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Wizards Storia   作者: 薄倉/iokiss
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六花の終わり

――王国歴1499年 ルストリア アリーシャ城


 その日は、昨晩から続く寒さが勢いを増し、ルストリアでは珍しい雪が降っていた。寝起きにコーヒーを飲んで、喉の痛みを感じてから、今日は乾燥しているのか、と気が付く。

 ルストリア国軍の軍印が押された羊皮紙を手に取り、祭礼用の剣を腰に差した。今日からアリーシャ城内の下層居住区より、上層に引っ越しをするため、この部屋にはもう戻ってこない。元々荷物などほとんどなかったが、使えそうな家具はこの部屋にくる次の世代に上げることにした。俺には、親友からもらった時計と、恩師から引き継いだロッド、大切な手紙数枚、これがあれば十分だ。


 ルストリア国軍における昇格は基本、突発的かつ迅速に行われるが、パンテーラ就任に関しては話が違う。予め日付が設定され、国民にもそれが公表される。大陸全土を守るルストリア国軍の職務から考えてパンテーラが一堂に会することは出来ないが、それでも多くの軍務責任者達がそれを見届けに来る。


 アリーシャ城正面の城門をくぐり、すぐ右を向くと、歴史ある大階段がある。この階段は、現在のアリーシャ城が建設される以前の、王の間の遺跡だ。普段は吹きさらしにされているにも関わらず、この階段は朽ちることなく現存している。パンテーラの任命式は代々ここで執り行われる。


 俺がその大階段の前にたどり着いたときには既に多くの観客が押し寄せていた。雪は徐々に止み始めていた。人々は白い息を吐きながら、俺に声援を送ってくれる。他国の軍務責任者も少なからず来場しており、敬礼の形を崩さず、こちらを見つめている。

 こんな感じで、パンテーラの任命式は、それ以前の昇格とは全く色が異なり、国民の期待を煽り、不安を散らし、また他国への武力のアピールとして行われるのだ。俺は、愚直に任務をこなすことが、せめてもの生きる道だと考えていたため、正直このあたりのやり口に関しては、あまり興味がない。だが、これから任命されるパンテーラという位は、知略、武力全てを併せ持ってもまだ足りない、そんな地位にあるのだろう、ということは理解していた。


 考えてみれば妙なものだ。愚直に、と、そんな風に兵役をこなしたことはない。それで言えばむしろ逆、悩みながら戦いに挑んでいた。しかし、それも最初の数戦。一度、戦地に足を踏み入れればそこでは命の取り合いに全神経を注がなくては、待ち受けるのは死だ。


 俺は、そんな場所でこそ死を見つけようと思っているが、それでも隣にいる仲間を救うためには、目の前の脅威を排除しなくてはいけない。それが上手くいったとして、すぐ横にある戦地、それが終われば次の戦地、戦は留まることを知らないのだ。

 果てしない戦の螺旋から降りることも、飛び立つこともできない俺は、流れるままこの場まで来てしまった。自分の存在を消すために戦地に向かい、戦地で自分の居場所を見つけてしまっている。


 なんという自己矛盾なのだろう。それでも、俺は前に進まなくてはいけない。戻るには既に大切なものを失い過ぎている。


「定刻になった。これより、パンテーラ任命式を執り行う」


 辺りに立っている兵と共に、敬礼を行う。


「ミハイル、登壇せよ」


「はっ」


 赤いじゅうたんの敷かれた大階段を昇っていく。その上では、ルストリア国王とベガ大将、それにムーア総司令官が立っている。遠くから見たムーア総司令官も大きかったが、近づくと身に纏うプレッシャーに思わず後ずさりしたくなった。


「ようやく、この日が来たな、ミハイル。この昇格の直接的な要因は『自由意志連合討伐』の功績が大きいが、それだけではない。お前の日々の軍務への取り組み方が評価されたのだ。これを肝に銘じて励むように。期待しているぞ」


