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Wizards Storia   作者: 薄倉/iokiss
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宿願

――王国歴1502年 ミクマリノ シーナ地区 ドッドヘブルの祠



 先を進むヴィクト、いやヴィクト先生は言う。


 私も、同じように高揚している。


 近くにいる司祭もにこやかに微笑んでいる。


 今日私がやることは、幼い頃にヴィクト先生が話してくれた、原魔結晶石と同化する「同期」と呼ばれる行為。同期が完了すれば、私は……。あれ、なんだっけ。とにかく、とても良いことが起こることは確かだった。


 しばらく進んでいくと、今までただの洞窟だった空間に突然真っ白な扉が現れる。扉の前には、ゾーゲンを置く祭壇が用意されている。後ろを歩く、私の部下がその祭壇にゾーゲンを捧げる。この四人はここで待機させる。ヴィクト先生は、止まらずに白い扉の前まで行く。


「ヴァルヴァラ、手を」


 ヴィクト先生と手を繋ぎ、白い扉に向かっていく。すると、扉が開くわけでもなく、その扉をすり抜ける。これは、ヴィクト先生がミクマリノの宝玉を持っているからで、王族はこれを所持しているから石守と接触することができるみたい。

 内側に入るとすぐに真っ白な服を着た石守の人間が出迎えてくれる。原魔結晶石が鎮座する部屋に、この祠を管理する石守がいるみたい。ここまでは、ヴィクト先生が事前に話してくれていたことと同じ。


「ヴァルヴァラ、体調は大丈夫ですか?」


 大丈夫に決まっている。


 今日この日の為に全てを整えてきた。問題があるとすれば、少しだけ、ほんの少しだけ怖い思いがある。だって私は、同化した後に……。どうなるんだろう。


 そんなことを考えているうちに、原魔結晶石の鎮座する広間に続く扉の前までやってきた。


 その扉の前で司祭の男は何かの魔法を唱える。すると、扉は大きな音を立ててゆっくりと開き始める。初めて見た原魔結晶石は、想像していたものより遙かに大きく、柔らかな光が辺りに広がっており、どこか温かみを感じる。刺激的ではなく、どこか懐かしい陽光に近いものに思えた。

 するとどこからともなく、聞いたことの無い詠唱、古代の詩のようなものが聞こえてきた。これは、原魔結晶石の状態を安定させる詠唱であると私は事前に聞いていた。付近には何人かの石守がいるので、私はそっと腰に差した剣を確認する。


「これはヴィクトさん、わざわざお越しいただくなんて」

「いえいえ、この大陸が平和なのは皆様の頑張りのおかげですから、年に一度くらいこうやって面と向かって、労いの言葉をかける程度のことはやらせていただきたいのです」


 ヴィクト先生が話しているのがこの祠の管理者、彼とは皇帝を介して手紙のやり取りをしていたみたい。基本的に外界に興味が無いらしい石守にも、ヴィクト先生の噂は広がってるみたいで、そんな様子を見ると、この大陸の管理者が本当にルストリアからミクマリノになるんじゃないか、って思う。


 ま、私たちの目的はそんなショボいものじゃないんだけどね。


「しかし、この扉を開けてくるなんて想像もつきませんでした。どうやって開いたのですか?」

「ああ、それは、あちらの司祭の方が魔法を覚えるのが得意らしくて、昨年来た際に覚えてしまったらしく。折角なら皆さんを驚かせるために使ってみよう、ってことになったんですよ。驚いたでしょう?」


 これは嘘だ。そもそも、この扉の前の守衛には一時的に違う部屋に行ってもらっている。石守の中で厄介な部分に、祠の管理者と、守衛の指示系統が違うことにある。原魔結晶石に辿り着くためには、守衛の許可が必須なのだ。しかし、その許可を得るためには王族が申請を行う必要があり、ヴィクト先生がそれをクリアするにはこの扉を無理にでも開く必要があった。そこで、用意されたのがこの司祭の男、というわけかな、多分。


「そういえば、この前、お渡しした私の操魔法のレポートは役に立っていますか?」

「ええ、それはもう、この祠内ではその話でもちきりです。我々は魔法を全て知っていると思っていたのですが、まさか、こんな画期的な魔法が実在していたとは思いませんでした」

