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Wizards Storia   作者: 薄倉/iokiss
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調停者として

――王国歴1502年 ルストリア アリーシャ城


「大将、南東部のルーメルンの村で異民族同士の闘争が激化し、貿易の妨げになっています」

「命令書は机の上に置いてある、ジュラ隊に届けろ」


「大将、スルト地区のラーグ山脈近辺で微弱な振動が複数回観測されており、近隣住人が怯えています」

「それは先週、バルバロッソに依頼してある、もう既に解決しているだろう」


「大将、給仕長のミランダが給仕の給与を全て持って夜逃げしました」

「ミランダは北西の貿易街レンダに両親がいる。先回りして捕えよ」


「大将、スルト地区ミクマリノ間国境要塞での戦場の人員が不足しています」

「来月からジュラ隊、その後はバルバロッソを送り込む予定だ。それまで何とか持ちこたえよ」


「大将、ラミッツのランディ国王より来月のそっくりさんコンテストにゲスト出演の依頼が来ています」

「その日は急用だ。代わりに参謀から一人派遣する」


「大将、反ルストリアを掲げる団体が、大陸の調停はミクマリノであるべき、という趣旨の内容を記載したビラを配って歩いています」

「ルストリアは自由の国だ。そのままにしてよい。ただし、その組織自体が無理な活動資金徴収などを始めた場合は法を犯す可能性が高い、引き続き監視を行い、逐一報告をしろ」


「大将、シーナ地区からの難民の入国申請が止まりました」

「……なるほど。そうか。わかった」


 ルストリア国軍大将のベガは、執務室の大きな机に並べられた書類を見つつ、かれこれ二十人からの報告を順に聞いていき、一通り処理を終えると、報告の終わった者から外へ出し、残りは二人になっていた。


 そのうちの一人は、現在フィロンの元で雑用兼、記録係を行っているステラであった。ステラは、もう一人の兵士に先に話すよう勧められたが、順番を譲り、もう一人の兵士が先に報告を始めた。


「原魔修道院の動向に問題があるようで、ストラークスの皆様の調査をウィルズ大佐がまとめて書類にし、大将に届けるよう仰せつかりました。ご査収ください」

「ああ、既に目を通した。下がって良い」


 原魔修道院、今までどこの国にも属さず、中立の立場を守ってきた存在だ。現在も中立ということで便宜されているが、どうやらミクマリノとの交流が多くなってきたらしい。原魔修道院という立場であれば大陸内のどこへでも行くことが出来、情報収集などにも役立つ。原魔修道院というブランドを今更手放すリスクを冒すとは思えないので、テロリズムなどを行う可能性は低いが……。


「あ、あの……」


 気が付くと目の前にはステラだけになっており、フィロンから預かってきたとされる筒状の書類を手

に持っている。以前までは、フィロンやチャイが報告書をまとめて持ってくるのが通例であったが、何分あの二人は非常に字が汚く、見るに堪えなかった。私の、異常記憶は見たもの全てを記憶することが出来るが、その鮮明な記憶も内容が映っていなければ、思い出したところでそれが何かを理解することは出来ない。本来であれば、レイニーが記録係として働いているところであるが、現在行っている研究が、フィロン、チャイ、レイニーそれぞれが魔法を駆使し、意見を交わさなくては出来ない為、ステラが記録係として勤めている。


「ああ、すまない。待たせたな。その書類は私かフィロンが魔力を込めねば開かないものになっているんだったか。どれ、貸してみろ」


 私はステラの手から書類をもらうと、微量の魔力をその書類にこめる。薄っすら白く光り、その書類は机の上に音もたてず広がっていく。この書類はそもそもステラが書いたものであり、このセキュリティは必要が無いように思えるが、そんなことはない。

 先ほどの原魔修道院のこともあるし、ミクマリノ伝統の情報網『枝』の存在もある。城内であろうと、現在気を抜けるような状況ではないのだ。ステラがここに来る際に、何者かに奪われてしまうようなことがあれば、この情報が漏洩してしまう。言い換えるなら、この書類には、それほどの価値がある。私は、机の下に隠してあるスイッチを踏み、入り口の扉を閉ざし、カーテンを閉め切って、ステラに尋ねる。


「ふむ。やはり、状況は改善しないか」

「はい、魔瘴病の治療は絶望的です。そちらに書いてありますが、魔瘴病は少なからず以前からこの大陸に存在していた病で、正式には魔力供給過多による身体機能への過干渉と言います」

「先月の報告であった内容だな。確かその時は、オーバーフローの逆のような状態、と言われていたか」

「おっしゃる通りです。これは、僕が、その、く、クロードさんにやった……」

「……ああ。それよりも次を見なくてはならない。そのお前の想いが次に繋がるのなら、わざわざその罪悪感、捨てる必要もないが、見方によっては、既に現場に復帰しているクロードに対する侮辱にも見えるな」

「そ、そんなことは決して!」

「ああ、悪かった。私としたことが少し苛立っていたようだ。今のは失言だ、許してくれ」

「いえ、私の方こそ、いつまでもうじうじとすみませんでした。報告を続けます」

 

 ステラの報告を一通り聞き、今後の研究方針に関する意見書を一枚の紙に綴り、折りたたんだ上でフィロンの作った封筒に入れると、ぱたりと蓋が閉じ、すぐに封印が施された。


「フィロンによろしくな」

「はい!」


 ステラはバタバタと部屋を出て行ったところで、入れ替わりでムーアが入室してきた。ムーアは肩と首を回しながら目の前の椅子に座る。


「時間ぴったりじゃないか、ムーア」

「当然、多忙の大将ベガ様に時間をいただくわけだからな」

「そういう意味では、ムーア総司令官のほうがご多忙なのでは?」

「ははは、まあ、忙しいことは確かだ。では、早速本題に移ろうか」


 私は、先ほどと同じように足元のスイッチで入り口の扉を閉め、机の引き出しにしまっていた書類を取り出すと、向かい側から読めるように机に広げた。


「さて、まずはムーア、お前から依頼されていたミクマリノの動向に関する調査の報告からだが、現状スルト地区への侵攻はかなりゆっくりとした速度で、細かな兵を出し続けている」

