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13

 雨は翌日も降り続き、さらに、その翌朝、雨で濡れたアスファルトの道路を通って、輸送隊がやって来た。トラックのエンジン音が聞こえると、真っ先に飛び出して行ったのは、子供たち。とりわけ男の子たちだった。

 輸送隊は、商人を介してハイブから注文を受け、ファームから物資を積んでやってくる。商人と同じく、これもファームとは別の独立した組織で、輸送費は購買額と同じ量をとる。

 要するに、発掘によって得た資源で一ヶ月分の食糧や必需品を買うためには、その二倍を買って、半分を輸送隊に渡す必要があるということだ。

 トラックは、歩くくらいのスピードでゆっくりとやって来た。周囲に猟銃を構えた男たちが二十人くらい、警備に着いている。

 いずれも、防弾チョッキを着こみ、揃いのヘルメットをかぶっている。戦争中の行軍はこんな感じだっただろうと思わせる。全員、布で顔の下半分を覆っていた。

 輸送隊や商人など、複数のハイブと接触する者は、病気を媒介しないよう、口元に布を巻くのが常となっている。だが、空気感染するD13ウィルスの性質上、予防効果は皆無であり、慣例でそうしているに過ぎない。

「スゲー」。真っ先に飛び出したタケルが、トラックを見て目を輝かせている。「俺、大きくなったら、輸送隊に入るんだ!」

「とだっくだ、つげー」。二歳のアシタが真似して言った。

 アキラは、アシタにトラックがよく見えるように、肩車してやった。

 輸送隊を心待ちにしているのは、子供たちだけではない。若い女たちも、輸送隊がやって来ると表に出て来て、キャーキャー言っている。

 ファームから各ハイブへ向かう物資の輸送は、ワスプにとって格好の標的だ。輸送隊はワスプに備えて、厳重に武装していた。

 平和な生活を脅かすワスプと日夜戦う輸送隊は、ハイブに住む者たちにとって、まさに正義の味方であり、そう考えると、この声援にも納得がいく。

 助手席が開いて、中から一人の男が出て来ると、黄色い声が一層大きくなった。

 隊長のマサトは、三十過ぎの若い男だ。

 輸送隊のメンバーはいずれも顔の下半分に布を巻いているため、素顔を確認することはできないが、そこから覗く切れ長の目や高い鼻筋を見るだけでも、彼が精悍な顔立ちをしていることがよく分かる。むしろ女たちは、顔が隠れているからこそ、想像力を掻きたてられて騒いでいるようだ。

 そんな光景が特別気に入らないのが、スーコだった。強くたくましい肉体を持つ彼だが、それは首から上も同様で、掘りの深い筋張った顔立ちは、甘いマスクの、正に対局にあると言ってよい。これまでモテたことなど一度もない。今日も小さく舌打ちしては、「何処がいいんだ。あんな優男」と毒づいている。

 輸送隊の隊長を務める男に『優男』はないもんだが、スーコから見れば、全ての男が優男である。

 ゴロウがやって来て、リストを片手にマサトと物資の確認を始めた。

 女の一人が、「マサトさーん!」と声をかけた。

 マサトが、にっこりして手を挙げた。黄色い声が大きくなる。きっと、何処のハイブへ行っても、こんな調子なんだろう。

 声をかけたのはミサキと言って、少し前までヒザキの恋人だった女だ。少しやせ過ぎくらいの華奢な体つき。髪を頭の真上で括り、いつもオデコとうなじを出している。活発な性格をしている。ハイブ一の美人という声も高く、ヒザキと別れた後は、狙っている男も多い。

 ヒザキがチッと舌打ちした。

 物資の確認が終わり、積み下ろしの段になった。アキラはアシタを肩から下ろし、ユイに預けて自分も作業に加わった。

 幌のかかったトラックの荷台の、半分にも満たない量の食料が積まれてある。多くが米などの穀物だ。これから一ヶ月は、これと、畑でとれる僅かな農作物だけで生活しなければならない。

 それらをすぐに下ろしてしまった後は、発掘してきた資源を詰め込む番だ。こちらは、トラックの中が超満タンになった。

 ファームはその名の通り農場であるが、役割としては、物々交換の総合商社と言った方が正しい。噂では、そこには、巨大な倉庫があって、これらの資源がカテゴリ別に分けられ、保管されているのだという。他のハイブから要請があれば、そうして蓄えた資源のうちから支給するといった具合に、その商いはどんどん大きくなっている。この町には大小合わせて二十以上のハイブがあるが、その全てがファームとの取引なくしては、生活することができない。

 トラックと輸送隊が見えなくなるまで、ハイブのメンバーはその後ろ姿を見守っていた。

 アキラは、それを眺める子供たちの顔が好きだった。それが無知から来るものだとしても、彼らの顔は希望に満ちている。

 ふと、その中の一人だけ、違う方を向いていることに気が付いた。

 6歳のリクだ。少し変わった子で、トラックや輸送隊にはまったく興味を示さない。代わりに本が好きで、放っておくと、いつまででも読んでいる。だからと言って、一人だけ放っておくこともできないので、ユイが半ば強引に連れて来たのだった。

「何見てんだ?リク」

 リクは、向かいのビルの上の方を指差して、「フクロウ」と言った。

「フクロウ?あそこに、フクロウがいたのか?」

「ううん。フクロウの顔した人」

 リクが指差した方を注意深く見てみたが、それらしい物は見当たらなかった。

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