 ベガ大将は、こちらに微笑みかけてくる。


「……はっ! ありがとうございます」


 昇格に関して複雑な思いがある俺としては、答えに困ったが、それでも歓迎されているのであれば、この身を尽くすべきなんだろう、と思った。すると、横からムーア総司令官がパンテーラを象徴するローブをこちらに手渡してきた。


「なに、気負うことはない。お前が正しいと思ったことを行えばいい。正義は決して一つではない」


 ムーア総司令官は、その役職としてはふさわしくないことを言った。が、それは俺の複雑な事情を知っているからこそ出た言葉なんだろう。気を使わせてしまった。申し訳ない。

 この発言に対してベガ大将はあまり良いようにとらなかったようで、ムーア総司令官のことをキッと睨みつけるが、ムーア総司令官はそっぽを向いてやり過ごしていた。そんなやり取りを終始見ていたルストリア国王は軽く咳ばらいをして、宣言した。


「ルストリア国軍パンテーラ、ミハイル! 大陸を守る新たな剣としてその身を捧げよ」


「はっ!」


 俺は打ち合わせ通り、祭礼用の剣を抜き、天にかざした。

 同時に、人々の歓声があがる。

 天は曇っていた。

 一片の雪が俺の頬にぶつかると、つー、と雫になって零れた。


 俺はあの日のことを思い出す。


――ディー・エヌ孤児院


「入室、よろしいでしょうか?」

「入れ」


 孤児院の院長室に親子とは思えないやり取りで入室するグラムと、それを許可するホランドであったが、彼らにとってはこれが至極まっとうなやり取りであり、日常であった。


「なんだ」

「ホランド院長、この度の昇格は妥当なものなのでしょうか?」

「……何故、それを私に聞く?」

「当然、事の発端はあなたからだったからですよ、父さん」

「事の発端、か。なるほど、まあいい、そこに座れ」

「言われずとも、座りますよ。今日は納得いくまで帰るつもりはありませんので」


 ホランドは、やれやれといった顔をして戸棚からカップを取り出し、机に置いてあるマジックポッドの中にあるコーヒーを注ぎ、グラムの前に置いた。


「まず初めに行っておこう。ミハイルのパンテーラ昇格は妥当なものだ」


 グラムはその言葉に横やりを差そうかと思ったが、とりあえずカップに入ってコーヒーに口をつけ、次の言葉を待つことにした。


「理由としては二つ。一つ、ミハイルの戦地で戦績が異常に良いことだ。これは、現在軍に所属しているものであれば誰しも知っていることだし、先日の自由意志連合掃討に関しても間違いのない戦火を残している」

「一時間で二百余名の罪人を屠った、そう聞いています」


 一時間で二百余名を屠る、これは軍人としてはかなり異常な数値である。大規模殲滅魔法を用いらない軍略でかつ単独での働きで言えば、長きルストリアの歴史でも過去数回程しかない偉業であった。


「そうだ。単純な軍事力として既に一つの駒として扱うには惜しい存在になってきていると言えるだろう」

「その理屈はわかります」

「その次に、お前が気にしているであろう話、理由の方で言えば、ルストリア軍にとって危険人物である可能性が否定できないからだ」

「なるほど、危険であるからこそより目の届く位置に配置し、その動向を監視する、と。それにしても……」


 ホランドは顎に手をあて、少し考えた後、グラムに問いかける。


「なるほど、では、ミハイルの危険要素は一体どこにあると思う?」

「マグナの子であるスキャンダル要素と、禁忌魔法の使い手である、ということでしょう」

「そうだ。だが、まだ一つ抜けている要素がある。それは、心の問題だ」

「心の問題……。それであればミハイル先輩を取り巻く人間性が、彼を死から遠ざけてくれる、はずです」

「そうだな、その通りだ。だが、ここに一つ、微かな不安要素を加えると、事が深刻になってくる」

「微かな不安要素?」

「大陸大戦のことは知っているな?」

「ええ、今現在お話をしてくれている方が英雄であるということも、よく存じていますよ」

「英雄という話で、小一時間話せそうなくらいには言いたいことがあるが、まあ、それはさておき、あの大戦で奇妙なことがあった。それは、バーノン大王の乱心、という表向きの粗い事象と、その裏の綿密な計画性だ。スルト軍の軍師とは直接戦地で兵をぶつけ合った仲ではあるが、どう考えても彼の実行する作戦ではなかった。繊細さと、暴虐さ、これらが入り混じった気味の悪い戦術。つまるところ、この大戦には裏で糸を引く者がいた、と推測するのが妥当な線だろう」

