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医務室のドアは、少し隙間が空いてあった。
まったく、不用心だなと、ノブに手をかけて中に入ろうとしたところで、中に誰かいることに気が付いた。
そっと隙間を広げて、覗き込むと、ベッドの上の男と話しているのは、どうやら、ショウゴらしい。
驚いて、「何してるんだ!」と医務室に飛び込もうとしたところを、突然後ろから口を押えられて引き戻された。手足をバタバタさせてもがいたが、羽交い絞めにされて抵抗できない。正面にヒザキがやって来て、口の前に人差し指を立てたので、暴れるのをやめた。見ると、アキラを捕まえていたはスーコだった。
ヒザキはドアの脇に立って、医務室を覗き込んだ。中からナマズ髭の声が聞こえる。
「まさか、こんな所であんたに会うとはな。俺の運も、まだまだ捨てたもんじゃないようだぜ」
「勘違いするな。助けに来たわけじゃない。俺は、タクミがこのハイブをどうするつもりか、聞きたいだけだ」。ショウゴが、声を落として言った。口ぶりから、二人は知り合いのようだ。
タクミ?
「なるほど。すっかり、このハイブの住人ってわけかい?それなら、なおさら都合がいい。早く俺を逃がしな。さもないと、お前のことを、ここの奴らにばらすぜ?」
「勝手にすればいい。だが、その前に答えろ。タクミは、ヴェスパは、このハイブを潰すつもりなのか?」
「最初は、そうだったようだ。だが、状況が変わった。ま、お前ら次第だな」
「俺たち次第、だと?」
「取引に応じるか、どうかだ。お前らのおかげで、今、ボスはことのほか上機嫌だぜ?戻って来るなら、今のうちだ」
「あいにくだが、俺はもう、二度と奴らの所へは戻らん。ワスプなんて呼ばれるのは、もうこりごりだ。それより、その取引というのは…」
「ワスプだと?!」。ショウゴが言ったのを聞いて、スーコが思わず叫んだ。
アキラとヒザキが舌打ちする。
ハッとしたショウゴが、口をつぐんで入口を見た。
見つかってしまっては、仕方がない。ヒザキがドアを開けた。
「気に入らない奴だとは思っていたが、まさかワスプだったとはな」
ショウゴは何も答えず、唇を噛んだ。
「拷問する奴が増えて嬉しいぜ。スーコ、あいつを捕まえろ」
スーコが、両手の指をパキパキと鳴らした。
「大人しく捕まるんじゃねぇぞ、ショウゴ。俺は、この間殴り損ねたことを、ずっと後悔していたんだ」
そう言って掴みかかった瞬間、ショウゴは手元のワゴンにあった瓶の中身を、スーコの顔にぶちまけた。消毒用のアルコールだ。
「うわっ!」と叫んで、スーコは両手で顔を覆った。ショウゴはその首に腕を巻きつけ、同じくワゴンの上にあったハサミを、首に突き付けた。
「暴れるなよ、スーコ。お前を殺したくない」
ヒザキは歯軋りした。「野郎、本性を現しやがった」
「話を聞け、ヒザキ!俺は味方だ!」。ショウゴが叫んだ。
「スーコに刃物を突き付けて、どの口が言ってる?!」
「お前たちを救いたいんだ!確かに、俺はかつてワスプだった。だが、今は違う。ナインスハイブが皆殺しにされたとき、奴らについて行けなくなって、袂を分かったんだ。いいか?今のワスプは、かつてのそれとは、規模も性質も大きく違う。狙われれば、いくら防御を固めたって無駄だ。奴らの新しいボスは、血も涙もない異常者だ。ナインスの二の舞になりたくなかったら、俺の言うことを聞け!」
ショウゴは必死で訴え続けた。ヒザキは答えず、しばらく睨み合いが続いた。
スーコが身をよじった。ショウゴの体勢が僅かに崩れた。アキラは、その隙を突いて素早くポケットから拳銃を取り出すと、ショウゴの頭に狙いを定めた。
「話は、みんなを集めてから、聞くことにする。スーコを離すんだ、ショウゴ。今離せば、悪いようにはしない」
「嘘をつけ!お前たちが、元ワスプの言うことなんて聞くわけが…」
「そう思うんなら、スーコを刺せ。俺はお前を撃つ」
ショウゴは黙った。そして、観念したようにハサミを捨て、スーコの首を離した。
「やってくれたな、ワスプ野郎!」
既に視力が戻っていたスーコが、拳を固めて腕を振り上げた。
アキラもヒザキも、止めようとはしなかった。




