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 やはり、注目される理由は服だったらしい。着替えたとたんに、町中を歩いても見られることはなくなった。そうすると、今度は腹が減ってきた。朝、輸送隊の基地で朝食を食べたっきりだ。

 そういえば、お礼も別れの挨拶も、何もなしで出て来てしまった。悪いことをした。心配しているかもしれない。

 不意にアキラの鼻が、ものすごく美味そうな匂いを捉えた。ビルの一階にあるその店は、どうやら食べ物屋らしい。ガラス張りの向こうで、数人の男たちが、どんぶりをかきこんでいる。オレンジ色の看板には、『牛丼』の文字。

 何て読むんだっけ?あの字。

 とにかく、入ってみた。

 カウンターに腰かけ、隣のおじさんを指差して、「それと同じの、ちょうだい」

「並盛りでよろしいですか?」

「ああ。それ、一つ」

 なるほど、あれはナミモリと読むのか。変わった名前だな。

 ナミモリは、ものの一分で出て来た。

「ヘイ、並盛り一丁」

 これが箸か?と、割り箸を割らずに二膳とって、アキラは食い始めた。

 な、なんじゃ、こりゃぁ!こんな食い物があるのか?!

 美味い。美味いなんてもんじゃない。舌がパニックを起こして、口の中が痛いほどだ。

 アキラは顔を拭った。

 感動で涙が止まらない。

 雑穀の混じっていない、純粋なご飯。甘辛く炊いた肉。そう、この肉だ。イノシシが獲れたときの、腹の脂身の、一番美味いところが当たったときより、もっと美味い!これが、ナミモリの肉?!

 アキラは、物凄い勢いで平らげると、

「ナミモリ、もう一杯!」

「ヘイ、並盛り一丁」

 さらにそれを平らげ、「ナミモリ!」

 店員は、少し変な顔をしながら、「ヘイ、並盛り一丁」

「ナミモリ!」

「な、並盛り一丁」

 結局、並盛りばかり四杯も食べた。

 美味かった~!

 しかし、さすがに食い過ぎた。アキラはジャージの紐を緩めて腹を擦った。

 時計を見ると、午後九時を過ぎていた。

 もう、こんな時間か。いつまで経っても明るいんで、どうも感覚がおかしくなっているな。

 こんな時間だというのに、店の中は、けっこうな賑わいだ。女性客はいない。仕事帰りの、背広や作業服を着た男たちで、座席の半分近くが埋まっていた。

 アキラの背後にある自動ドアが開いて、また一人、背広を着たサラリーマン風の男が入って来た。

 肩幅の広い、腹がタプンと出た男で、髪は黒々としているが、薄く、おでこが頭頂部まであるように見える。

「大盛り」と言って、アキラの隣に、座席を一つ空けて座った。

 オオモリってなんだ?ナミモリより美味いのか?

 チラリと横を見る。

「あっ!」。驚いて、立ち上がった。

 アキラが出した大声に、店中の人が振り向いた。

 ナミモリを平らげ、ようやく泣き止んだところなのに、また涙が溢れて来た。

 男も、牛丼屋に入ったら見知らぬ少年が自分を見て涙を流しているので、何が何だか分からない。口を開けてアキラを見上げるばかりだ。

「なんだ、なんだ?何事だ?」客の一人が言った。

「さっき牛丼食って泣いてたガキが、今度はオッサン見て泣いてるんだよ。酔ってるんじゃないのか?」

 それを聞いた男が、ムッとしてそちらを睨み、何やら抗議しようとした。

 そこへ、アキラが口を挟んだ。

「オッサンなんて言うな!この人はまだ、29歳だぞ!」

 怒鳴った声が震えている。そして、男の飛び出した腹に抱きついて、ワッと泣き出した。

「ノゾさん!」

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