「なるほど、しかし、それが先輩の危険性と何がつながるのですか?」

「グラム、お前にしては鈍いな。いや、身内のことで熱くなっているのか。それも当然か」


 グラムは露骨に嫌な顔をしたが、反論を諦め素直に問う。


「なんですか、もったいぶらずに教えてくださいよ」

「仮にミハイルの禁忌魔法が強大であった場合を想定して、ミハイルがバーノン大王になってしまうかもしれない、という話だ」

「先輩が乱心を? 考えられません」

「そうかな。未だにあいつは戦地に死に場所を見つけようとする傾向がある。そういう人間は、方向性を誤ればどこまでも走ってしまう、そうは考えられないか?」

「その、方向性を誤らせることが出来る者が、大陸大戦の首謀者だと?」

「少なくとも、私やベガ大将は『そうかもしれない』という可能性に目をつぶることは出来ないな」

「なら尚更ですよ。ミハイル先輩の心が今どうなっているか、みんなよく知っているはずなのに。いくらあの人が気丈な方とは言え……」

「自由意志同盟、いや、今は連合と言うべきか。まあ、既に崩壊した組織の呼称などどうでもいいか」

「元はと言えば、父さんが!」

「元、元か。いったい、この悪意の元はどこにあるのか。そこに関わるもの全員でこの責任を負っていかなくてはならないのだろうな」


 窓から見える中庭では、子供たちが雪で遊んでいる。


 一年前

――王国歴1498年 シーナ地区 東部


 かつてシーナ地区で違法な薬品や魔道具を売買する「自由意志同盟」という組織があった。しかし、その悪事もミハイルが育ったディー・エヌ孤児院院長で元大佐であるホランドの計略により瓦解した。首謀者である男を処刑し、全てが解決したかに思えた。


 だが、実際のところはその首謀者という存在自体があやふやで、その根元、根幹にあたる部分は大陸で最も大きなテロ組織「ザイルード」が指揮を執っており、自由意志同盟という名前は表向き消え去っても、その行為、悪意は未だに大陸内にうごめいていたのだった。


 事実、自由意志同盟は自由意志連合へと名前を変え、シーナ地区内に複数の拠点を持ち、相変わらず違法な商品を売りさばき、スラムで奴隷を捕まえてはラミッツに売り払い、多額の資金を集めていた。

 では、何故ルストリアはザイルードを捕まえないのか。それは、ザイルードは拠点を持たないテロ組織であったためである。厳密に言えば拠点が無いこともないが、それらは定期的に移動してしまうため、特定したとしても軍がたどり着いたときには既にもぬけの殻。

 

 軍は気軽に動くことは出来ない、何事も検証を行ってから進軍する必要があり、そういった仕組みを逆手にとった巧妙な手段で、ルストリアから逃げつつ、場合によっては交戦することもあった。

 交戦時、捕らえたザイルードを拷問にかけ、今後の動きを探り先回りしようと思ったルストリア軍であったが、行動の指針を握るのがトップのみであり、そのトップの姿を見ることが出来るのは組織内の実力者のみであったため、全容を知ることは困難を極めた。


 また、捕縛と同時に服毒し自殺を図るものも多かった。仮に治癒魔法で命をつなぎとめたとしても、治癒魔法が体内に入った毒にも作用し、活性化させてしまうため、救命、尋問を難航させた。ルストリア国軍内で、精密な解毒魔法を保有するレイニーが現場にいた時、数名の命を救い、彼らを拷問にかけ、情報を得たが、それでも断片的な少ない情報が得られるのみで、やはりザイルードの動きを把握することは出来なかった。


