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「ここだ」
中に、人がいる気配がするのに、望巳がノックをしても、返事はない。もう一度ノックしてみると、扉の向こうで、ガタガタと椅子が鳴って、ドアが乱暴に開いた。
「何か?!」と、苛立ちが最高潮に達したような声で、若い男が飛び出して来た。
病的に痩せた男で、日焼けとは縁の遠い白い顔には、度の強い眼鏡がのっている。この研究室の学生のようだ。
「あ、あの…、黒田さんは?」
突然の剣幕に、若干気圧されながら、望巳が訊いた。
「クロ先生?出張中だよ。なんか用?」
「そうですか」と、望巳はアキラの方を見て肩をすくめた。「いつごろ、戻られますかね?」
「知らねぇよ。あの人のスケジュールなんて一々構ってられるか!こっちは忙しいんだ!」
何故こんなに怒っているのか知らないが、ノゾさんに対して失礼な奴だ。アキラはムッとした。
諦めて帰ろうとしたとき、廊下を向こうからやって来た者に、学生が目をとめた。
「あっ、先生」
振り返ると、スーツの上に白衣を着て、灰色の髪をしたスマートな老年の男が、白衣のポケットに両手を突っ込んで立っていた。
黒田勇次郎58歳?
歳の頃は、ドンピシャリといったところだが、写真の人物とは明らかに別人だ。
「この人たち、クロ先生に用があるって言うんですけど」




