているようで支配されているのは俺なんだよな。解消はしてるんだが、心がガッツリ掴まれて情欲が収まらないみたいな」
「なんとなくわかるぜ。お前がギンガの掌で喜んで踊っていそうなのはな」
ぐっ。否定できねぇ。楽しんでるからな。
「はぁ、このままだと生えてきそうだぜ。ゼロスが居なかったら男に形態進化していたかもな」
「おいおい。流石の俺でも男同士で愛し合うのは無理だぜシコル。相棒は解消しねぇが、夜の相手はギンガだけにしてくれ」
「それ多分無理だぜ。ギンガは真正の同性愛者だからな。俺が男になったら愛想つかされるぜ」
「なら俺に甘えておけ。生えない様にな」
ゼロスが俺を胸に抱くと俺の髪を撫でてくる。
「ん。気持ちいいぜ。そういやギンガの頭も撫でた事があるんだけどよ。なんか、撫でてるこっちがいい子にできましたって褒められてる子犬の気分だったぜ」
「重症だなシコル・ギウス。ギンガは同性婚で重婚までしてる奴だ。油断するな、と言っても聞かないんだろうな」
「油断といっても敵意が無いからな。ギンガの全ての行動が俺の為なのに、なぜか俺が奉仕してる気分になる。これが尻に敷かれるって奴か」
「敷かれるくらいならいいが食われるなよシコル。結局、俺との時間が無くなる心配はなさそうだな」
「ああ。ギンガと同性婚してた連中はどうしてたんだろうな」
「それなら『リントヴルムの乙女たち』と書いて乙女を被害者と読むギルドがあるぜ。そういう事だろうな」
「一応無事なんだな。・・・なあ、ゼロスの頭も撫でてみていいか?」
ゼロスは黙る。こういう事が嫌いそうだからな。
だが意外にもゼロスは頷いた。
「・・・いいぜ。ものは試しだ。お前もギンガに食われたままじゃ嫌だろうしな」
俺を抱きしめていたゼロスが俺の胸に顔を埋める。俺がそれを上から撫でる。
「クフフ。なんだ。俺のダンナ様は上までカチカチだな」
俺がゼロスの髪を梳ると硬い髪質が俺の手をくすぐる。
「・・・いうほど悪くはねぇが。シコル、お前以外の女にやられてたら、・・・放り出す所だな」
ゼロスは大人しく撫でられているが、身を委ねている感じはない。
「なんだ。俺のダンナ様は俺が好き過ぎだろう。俺の母性が溢れ出ちまうじゃねぇか」
「・・・シコル。お前、聖母になってから母性が強化されてるんじゃねぇか?」
「そんな機能あるかよ。ゼロスがそう言うなら、そういう事にしておいてやるよ。強化された俺の母性に甘えろよ俺のダンナ様。お前にだけしか効かないんだからなゼロス。うぉ!?」
ゼロスが俺の抱擁から逃れて俺を見下ろす。
「俺に溜まった母性が許容限界を超えそうだ。還元するぞシコル」
「凄い顔してるぞゼロス。母性が溜まった男の顔じゃないぞ」
「嫌いになったか?」
「そんな訳ねぇだろ。もし嫌いになっても逃げたりしねぇよ。俺のダンナ様♡」
ゼロスがゼロスの形態進化、ゼロスオーガのような形相になる。
ヤレヤレ。夜もオーガな俺のダンナ様だ。
こいつはTSな俺でさえ怖いんだ。女で相手に出来る奴なんて居ないだろうな。
ーーー
俺とギンガとアレスで第072冒険者ギルドの訓練場に来ていた。
目的は聖剣の仕様の説明回。
ギンガと俺にプロテクションを掛け、それを破ったら勝ちのいつものルールだ。余程の悪意とケガを負わせなければ模擬戦ぐらいは出来る。少なくとも俺達なら問題ない。
聖剣の説明という事で、何もない野原で対峙する俺とギンガ。
俺はアサルトライフル。ギンガは聖剣。対戦というよりも性能確認だ。
俺が単射で撃つと、ギュルッという音を立てて発射した弾丸が地に落ちる。そして射撃を続けていくがそれは変わらない。
