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二人は、バスに乗ることにした。
途中、地下鉄を使おうとしたところ、駅に下りる階段の所で、アキラが青い顔をして立ち止まった。
「どうかしたのか?」
「ここは…、苦手なんだ。他の道を行こう」
それで、電車をやめてバスにしたのだ。
平日の午前中とあって、バスの中は空いていて、二人は並んで座席に腰を下ろした。
「向こうへ着くまでに、何か適当な理由を考える必要があるな。さっきの電話の様子だと、黒田はまだ戻って来ていないかもしれない。そうだなぁ…。確か、彼には、別れた奥さんがいるんだったな。黒田は58歳…、奇しくも、うちの親父と同い年だ」
聖修学院大学は、数年前まで女子大で、今でも9割が女生徒らしい。
大理石調のタイルが貼られた校門のところまで来ると、女の匂いがムンと漂って来るような気がした。
今度は望巳が立ち止まり、「ダメなんだよ、俺。こういうところ…」。なんとも、情けない声を出す。
門のところに、制服を着た老齢の守衛が一人立っている。立っているだけで、部外者が入っても、咎められそうな様子はない。守衛というよりは、総合受付のような存在だろう。
二人組の女子大生が、校門から出て来た。
アキラの常識から見ると、無駄な布の多い服を着て、顔に何やら塗りたくった若い女が、ジャラジャラとアクセサリーをぶら下げて通り過ぎて行く。すれ違う時、香水の匂いが鼻を突いた。
中は、同じような若い女でいっぱいなんだろう。
「俺も、なんだか気分が悪くなってきた。他を捜す?」
「いや、行こう」と、望巳は意を決したように校門をくぐった。
聖修学院大学は、県内各所にキャンパスを持つ大きな大学だ。この、みかどキャンパス内には、理学部と薬学部がある。
校門を抜けて左側にある4階建て、あずき色の建物が、理学部棟だった。築40年くらいは経っている建物で、全体的に色がくすんで見える。一方、反対側にある10階建て、鏡面仕上げの薬学部棟は、まるで昨年できたばかりのように真っ新だ。太陽はほぼ真上から射しているのに、敷地の左側と右側で、明るさがずいぶん違うような気がした。
理学部の玄関を入って左側の壁、茶色い水の溜まった灰皿の後ろに、ヤニで黄色くなった案内図が掛けられてあった。
望巳は「高次元…高次元…」と呟きながら、案内図を眺め、「あった。高次元物理学研究室。4階の一番奥だ」
理学部棟の中は、外の華やかな雰囲気とは一転して、薄暗い、薄汚れた、なんとも薄気味悪い廊下が続いていた。
白衣を着た、女子大生か女性研究員かのどちらかが、すれ違いざま、黒縁眼鏡の奥にある細い目で、見慣れないアキラたちをじっとりと見ていた。
『調整中』の紙が貼られたエレベーターを横目に階段を上り、望巳について行くと、廊下の一番奥に「高次元物理学研究室」の札を見つけた。




