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 半日近く歩かされて、太陽が西に傾き始めた頃、男たちは、ようやく立ち止まった。

「降りるぞ。足元に気を付けるんだ」

 それは、地下へと続く階段だった。階段の上には、駅の名前が記されていた。

『藤ヶ谷駅』

 そうだ。地下鉄の駅へと続く階段だ。この駅ではなかったが、パンデミックの前、両親と乗ったことがあるのを、うっすらと思い出すことができた。

 しかし、電気がない現在、地下は闇に閉ざされているはずだ。誰が好き好んで、こんなところに住むだろうか。

 男の一人が、懐中電灯を取り出した。スイッチを入れると、ちゃんと灯が点いた。

「この先は、間違っても逃げようなんて思うんじゃないぞ。中は真っ暗で、しかも入り組んでいる。一度はぐれたら、俺たちでも、もう、どうしようもない」

 ユイは答えなかった。この獣臭い男たちに好き放題されるくらいなら、いっそ死んだ方が、どれだけましか分からない。だが、簡単には逃がしてくれそうもない。もちろん、死なせてもくれないだろう。

 地下通路に入り、そこからは、何処をどう歩いたのか分からない。途中、ホームから線路に下りたり、再び上ったりした。やがて、通路の先に、光が見え始め、どうやらそこが目的地だった。

 ガラス張りの天井から、太陽の光が差し込んでいる。広大なスペースの中央に、水の出なくなった噴水らしきものが佇んでいる。床には隙間なく絨毯が敷き詰められ、ソファやローテーブルが不規則に並んでいた。趣味の悪いバーを、これでもか、というくらい広くした印象だ。

 てっきり、ワスプは男ばかりだと思っていたが、女性の姿もちらほら見られる。いずれも、露出の多い派手な格好をしていた。

「カリナ、ボスは何処へ行った?」

 包帯の男が、近くにいた女に訊ねた。女は頭が一回り大きくなるほどきついパーマをあてていた。金髪だが、外国人というわけではなさそうだ。こんな髪型をした女性を久しく見ていなかったので、ユイはつい、目を奪われた。

「いつもの所よ。今夜中には戻って来るはずだけど?」

「ガサとナオは?」

「一緒よ」

「ちぇっ、俺だけおつかいに行かされたってわけだ」

 カリナと呼ばれた女は、ユイの顔を見てにっこりと笑った。「この子かい?ボスのお気に入りって言うのは?」

 言うが早いか、ユイの髪を掴んで引っ張った。

「キャッ!」と、ユイが悲鳴を上げた。

 カリナは、表情をガラリと変えて鼻筋に皺を作りながら、ユイの鼻に噛みつく勢いで、

「この小娘!てめぇ、どうやってボスの気を引いたんだ?憎ったらしい!」

「おい!やめないか!」

 包帯の男が、女をユイから引き剥がした。ブチブチと音を立てて、髪が何本か、抜けたり千切れたりした。

 カリナは、指に絡まったそれを、何でもないように、パラパラと絨毯の上に落とし、再び笑顔を作って言った。

「アタシはカリナ。ボスのオンナの一人よ。よろしくね」

「……」

 ユイは、呆気にとられて、何も言えなかった。恐ろしくてたまらなかった。

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