ギンガは真っすぐに聖剣を構えている。片刃のサーベル。その湾曲した剣先が揺れるだけで弾丸の勢いと回転が止まり地面へと落ちる。
俺は三点バーストをギンガに告げると発射する。
サーベルを握るギンガの腕が視界で捉えられないほど速く動くと、キュンッという風切り音と共に俺の髪が通り抜けた弾丸の風圧で揺れる。
つまりは打ち返されてる。弾いているのではない。弾丸を止めた後に剣先で撫でて回転を加えてこちらに放っている。流石に弾丸が逆向きでバレルもない。精度はそれほど高くないが、打ち返した弾はハンドガンレベルの命中率はあるように見えた。
俺は残った弾を連射するが、ギンガの剣はまったく危なげがない。射撃を続ける俺に真っ直ぐにギンガが近づいてくる。
正直怖ェ。
俺はマガジンを撃ち尽くし、チャンバー内に一発残った状態で射撃を終える。するとギンガは弾が残っているか聞いてくるのでタクティカルリロード用に一発だけ銃身に残っていることを告げる。
その一発を撃つようにギンガが促す。俺が何気なくその一発を腰撃ちで撃った時だ。ギンガが迫るように前進し、その一発を時間をかけて嬲り尽くす。
止められ、向きを変えられ、回転を加えられ、聖剣という名の剣戟で作られたバレルを通った弾丸。
それがスコーンという間抜けな音を立てて俺のアサルトライフルに衝撃が加わる。当たっただけじゃない。銃口からメリメリと引き裂くように銃弾が入ってくる。それが俺の手と腕を通して感じられる。俺は反射的にアサルトライフルから手を離すとスリングを外す。撃ち返された銃弾がバレルを割くよりも、銃の消滅のほうが早い。
後ろにすっ飛びながら消える銃身とそれでも残り続ける弾丸。
今更だが、銃が消えても弾丸は残り続けるんだな。そうでもないと射撃武器として使えないか。そんなことをぼんやり考えながら俺の体は安全を求めて横っ飛びに地面に転がった。
「殺す気かよォォォ!!!」
俺の言葉にギンガが返す。
「最後の一発でしょ?」
「わかってても怖ぇよ! これが聖剣の力かよ!」
「これはただの技術。だけど聖剣じゃないと出来ないのは事実。シコル。聖剣を持ってみて?」
俺は手渡された聖剣を握る。なんだかすごく硬い。
俺の握る聖剣をギンガがナイフで叩くと、コン、とも、チン、とも違う響かない金属音が響く。その響き音は空気を震わせるが、聖剣は震わせない。その振動は直に手に伝わってくる。手をナイフで叩かれているようだ。
「これ痛くねぇか? これで銃弾に触れたら痛くて弾けないだろ」
「流石シコル。だから弾かない。そっと触れてその勢いと回転を止める。跳ね返す時も打ち付けるのではなくて、そっと押すの」
そっとねぇ。
俺はギンガの手前でポロポロと落ちる弾丸を目にしている。そして撃ち返される弾丸も、そこに聖剣で切りつけた跡はないだろう。あくまでそっと押し出した(速度はほぼ火薬並み)という事だ。
道理であの正確な射撃が出来るわけだ。銃弾を打ち返せるならレーザーをピンポイントで動く目標に当て続けるなど造作もないのだろう。
俺がそれをギンガに言うとギンガは笑って答える。
「それはレーザーだからできる。実弾だったら私は狙えない」
なるほどな。光の速さだからできるが、実弾の偏差射撃は無理だという事か。
「どうシコル? 拳銃弾ぐらいならシコルでも防げると思うけどやってみる?」
俺はブルブルと首を振る。こんなもの下手をしたら手で銃弾を掴むような芸当だ。下手に弾けば掌全体に銃弾の衝撃が加わる。切る時もだ。下手に叩けば掌でビンタをするようなものだ。
そんな俺を見ると勝ち誇ったようにギンガは笑う。
「これが聖剣ダイアグラス。ガラスの様に繊細で一切欠ける事のない剣。見て。銀色に見えるけど透けて見えるでしょう?」