 ザイルードに資金が集まってくると、彼らのテロ活動はより計画的に、より大胆になっていった。街中で魔法機雷を設置し、何の関係もない一般人複数名を殺害したかと思えば、監獄を破壊し仲間を集め、研究所を襲い、魔道具を奪い去り、名前を伏せてルストリア以外の国で商売まで始めるようになった。組織が大きくなっていく最中、人数が多くなれば当然管理も難しくなる。それを見越していたベガは、ここに諜報部員を送っていた。


 諜報部員の名前はスノウ。


 彼はミハイルの友人で、同郷だった。専攻は魔法研究で、フィロンの部下であった。だが、魔法を研究していくうえで彼の中にある通信魔法の才能が開花し、普段外出をほとんどしない軍人という奇特性から、ザイルードに顔を見られた可能性は限りなく低かったため、抜擢されたのだった。

 表向きはザイルードを支援したい、腕利きの商人ということで入会した。商人の技術はなかったとしても、魔法による解析ができるスノウは商人のまねごとをして、組織が購入するものの目利きを担当させられることとなった。ここまでは、当初これを計画するベガの想像通りであったが、この動きにはまだ先があった。


 それは、違法な薬物の売買である。


 大陸内における違法薬物は、流通していたとしてもそれに気が付く者は少ない。薬学に対する研究が一部の物好きの間でしか行われておらず、実証実験もしていない薬品が通常の商店に並べられていることもある。

 そういったものは、その薬物を使用して何らかの犯罪行為を行った際に余罪として取り上げられて表に出てくる。そんな中でも、直ちに摘発せざるを得ない薬品が「魔力干渉」の薬品と「精神汚染」の薬品だ。これらは、中に入っている成分に関わらず、たった一回の事件、一例でもあれば即座に販売停止となる。


 スノウは諜報部員として、潜入する際に「ある程度」は覚悟していた。犯罪を自身の手で行うこともあるかもしれない、と。それでも、商人である以上、人殺しをすることはないだろう。そういう認識だった。


 だが、スノウは思いもがけない方向からその覚悟を試されることになる。違法薬物の真偽を確かめる、という仕事が、商品の目利きの次の段階には用意されていたのだった。違法薬物の売買を行う際、そのほぼ全ての取引は薬学の知識が無い者たちが行っている。そのため、その薬物の有用性を証明するには実証実験以外の選択肢が無いのだった。


 つまり、違法薬物を売る、という罪だけではなく、自身で使用することを迫られてしまったのである。


 スノウは、この業務を拒否した。下手を打てば、現在の業務である通信魔法も行えなくなってしまう可能性があるし、何より、違法薬物は人体に害があるから違法として認定されているのだ、当然拒否しようと考えた。

 しかし、その願いは叶うことはなかった。その頃には組織のこともある程度理解しており、この瞬間に抜けるということは、組織への裏切りとなるということであると重々承知していた。その上、連日大陸内のどこを襲撃した、やら、何人殺した、だのを自慢しあうような組織だ。自分が抜けたとして、次にここに諜報部員がたどり着ける可能性は高くはないだろう。

 スノウは、罪悪感と責任感に挟まれ、苦悩しながらも、違法薬物の識別を行うことを了承した。それは、自身が薬物に依存した肉体と精神になるかもしれない、そういう事実を誰よりも理解した上での答えだった。


 薬物を打つ、買う。打つ、売る。飲む、買う。飲む、売る。


 スノウが潜入してから一年が経った。スノウの報告のおかげで、大規模なテロ活動はことごとくルストリア軍が先回りし、防ぐことが出来ている。

 内通者がいるのでは、と組織内で調査があったが、誰もスノウを疑うことは無かった。なぜなら、スノウは既に会話がままなるような人物ではなく、自身の給料で違法薬物を買い常用するような中毒者になってしまっていたからである。

 スノウからすれば、薬物の効果が切れてしまっている状況が苦痛で耐えがたく、それを回復させるためのアイテムのようなものであり、既に使用に対する罪悪感は無くなってしまっていた。だが、その薬物を市場に出すような相手と取引した場合には、その日の夜にルストリアに通信魔法で連絡を取り、大陸に流通するのを極力防いでいた。


