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望巳は、翌朝、また来ることを約束して、いったん家に帰った。
「このまま、同じホテルに泊まって行ってもいいんだが、帰らないなら帰らないで、また面倒な気遣いをしなくちゃならない。なぁに、明日には、また来てやるから、心配するな。仕事の方も大丈夫だ。休日返上で働いているからな。有給がまるまる全部残ってるんだ」
ユウキュウが何なのか知らないが、とにかく、朝までここで待っていれば良いらしかった。
さすがに疲れていたので、シャワーも浴びず、パンツ一枚になってベッドに潜りこんだ。腹と肩に、抜糸の済んでいない傷がある。ハイブにいた頃は、数日に一度体を拭くだけで、風呂なんて入らないのが普通だった。
ダイヤルを回して照明を落とし、目を閉じた。
ふかふか過ぎて落ち着かないな。
アキラは、掛布団と枕を持って床に下り、カーペットの上に横になった。
これはいい。少し狭いが、絶妙の寝床だ。
よく寝られそうだと思ったのもつかの間、今度は、足元のテレビが気になった。
テレビがある。十年ぶりのテレビだ。
リモコンを取り、スイッチを入れると、テレビショッピングがやっていた。
ちゃんと映る!
感動で胸が熱くなった。嬉しくなって、次々にチャンネルを回す。一つの番組が終わっても、CMを挟んで新たな番組が始まる。番組の内容はともかく、それが映っていることが、面白くてたまらない。
「どうしたんだ、お前!目の下が真っ黒だぞ!」。翌朝、9時に迎えに来た望巳が、アキラの顔を見て驚いた。「寝られなかったのか?」
「そういうわけじゃないんだけど…、ちょっとね」
今日の望巳は背広ではなく、紺のスタジャンにニット帽をかぶっていた。
「お前、シャワー浴びてないだろう。お前のいた所と違って、この世界の人間は臭いにも敏感なんだ。すぐに浴びて来い」と、強引にユニットバスに押し込まれた。「ちゃんと石鹸を使って洗うんだぞ!」
風呂から出たアキラに、望巳は財布を渡した。
「俺の古だけどな。会計のたびに、そのアタッシュケースを開いていたんじゃ、目立ってしょうがない。良からぬことを考える奴が出て来るかもしれん。三枚も入れとけば今日一日大丈夫だから、そうしておけ」
ホテルをチェックアウトして、外に出た。
夜来たときには分からなかったが、よくよく見れば、見知った通りだ。ハイブからほど近い、発掘に訪れたこともある場所だった。あっちでは、人っこ一人いない道路だが、ここは、スーツを着た会社員と渋滞中の車でいっぱいだ。
「乗りかかった舟だ。とにもかくにも、お前をこの世界で生きていけるように仕立ててやらないとな」
「すまないね、ノゾさん」
「別世界とはいえ、俺が世話してた奴だからな。他人とはいえ、他人じゃないんだ。気ぃ使わなくていい。それに、俺は、どっちかっつーと、頼られんのが好きな性質でさ。でも、こっちじゃ、あんまり頼ってくれねぇんだよな。抜けてるからかなぁ。同期の連中は、さっさと出世しちまって、後輩にも抜かれていくくらいでよ。向こうの俺は、どうなんだい?」
「ん…。みんな頼りにしてたよ。班長だったしね。抜けてたけどさ」
「そか…」
望巳は、自分のことのように(自分のことなんだが)照れて、鼻の下を掻いた。
「朝飯まだだろ?この近くに、上手い朝飯を出す店があるんだ。昨日の話の続きも聞きたいことだし、とりあえず、そこへ行くか」




