↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
53/163

53

 望巳は、翌朝、また来ることを約束して、いったん家に帰った。

「このまま、同じホテルに泊まって行ってもいいんだが、帰らないなら帰らないで、また面倒な気遣いをしなくちゃならない。なぁに、明日には、また来てやるから、心配するな。仕事の方も大丈夫だ。休日返上で働いているからな。有給がまるまる全部残ってるんだ」

 ユウキュウが何なのか知らないが、とにかく、朝までここで待っていれば良いらしかった。

 さすがに疲れていたので、シャワーも浴びず、パンツ一枚になってベッドに潜りこんだ。腹と肩に、抜糸の済んでいない傷がある。ハイブにいた頃は、数日に一度体を拭くだけで、風呂なんて入らないのが普通だった。

 ダイヤルを回して照明を落とし、目を閉じた。

 ふかふか過ぎて落ち着かないな。

 アキラは、掛布団と枕を持って床に下り、カーペットの上に横になった。

 これはいい。少し狭いが、絶妙の寝床だ。

 よく寝られそうだと思ったのもつかの間、今度は、足元のテレビが気になった。

 テレビがある。十年ぶりのテレビだ。

 リモコンを取り、スイッチを入れると、テレビショッピングがやっていた。

 ちゃんと映る!

 感動で胸が熱くなった。嬉しくなって、次々にチャンネルを回す。一つの番組が終わっても、CMを挟んで新たな番組が始まる。番組の内容はともかく、それが映っていることが、面白くてたまらない。


「どうしたんだ、お前!目の下が真っ黒だぞ!」。翌朝、9時に迎えに来た望巳が、アキラの顔を見て驚いた。「寝られなかったのか?」

「そういうわけじゃないんだけど…、ちょっとね」

 今日の望巳は背広ではなく、紺のスタジャンにニット帽をかぶっていた。

「お前、シャワー浴びてないだろう。お前のいた所と違って、この世界の人間は臭いにも敏感なんだ。すぐに浴びて来い」と、強引にユニットバスに押し込まれた。「ちゃんと石鹸を使って洗うんだぞ!」

 風呂から出たアキラに、望巳は財布を渡した。

「俺の古だけどな。会計のたびに、そのアタッシュケースを開いていたんじゃ、目立ってしょうがない。良からぬことを考える奴が出て来るかもしれん。三枚も入れとけば今日一日大丈夫だから、そうしておけ」

 ホテルをチェックアウトして、外に出た。

 夜来たときには分からなかったが、よくよく見れば、見知った通りだ。ハイブからほど近い、発掘に訪れたこともある場所だった。あっちでは、人っこ一人いない道路だが、ここは、スーツを着た会社員と渋滞中の車でいっぱいだ。

「乗りかかった舟だ。とにもかくにも、お前をこの世界で生きていけるように仕立ててやらないとな」

「すまないね、ノゾさん」

「別世界とはいえ、俺が世話してた奴だからな。他人とはいえ、他人じゃないんだ。気ぃ使わなくていい。それに、俺は、どっちかっつーと、頼られんのが好きな性質でさ。でも、こっちじゃ、あんまり頼ってくれねぇんだよな。抜けてるからかなぁ。同期の連中は、さっさと出世しちまって、後輩にも抜かれていくくらいでよ。向こうの俺は、どうなんだい?」

「ん…。みんな頼りにしてたよ。班長だったしね。抜けてたけどさ」

「そか…」

 望巳は、自分のことのように(自分のことなんだが)照れて、鼻の下を掻いた。

「朝飯まだだろ?この近くに、上手い朝飯を出す店があるんだ。昨日の話の続きも聞きたいことだし、とりあえず、そこへ行くか」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。