「それは嬉しい限りです。では、この部屋にいる十名の守護者の方も読んでいただいたんですか?」

「もちろんです。むしろ守護する人間の方がこのような新魔法に興味があります。なにせ、トラブルがあれば、彼らが戦うわけですから」

「本当ですかぁ? おべんちゃらじゃないんですかぁ?」

「そんなわけないじゃないですか! なぁ、お前ら」


 管理者が壁際に立つ守護者に声をかけると、皆が皆、その場で頷いた。管理者は続けてヴィクト先生に聞く。司祭は入り口付近に立ち止まり、部屋にいる人間を注意深く観察している。


「しかし、魔法のメカニズムは理解できるのに、我々一同発動には至っていません。まだ、解明されていないものがあるんでしょうか?」

「そうですねぇ。では……。簡単に実演してみましょうか、このような機会が無ければ見ることもできないでしょうし」


 そう言うと、ヴィクト先生は一同の真ん中に立ち、目の前に指を立てた。そして口を開く。


「この指先に、私が作った見えない魔力の球体があります。こちらをよく見てください」


 一同は言われたままに先生の指先を見つめる。


「どうでしょう、石守ほどの知見と私が送ったレポートの知識があれば次第に見えてくるはずです」


 と、ヴィクト先生が言うと、


「……見えてきた」

「ほんとだ! 見えてきた」

「青、いや赤か?」

「赤だ! 赤い球体が見える」


 などと、石守の一同は次から次に口にし始める。ヴィクト先生曰く、魔法の素養が高い者ほど、信じる力が強く、思い込みが強いのだとか。


 ヴィクト先生は続ける。


「では、皆さま。跪きなさい」


 そう言うと、一同は次々とその場に跪き始める。ネタを知っている私からすればかなりシュールな光景だった。魔法のスペシャリストと呼ばれる人間達が、魔法を一切使うことが出来ない、視認すらできない人間にひれ伏している。こんなに笑えることはない。


 しかも、跪いている方は「本当だ!」とか「すごい!」とか、子供みたいにはしゃいでいる。色々残念な人たち。外界に興味無い、とか言って、思春期みたいなこと言って引きこもってるからこんな目にあうんだよ。


「さあ、ここからが本番です。あなたたちの両手両足の自由を奪いました。これから何があっても動くことは出来ません、魔力も練れません。魔法も放てません」

「そんなことまで出来るのか! 確かに魔力を練ることが出来ない! 本当だ!」


 あーあ、本当に馬鹿な人たち。


「では、皆さん、行動を一部『許可』しましょう! さあ、足に力が入ってきますよ! はい! 立ち上がって!」


 石守総勢十一名は、まるで学校の子供たちのように言われたままその場に立ち上がる。そして、ヴィクト先生が続けて指示を送ると、石守たちは原魔結晶石を取り囲むように配置された。


「ここまで、操れるのか。これは、魔法の世界の革命かもしれないな!」


 守護者の男は責務を忘れて無邪気に話している。それを聞いたヴィクト先生は鼻で笑いながら言う。


「この大陸で最も魔法の心理に近づいている者達がこの程度なのは、非常にがっかりですねぇ」


 この辛辣な言葉にすら、管理者の男は「これは手厳しい」なんて言って笑ってるから始末に負えない。


「じゃ、ヴァルヴァラ、そろそろ始めましょうか」

「はい、ヴィクト先生」


 私は魔法で目の前に剣を召喚する。赤黒い刀身の禍々しい剣だ。手に取ってみるとその刀身は見た目よりも重く、ずっしりと手に沈んだ。これは、私の魔法による複製。ここに入る前に、ヴィクト先生に何かあってはいけないから、という理由でギークくんに借りたもの。

 借りた、と言っても、本当に借りたわけじゃなくて、私の魔法はマジックアイテムを含む物体の複製。ただし、オリジナルが壊れてしまえば、コピーは壊れてしまうし、コピーが壊れてしまえば、オリジナルは壊れてしまう。

 これはギークくんには言ってないけど、動作するのも片方だけ。オリジナルが発動中はコピーは使えないし、コピーが発動してれば、オリジナルは使えない。外は、十分な警護だし、複数人いる状態での血塗れの剣は、付近の魔法を阻害するから連携の邪魔になるし、まあ、まず使わないでしょ。


