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バリケードの隙間から差し込む光は、時間と共に形を変えた。どれくらい経っただろう。日が西に傾き始めたようだ。
結果、無理だと分かると、アキラはその場にドスンと腰を下ろした。鉄筋を叩きすぎたせいで、手足がひりひりと痛む。暗くて分からないが、血が滲んでいることだろう。
もう、無理だ。諦めよう。死を受け入れれば、もう、こんな辛い思いはしなくて済む。死んだ後で、こっちの世界がどうなろうが知ったことじゃない。俺ができることは、ここまでだ。後はなるようになるだろう。
肩の力を抜くと、いくぶん気が楽になった。
ふと、人の気配がして、アキラは振り返った。扉の反対側、二階の階段とは反対側。そんなところに人がいるはずがない。
だが、目を凝らすと、確かにもう一人いる。しかも、この狭い檻の中に。奥の角の部分で、胡坐をかいている大柄な男がいた。
「ノゾ…さん…?」
「会いたかったぜ。アキラ」
それは、向こうの世界の望巳ではなかった。リュウザキの男に撃ち殺された、正真正銘のノゾミだった。
「あんたは、死んだはずだ」
「まいったぜ。いきなりぶっ放すんだもんな、あの野郎。胸に、でっかい穴が空いちまったよ」。ノゾミは、自分の胸をドンドンと叩いた。叩くたびに、ピュルピュルと血が噴き出して、地面に滴った。「もっとも、俺の胸は、恋人が死んだときから、空っぽだけどな。知ってるか?俺の死んだ恋人は、そりゃあ、すごい美人だったんだぜ?」
「し、知ってるよ。ナオコさんって言うんだろ?」
「お、誰から聞いたんだ?実は俺たち、結婚したんだ。あの世でな。お前の言う通りさ。死ぬことだって、悪いことばかりじゃない」
ゆ、幽霊?
背中がゾクゾクする。腕に鳥肌が立った。
「お、おめでとう。ノゾさんが幸せそうで、う、嬉しいよ」
「ま、俺たちほどじゃないけどよ、お前たちだって、いい夫婦になれると思うぜ?だから、早くこっちに来な。なぁ、ユイちゃん」
ノゾミは、アキラの背後に向かってそう言った。
「ユ、ユイ?」
アキラは、ゴクリと唾を飲んだ。
背後にいる。
「そこに…、いるのか?」
「いるぜ、アキラ」。ノゾミが代わって答えた。「ユイちゃん返事ができないんだよ。なにしろ、頭が無くなっちゃったもんだからさ」
ヒタヒタと、裸足でコンクリートの地面を歩く音が、ゆっくりと近づいて来た。
恐怖で振り返ることができない。それどころか、指一本動かせない。金縛りにかかったようだ。
乾いた血のついた白い手が、アキラの顔の両側に、にゅっと伸びて、そっと頬を挟んだ。