「それは、俺も理解している。しかし、その理由はなんだ? 何故、一気に攻め込まない? 現状の地形から考えて複数方向からの同時侵攻だって可能なはずだ」

「最初に侵攻のあった、ルストリア東国境は早々に撤退し、ミクマリノ軍は北を重点的に攻め始めた。しかし、ルストリアと隣通しである以上、全ての兵力を北に集めることは出来ない。同時に、シーナ地区のこともある。シーナ地区にルストリアが侵攻する可能性も考えれば、安易な兵力の偏りは作らないだろうな」

「合併し、広がった国土が逆に枷になっているわけか」

「しかし、ルストリアがシーナ地区を侵攻するには、些か難しいのが正直なところだ」

「こちらも、兵力の分散か?」

「それもあるが、こちらはもっと政治的な話だ」

「政治?」

「仮に、ルストリアがシーナ地区を侵攻したとして、相手にするのはスラムの住人である可能性が高い」

「それなら、訓練されているこちら側に分があるように感じるが?」

「武力ならな。現状を見ればわかることだが、現在シーナは復興の道を進んでいる。スラムの住人は、着実に人並みの生活を取り戻している。そこにルストリアが攻め込んだらどうなる? 大陸の調停者である国が」

「非難の声は避けられない、か。しかし、それであればそのスラムの住人を使って攻め込むことだってできるはずだ」

「だが、それはしない。ヴィクトにとって、スラムの住人が攻めてくるかもしれない、というだけで既にルストリアにとって非常に効果的な一手となっていることは間違いない。もちろん攻め込むことは出来るが、あえてその場に置き続けることで、我々の注意を散らしている」

「それで、現状の膠着か……」

「建前上は、不条理に大陸を縛り付けるルストリアをどうにかしなくてはいけない、と謳っているが、どうもこの戦自体、あまりやる気が無いようにも感じる」

「確かにその通りだ」

「だが……」

「だが?」

「いつものことではあるが、細かな火種はどこにでもある。例えば、現在ルストリアとミクマリノの貿易は、ほとんど行われていない。しかし、ルストリアにはミクマリノの海産物が輸入されている。これは、シーナ地区を経由し、ラミッツに流れたものをルストリアが輸入しているためだ。これにより、海産物の値段がミクマリノ独立前に比べ、十倍以上の値段で取引されるようになっている」


 商人たちは海産物が高騰し売れ行きが悪くなると、別の商品で利益を得なくてはならなくなる。すると必然的に、その他の物価も上がっていく。それを理解したムーアは顎を右手でさすりながら口を開いた。


「貿易摩擦による物価の上昇か」

「その通り、だが問題はそれだけではない。ルストリアの商人の中で、物価の高騰に耐え切れず、国境を越えて闇取引を行う者達が現れている。同様にミクマリノの商人もルストリアに商材を求め密入国している者がいることがわかっている。現状、表沙汰にはなっていないが、仮に密入国したものが罪を犯すようなことになれば国交問題に発展する可能性が高い」

「確か、ミクマリノは以前より独自の法を持っていたな」

「そう、前国王レオニードよりも前から、独自の規則を定め、民に対して規律を重んじるよう訴えかける傾向があったが、レオニードが異民族間の平定を行った際に、独自の規律から独自の法律へと形を昇華させた。現在ミクマリノが独立した後も国として大成した背景には、法設備が既に整っていたから、という見解もある」

「まあ、それでも一商人がミクマリノで法を犯すとして、たかが知れているだろう。大事になるとは思えん」

「ムーア、ミクマリノに対する思いは人それぞれだが、ルストリアの国民が戦争の道具になる可能性がある以上、軽はずみな発言はよせ」

「……そうだな。悪かった」


 ムーアは、珍しく少し困ったような顔をしていた。部屋の時計の秒針が五回鳴ったところで、両手を頭の後ろに組みながらムーアは言う。


「しかし、不思議でならないのだ。ミクマリノ独立から一年、ルストリアと大きな戦を行うことをせず、自国の政治に力を入れ、民を導こうとするその姿が」

「それは私も同じだ。だが、それも自国の力をつけ、こちらを襲撃しようとする準備なのかもしれない。油断は出来ない」

「当然、心構えしている。しかし、それでもどこかで、俺は戦に赴きすぎて、どこの誰を見ても敵意を感じるようになってしまっているんじゃないか、そんなことを考えてしまうのだ。確かに、出し抜かれもしたし、個人的にヴィクト、ウィレム、ギークに対して思うところはある。しかし、争いはどちらかが矛を収めなければ終わることは無い。それも身に染みてわかっている」

「言いたいことは、よくわかる。友人としてだが。しかし、総司令官に対して言えることがあるとすれば、今判断するべきことではない以上は、警戒をし続けるべきだ、かな」

「ああ、わかっている。ヴィクトが関わっている以上は、何かしら策謀があると見たほうが自然だからな」

「それならいい」

「しかし、もしも、もしも本当にミクマリノが既に争いの螺旋から降りているのだとしたら、我々は一体誰と戦っているんだろうな――」


 ヴィクトはそのような男ではない。


 短い沈黙の間、両者の頭にハッキリと浮かんだ言葉。お互い言う事はなく、会話は終わった。


「では」

「また」

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