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行ったところで、どうすることもできない。だが、行かねば気が済まなかった。
教会を飛び出し、一週間前ストラスを追いかけて通った道を逆に走る。
空は雲に覆われていて、星の一粒も見当たらない。強い風が、廃墟の町に吹き荒んでいた。視界が酷く悪いので、ポケットからペンライトを取り出して点けた。これを持っていなかったら、一歩も動けなくなるところだった。電柱や街灯の支柱、路駐したまま錆びてしまった車にぶつからないように、まるで闇の中を泳ぐようにして歩いた。時折、輸送隊の隊員たちと、その家族のことを思って涙がこみ上げてきた。嗚咽を飲み下して、前へ進む。そうして、ずいぶん時間はかかったが、アキラは、どうにか輸送隊の基地にたどり着いた。
塀と同じ高さのある、巨大な正門がいっぱいに開かれていて、まるで門の代わりをするように、人間の死体が積み重なっていた。防弾チョッキとヘルメットをつけている、輸送隊の隊員たちの遺体だ。
もし、そこがもう少し明るかったら、また、アキラがもう少し冷静だったら、輸送隊員たちが、猟銃のような単発銃で撃たれたのでないことに気が付いただろう。また、近くにワスプの死体がほとんどないことにも。
扉のレールや、コンクリートの目地に沿って、黒く血が流れている。
ああ…。なんて、酷い。
侵略者と必死に戦った後が伺えた。当たり前だ。普段の輸送業務とは大きく違う。ここを通したら、自分たちの家族が地獄を見るのだ。
ペンライトで足元を照らしながら、正門から10mばかり進んだところで、一人の子供の遺体が、うつ伏せに倒れているのを見つけた。
真っ暗闇の中、この寒空の下、顔から一切の血の気を失った子供が、虚ろな目をして倒れている。
それを見た途端、アキラはもう、一歩も動けなくなってしまった。この先に進むのが怖くて、辛くて、悲しくて…。
この先には、きっと、この何十倍もの死骸があるに違いない。奥に進むにつれて、女や子供たちの割合が増すに違いない。
それを全部見ておかなくてはならないという、訳のわからない使命感があった。この惨劇を引き起こした責任は、自分にあると思った。
だが、肉体はそれを拒否していた。いくら前に進もうとしても、足が前に出ない。体の防衛反応だ。これ以上進むことは自傷行為に等しい。危険だと、頭の中で大音量の警報が鳴り響いていた。これ以上見ると、精神がもたない。狂うぞ、と。
アキラは嘔吐した。二度、三度…。胃液まで吐き尽くし、胃の中が空っぽになっても嘔吐は止まらなかった。
そうして、十数回吐いた後、アキラはその場に倒れた。意識はあった。それが、とんでもなく邪魔くさかった。いっそ、死にたかった。
二百の死体があるその施設は、真っ暗で、冷たかった。廃墟の町を吹き抜ける風の音だけが、遠くで聞こえていた。地面に転がったペンライトが、地面に白く細長い二等辺三角形を描いていた。
自分まで、死体になってしまったような気分だった。朝までそうしていたら、きっと、そうなるだろう。
どれくらい、そうしていただろうか。冷たい地面が容赦なく体温を奪い、あと少しこうしていたら、本当に立ち上がれなくなるなと思った頃、突然、顔をライトの光に照らされて、アキラは目が眩んだ。
「アキラ…、か?」。ライトの向こうにあるはずの顔が言った。
手を目の前にかざして光を遮り、懐中電灯の方を見る。眩しくて、その姿は見えないが、聞き覚えのある声だ。忘れるはずのない声だ。
絶望しかなかった胸のうちに、何色もの激しい感情が湧きあがった。特に強いのは、憎悪と親しみという、相反する感情。
「ゴロウ…さん」




