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二人は店を出た。
「ああ、驚いた。なんて、きしょく悪い店だ。こりゃあ、黒田って男は、そうとうの変わり者だな。だいたい、この辺りは、みかど市の中でも治安がよくないんだ。まともな奴は、まず住みたがらないね」
言われて周囲を見ると、確かに、通行人の中に、その筋の人らしいのがチラホラ混じっている。周りのビルも、風俗店や町金の入っているものが多い。ラブホテルもある。
「なにせ、日本にいるかどうかも分からない奴だ。捜しようがない。それに、見つけたところで、お前が助かるかどうかは別問題だ。ここらで一度、策を練っておいた方がいいだろう」
どぶ川に沿って、フェンスが設けてあり、その手前にガードレールがある。そのガードレールに尻を引っ掻けて、望巳は腕を組んで頭を捻った。
「そもそも、ストラスって男は、どうしてそんなに黒田を殺したいんだ?わざわざ別の世界へ刺客を送り込もうってくらいだから、並大抵の理由じゃないだろう?」
「それが、俺も聞かされていないんだ。知る必要がないってさ」
「ゴルゴ13じゃあるまいし。もし理由が分かれば、殺さなくて済む方法も見つかりそうなもんじゃないか」
「お前もお前だ。どうして、そんな酷い約束をしたんだ?一ヶ月以内に人を殺さなけりゃ、自分が死ぬなんて、いくらなんでも無茶苦茶じゃないか」
「それは…」と、アキラは渋々、ユイのことを話した。「俺は、ユイにまた会えるなら、何でもしようと思ったんだ。それに、あのときは自暴自棄になっていたからね」
あのとき…。今もそうかもしれない。ユイが死んでからというもの、アキラは自分が生きているのか死んでいるのか分からず、未来への希望が持てない。生きることのメリットを見いだせない。マサトやストラスに出会っていなければ、きっと死んでいただろう。
望巳は、問い詰めたことを後悔したようだった。
「すまん。そんな事情があるなんて、知らなかったんだ。じゃ、俺や巨人の諏訪みたいに、お前の彼女も、この世界の何処かで生きているっていうんだな?だけど、アキラ。ようく考えてみろ。そりゃあ、その子は、死んだお前の彼女に顔かたちはそっくりかもしれない。けれど、お前の彼女だったっていう記憶はないんだろ?ひょっとしたら、お前の存在そのものを知らないかもしれないんだろ?その子だって、生まれは同じでも、成長する過程がまるで違うんだ。死んだ子とは、まったくの別人に育っているかもしれない。会ったところで、どうするっていうんだ?」
「でも、ノゾさんは、俺に協力してくれているじゃないか」
「俺は、たまたまだよ」
「記憶なんて、無くたっていい。俺は、それでもユイに会いたいんだ」
望巳は嘆息して、「ま、協力は惜しまんがな」
そういえば、この辺り…。
見覚えがあると思ったら、ここは、ユイが死んだ所の近くじゃないか。
「なぁ、ノゾさん。この辺りに、地下鉄の駅はあるかい?」
「なんだ、地下鉄は嫌いじゃなかったのか?あるよ。この先に、小菅駅っていうのが」
やはり…。
「で、その子の苗字は?」
「え…?」
「なんだ、知らないのか?諏訪のは知っていたのに?」
「スーコは、本人に訊いたことがあったんだ。だって変な名前だろ?男なのに、スーコなんてさ。だけど、ユイはユイとしか呼んだことがないから、分からないよ。ヒザキは、苗字が氷崎だから、ヒザキって呼んでいるけど、逆に下の名前は知らないんだ。あっちの世界じゃ、呼び方が全てで、本名なんて、たいした意味を持たないからね」
「じゃあ、当然、住所も電話番号も分からないわけだな?」
「ああ。スマートフォンで検索できないのかい?そうだ。歳は俺と同じ十七歳で、目元にホクロがあった」
「今度、検索の仕組みを教えてやる。…とにかく、それだけの情報でその『ユイちゃん』を見つけるのは、不可能に近い。やはり今は、解毒剤を手に入れることに重点を置こう。一ヶ月で死ななければ、そのうち彼女も見つかるさ」