 言語機能が衰退してしまったものの、通信魔法は精神力で出来ているものであるため、あたかも健常者のようにふるまうのは難しくなかった。精神汚染の薬物を常用しながら、何故魔法に影響しないのか。


 それはひとえにスノウの信念の強さによるものであった。


 自分は、大陸の人間を守る。人々の笑顔を守る。そういう真っすぐな思考を軸に置き、自身の仕事を貫徹した。ほとんどの日々が辛いものであったが、恩師であるランツ先生や、院長、友人のミハイルやクライヴ、彼らの顔を思い出すと、不思議と勇気が湧いてきた。


 スノウが潜入して一年と半年が経った。連日の雪で外は一面真っ白な雪化粧だった。


 ついに念願の時が訪れる。スノウの献身的な働きに対して、ザイルードのトップがこの場にやってくることとなった。


「この組織の頭をやってる、―――――だ。いつも、ありがとう。お前を、この組織の幹部として迎え入れる」


「あ、うん、あ、あぁ、あい」


 既に言葉は使えないが、組織に属していた自分が幹部に認められた、という意味不明な高揚感と、長きに渡る任務の終焉に心から喜んだ。


 短い会話の後、スノウは出来るだけ急いで自室に戻り、通信魔法で吉報を報告する。先ほど会った彼の名前も忘れないように小さな紙に書き留めた。トップである彼も、長くはここに留まらないだろう。


 通信魔法から一時間後、自分のいる拠点に少数の軍が押し寄せてきた。


 近くで待機、巡回を行っていた隊だった。


 その隊はルキウス大佐が率いていて、新進気鋭であるミハイルが配属されていた。


 この拠点を制圧するのに、1時間もかからなかった。この組織はテロ組織であり、武装集団であるにも関わらずだ。


 シーナ地区東部の富豪街の地下深く、その場にいた組織の一員は、その全員が殺害、あるいは捕縛された。ルキウスは全体の指揮と、幹部の捜索、ミハイルは討伐を担当し、この一時間でミハイルは二百余名の人間を屠った。


 その場にいた組織の一同は皆、切られた瞬間を覚えておらず、気が付けば隣の奴が死に、自分は重傷を負わされていた、と感じた。


 スノウは暗い自室で争いが収まるのを静かに待った。


 やがて、扉を開けて、ミハイルが入ってきた。


「スノウ? スノウだな!?」


 何を言ってるんだ、スノウに決まっているじゃないか。


「半年も連絡が無いから、心配していたんだ!」


 そんな、僕は定期的に通信魔法で状況を報告していた!


「声が出ないのか。すぐに、手当しよう!」

「な、で。ここ、わかった?」

「ルキウス大佐が微弱な通信魔法の発信に気づいて、もしかするとこれはスノウの魔法なんじゃないか、って!」

「そ、か。よ、かた」

「もう、話さなくていい!」


 本当に、本当に終わったんだ。僕の、任務。

 ああ! そうだった! さっきメモしたんだった! この組織のトップの名前!!

 僕はポケットにしまったメモ書きをミハイルに渡す。


 ミハイルは紙を受け取り、涙をこぼして小さな声で言った。


「……すまない。本当に、すまない。俺がもっと早く力をつけていれば……」


 どうしたんだ、ミハイル。何を言ってるんだ。俺はミハイルから紙を取り上げる。


【どうして、どうして俺だけがこんな目に合うんだ。助けてよ、ミハイル】


 そう書かれている文字は、かなり汚かったが、間違いなく俺の字だった。


 そうか、俺はとっくに狂っていたのか。


 俺の心の中は憎しみで溢れていた。


 幸せなあの時を心の軸にしていたんじゃない。


 今も幸せな人々を疎んでいたんだ。


 俺は、いつも大切にしまっていた毒を懐から取り出し、飲み込んだ。



 暖かい陽に照らされ、外の雪はキラキラと光っていた。

お読み頂きありがとうございます。

励みになりますので、いいねやポイント評価を頂けますと幸いです!


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