 それを見た石守は目を丸くしている。


「ヴィクト総帥、これは何をするつもりですか?」

「何って? これ、ぶっ壊しちゃおうかなーって」


 ヴィクト先生はにこにこしながら答えた。なんだか、やっといつものヴィクト先生に戻ったみたいで、少し嬉しかった。同時に、何かとんでもないことを忘れているような気がした。


「じょ、冗談ですよね?」

「あ、もうこのくだりいいです。ちょっと飽きちゃったんで。それでは、皆さん、原魔結晶石に向かって調整のための唄を歌ってください!」


 すると、十一人の石守は嫌がりながらも唄を歌い始める。人が嫌がりながら歌う様子は人生の中でこれが最初で最後だろう、と思った。


「いい唄ですねぇ。さ、しっかり覚えるんだぞ」


 ヴィクト先生の隣にはいつのまにか司祭の男がやってきていて、その顔に私は見覚えがあった。私の育った村で何度か見かけた。……駄目だ、名前までは思い出せない。ともかく、その司祭の男は石守に限界まで近づくと、口の動きをじっと見つめた。


「さあ、石守の皆さん、ここからがクライマックス! ここからが正念場!」


 石守の人間はヴィクトに視線を送りながら、全身に力を入れ、この唄をやめようとしている。しかし、その願いは叶わず、ヴィクト先生の『お願い』は加速していく。


「はい! ここで、原魔結晶石の魔力を増幅だ! はい! 増幅増幅ぅ!」


 石守はヴィクト先生の指示通り、魔力を発して原魔結晶石の魔力を増幅していく。辺りは原魔結晶石の激しい光に照らされていく。


「まだまだまだまだ! 増幅増幅増幅増幅! はい! 増幅増幅増幅!」


 更に激しくなる光に、いよいよ目を開けているのが辛くなってくる。気が付くと、ヴィクト先生と司祭の男は二人とも色のついた眼鏡を着用していて、私の分は? と思ったけど、この後のことを考えれば私の分は必要ないか、と何故か納得した。


 その時、管理者が声を上げる。


「通信魔法を並行使用しろ! 何としてでもベガにこのことを伝えるのだ! ベガの危惧が正しかったのだ!」


 その言葉を聞いた途端にヴィクト先生は大笑いした。


「ベガ、やはりベガか! あっはっはっ! 想像通りというか、なんというか! これはいよいよ、お前の得意分野が来たな!」


 ヴィクト先生は、司祭の男の肩をバシバシと叩きながら笑っている。ここからでは見えないが、どうやら司祭の男は笑っているようだった。


「さて、いよいよですねぇ。ちゃんと記憶しましたか?」


 ヴィクト先生は司祭の男に声をかける。すると司祭の男は、コクリと頷く。


「では、ヴァルヴァラ。やってみましょうか」

「先生、本当にできるかな?」

「うーん、私の仮説が正しければ、原魔結晶石の内部は大量の魔力がパンパンに入っています。しかも、外殻は魔法による障壁が複数織り込まれていて、普通の兵器では傷一つつかないでしょう」

「それで、ギークくんのこれかぁ」

「そう。血塗れの剣は、魔法の吸収。言い換えれば抽出です。それを武器内にストックすることにより、様々な魔法に転換することができます。当然、こんな武器一つでこの原魔結晶石の魔力を吸い取ることなんて出来ないでしょう。でもね……」


 ヴィクト先生は、原魔結晶石に近づき、手を触れる。原魔結晶石は相変わらず、眩いくらいの光を放っている。先生は続ける。


「このパンパンの魔力を放出するための穴はあけることが出来る。ラミッツで売られている、ヤシの実のジュースのように、ストローとしてその国宝は役に立つと考えています」

「そして、そのジュースを私が飲むってことだよね」

「その通りです。これほどまでの膨大な魔力があれば、自身の強化は間違いない。そして、その圧倒的な武力によった、この大陸の平和を完成させるのです」

「すごい……」


 司祭の男がヴィクト先生に近づいてくると、何かを耳打ちした。先生はニコリと微笑み、司祭の頭を撫でた。


「彼が、今回の同期の補佐を行ってくれる。ヴァルヴァラ、君が『魔法で制作した』血塗れの剣は、溢れた魔力を君の中に宿すのに適している。そして、その魔力を君自身の中に定着させるには、極小の結晶石を君の体内に精製する。その為に、いくつもの結晶石を飲み込んで準備をしてきた」

