17 計画通りにいかない
「ぜ、全員退却!!」
大声で叫んでダクスを抱え、下りたばかりの階段を駆け上がる。
とげとげダクスは持ちにくかったがそれどころじゃない。
そのまま全力で木の洞まで走って逃げる。
「チ、チカチカさん! なんかいた! な、なんかいた!!」
転がるように家に駆け込み、木の壁にばんっと体当たりし壁をばしばし叩きながら訴える。
「こっち見てた! 絶対正気じゃなかった! あいつ絶対やばい!」
確実にロックオンされてた……!
「あっ! みんなは大丈夫!?」
ばしばししながらもぐるりと辺りを見渡すと、お仲間はちゃんと全員揃っていた。
私の腕から逃れたダクスが勇ましく外に飛び出そうとしているのをマッチャがとげとげ鎧を掴んで引き止めてくれている。
足が空中でしゃかしゃかから回っているダクスを見て少し落ち着いてきた。
「助かった……」
今腰が抜けそう。
ほんとはあそこで抜かしたかったけど生存本能さんのおかげで無事生還できた。
よたよたしながらとげとげダクスを抱っこする。
「チカチカさんなにあれ……」
地獄のダンジョンやる気出し過ぎ。
「ミノタウロス」
「ミノタウロス……」
やっぱりそうか。
あの牛頭でダンジョンにいそうなモンスターはミノタウロスしか私は知らない。
「あんなの絶対倒せないですよ……」
めそめそしながら管理人に訴える。
レベル差どうこうじゃない。ただ単に怖いし近付きたくない。
「あれを倒す必要は無い」
「必要は無い?」
「あれは追跡担当。ダンジョンにいる間追ってくる」
「ひっ」
「追跡をかわしながら探索する」
「えっ」
「追いつかれて捕まったらここに戻る」
「えええ……」
なんだよその理不尽な仕様は……!
ホラーゲームじゃん!
「あの……あいつの体に返り血みたいな……。斧にも……」
「演出」
「えんしゅつ」
……いらん事を!
気が抜けてくたくたと床に倒れ込む。
「チカチカさん……もう装備品もらえなくてもいい……せっかく用意してくれたのにすみません……」
もう虹色槍1本で生きて行く。
「もしチュートリアルクリアしないと島から出られないんだったらもう私ここで一生暮らす……みんないるし……。家具も自分で作るし……買い物できなくても我慢する……」
やばい、本気で泣けてきた。
これゲームだぜ……?
「ずっと家にいてチカチカさんに自立して働きなさいって言われてもずっとここに引きこもってやる……結婚しないのって言われても未婚のままおばあちゃんになるまで実家暮らししてやる……すねかじりまくってやる……家の手伝いもせずにずっとごろごろむしゃむしゃしてやる……世間の常識とか知らん……」
いつの間にかチカチカさんに対しての謎の脅し文句が飛び出ていた。
が、管理人はさすがの管理精霊だった。
「いいよ」
「え」
「別にこっちは困らない」
「えっえっ」
「はるの人生どうなろうがはるの責任」
「…………」
「最後まで面倒を見る」
「…………」
「はるがやりたいようにやればいい」
「……もうちょっと頑張ってみる……」
飴と鞭が溶け合った攻撃を受けた気分……。
「とりあえず逃走できるように持久力をアップさせる特訓をします……」
ごろごろと壁まで転がりおでこを壁に擦り付けながらチカチカさんに報告する。
「ミノタウロス小さくする?」
「……おあ?」
変な声が漏れた。
「あれ? 小さくって言いました?」
「言った」
どういう事。
「ミノタウロスを?」
「そう」
「小さくっていうのは大きさって事ですよね? 具体的にどんなサイズでしょうか」
「はるの能力に合わせるならハムスター」
「小っさ!」
私の能力しょぼ!
でもそんな簡単に難易度下げてくれるんだ……。なら最初から適正レベルで頼む。まじで。
というかそんな追跡者意味あるのか。
でもそれを言うとサイズダウン無しとか言われそうなので口を慎む。私かしこい。
「えーじゃあハムスターミノタウロスでお願いします」
「またはるがぐちぐち言いそうだから宝箱も用意しておいた。それで身を守ればいい」
「へい、なんかすんませんありがとうございます」
チカチカさんの優しさ発動条件が謎だ。
「ただし罠の場合もある」
「おお~ダンジョンぽい~」
創造マッチャ結界が上手く発動すればいいんだけど。
「その場合宝箱に頭から喰われる」
「頭から!?」
ちょ、ほんと木の精霊管理人は私に優しくしたいのか厳しくしたいのかはっきりして欲しい。
こんなに気持ちを揺さぶられたら吊り橋効果で恋に落ちるわ。落ちんけど。
この様子だと他にも初見殺しのトラップがありそうなので、もう少し自分の能力をレベルアップしてからダンジョンに改めて挑む事に。
こうして地味な特訓の日々が始まった。先が長い……。
チュートリアルを受ける為に特訓って本末転倒、とは思っている。