俺はギンガの言葉で手にした聖剣に目を凝らすと確かに透けて見える。
「この聖剣は全てを透過し切り裂く。この世界の理さえ。イベントのボスでさえこの聖剣ならトドメを刺せる。これは神の理でさえ無効化できる。この聖剣を持つ救世主の私がこの072を防衛し、072から出てくれるな、と言われた理由はこれね」
「この聖剣なら1th地下ダンジョンの殺せなかったゴブリンデーモンロードも殺せるのか?」
「出来ると思う。ただこちらから打って出て討ち取るのは避けた方が良いかも。救世主の使命は072の防衛。ゴブデロが来たときは殺しても良いけど、こちらから出向くのなら救世主の使命の放棄ととられる。救世主でいられないかも」
「そういう事か。他に救世主の力はあるのか?」
「んー。この聖剣だけ。神の理を無効化できるというだけで破格」
「聖剣自体に特別な力はないのか?」
「これだけ。それ以外はただの硬い剣。でもこれでないと私の真価は発揮できない。日本刀なんかは柔らかすぎて使い物にならないから」
「いや日本刀はその柔軟性があってこその剛性と切れ味だろ」
「柔らかすぎる。あんなぐにゃぐにゃじゃ銃弾を止められない。鞭で銃弾を弾き返せと言っているようなもの」
「そこまでかよ!」
「出来ても銃弾を切り裂くだけ。それならできる。だけど結局打ち付けないと駄目。真に切り裂きたいならこの硬さ。一切の振動を吸収しないこの硬さを持ったダイアグラスでないと私の腕前に追いつかない。振動の吸収を一切しないからこそ、こちらの技巧も過不足なく伝わる」
「ギンガがレーザーに拘っていた理由が分かったぜ。銃弾じゃ遅すぎて当てられないのか」
「そう。それに銃弾は落ちる。あれを予測して撃つのは私には無理。実弾は未来予知でもないと当てられない。シコルはどうしているの?」
「思考で撃つんだ。敵が来る位置に銃弾を置くんだ。トラップだと思えば分かり易いか?」
「私はそれが苦手。救世主はソルジャーとシーフの組み合わせだけど完全に攻撃型」
「シーフなんてあるのかよ」
「ええ。今ならシコルにも見えるでしょう?」
俺は自分のストレージに目をやるとシーフの項目がある。
ざっと見ると投げものか。投擲武器の召喚が可能。それに状態異常。そして状態回復薬。薬系統もここだ。
「回復薬ってシーフにあるのかよ。それに気付け薬だのの状態回復。煙玉に手榴弾もここか」
俺達ソルジャーが銃を経由しないと使えない物も、シーフなら召喚可能だ。地味にソルジャーは手榴弾が使えない。グレネードランチャーが必要だ。
「その他に壁を走れる靴もあるでしょ?」
ギンガの台詞で装備面を見ていると確かにそんな靴がある。すげぇファンタジーだ。消音ブーツもある。ソルジャーの特殊装備なんてガスマスクぐらいだからな。特に装備付与はほとんどない。
だが、このシーフの装備付与を俺が使うには相当に重いな。普段使いは避けて必要な時に聖母のMP強化であらかじめ用意して使うのがベストだな。ここにGのつぎ込みは現実的じゃない。他ジョブのストレージは閲覧だけにしておいた方が良さそうだな。
「そして特殊は魔弓ね。ソルジャーのサイボーグに相当する危ない系統」
ギンガには見えているようだが俺には閲覧できない。ジョブに就いてないと見えない部分か。
「にしてもシーフは便利だな。ただメインジョブがこれはキツイな。誰も選ばないわけだ」
「そう。ほぼ私専用ジョブ。どちらかというとアサシンのイメージ。ファイターと違って剣から光波とかは出せないから。聖剣の間合いに入る必要がある」
なるほど。イベント特攻無視の聖剣で遠距離攻撃されたらたまらないもんな。