「あれは、本当にきつかったんですけど」

「ええ、ええ。よく頑張ってくれました。ヴァルヴァラ。それも今日でおしまいです。恐らくヴァルヴァラ、君の体内にある魔法石レベルでは全てを吸収しても尚溢れ出てしまいます。だから、この石守の方々皆様を疑似的な原魔結晶石に変え、安定化を図ります」

「……うん」


 気が付くと司祭の男は石守の近くに行き何かの魔法を唱え始めた。一人、また一人と隣に行って何かの魔法を囁く。すると、囁いた者の足が徐々に魔法石へと変化していく。これは、先ほどの原魔結晶石安定化のための古代の詩をモチーフにした、オリジナルの魔法だ。あの、司祭の男がここにいる理由がなんとなく理解できた。


「では、いきましょうか」

「はい、先生」


 私は、その場で鎧や、洋服、下着など全てを脱ぎ捨てる。

 少しだけ寒い。


 前方に見える原魔結晶石まで、十歩、いや十二歩、十三歩か。ここから、本当の平和が始まる――。



 一歩。

 思えば、長かったなぁ。ヴィクト先生とあの村で語り合った、本当の平和が実現するなんて、まるで夢みたいだ。


 二歩。

 お母さん、元気かなぁ。これが終わったら、たまには顔を出そうかな。ヴィクト先生と共に、大陸を救った、なんて言ったらどんな顔するだろ。


 三歩。

 大陸が平和になったら、先生と一緒に出掛けたいな。考えてみたら、一度も二人で出掛けたことないな。先生、忙しいし。でも、平和になったらきっと今より時間が作れるよね。


 四歩。

 魔導騎士団の皆も驚くだろうな。設立の時は、本当に大変だった。女が上官だからって、誰も言うことは聞かないし、色恋やろうとする輩は減らないし、最低なスタートだった。


 五歩。

 でも、今では皆が良くしてくれているし、私も皆が大切だって思う。


 六歩。

 私は少しだけ振り返る。ヴィクト先生は司祭の男と話しながら、こちらを見てにこにこしている。


 七歩。

 でもなんだろう。忘れちゃいけないことを忘れている気がする。


 八歩。

 これ、ヴィクト先生に聞いておいた方が良かったんじゃないかな?


 九歩。

 もし、この作戦が失敗したら大変なことになる。全てが水の泡。


 十歩。

 もう一度振り返って、ヴィクト先生に聞いておこう。


 十一歩。

 あれ? 振り返ることが出来ない。


 十二歩。

 そうだ。そうだった、思い出した。



「ヴァルヴァラ、君は使命を果たさないといけない。誰しも笑って暮らせる、自由と平和をこの大陸にもたらすために」



「命を賭して」



 ……十三歩。

 どうしてこんなに大切なことを忘れていたんだろう。でも、もう体は止まらない。私の体が、剣を振り上げる。



 いやだ、いやだ。死にたくない。


 なんで、ヴィクト様、いや、先生。


 いやだ、死にたくない。


 誰か、助けて。私を……大陸を……誰か、たすけて――。



 ヴァルヴァラは剣を振り下ろした。

 鈍い金属音のようなものが聞こえると、わずかにだが、原魔結晶石に切り込みが入り、彼女の持つ血塗れの剣を伝って魔力が溢れてくる。


 彼女は、悲鳴をあげているものの剣は原魔結晶石に癒着して離れない。剣を放せば良いのだが、魔法で出来た剣はヴァルヴァラの手と同化を始めていて離れない。彼女の皮膚は赤黒く変色し、全身は細かく痙攣している。血管は膨張し、ところどころが裂け始めると、沸騰した血が噴き出す。

 その光景に、司祭の男は何やら呪文のようなものを唱え、ヴァルヴァラに対して魔法をかける。それにより、ヴァルヴァラの腹部が淡く光り、わずかに全身の痙攣が収まったが、すぐに光は収まり、再び体は痙攣を起こした。


 司祭の男は、ヴィクトに言う。


「ヴィクト先生、だめですね。でもやっぱり、古代の唄のみがこれに適応するみたいです」

「そうですか、そうでしょうね。しかし、目的は果たしました」

「そうですね、ヴィクト先生」



「そろそろその話し方をやめましょうよ、チャンゴ」


「ならお前もそろそろその話し方をやめろよな、イグナ」

お読み頂きありがとうございます。

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