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僕よりイケメンな女の子を目指そうか  作者: いせゆも


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「青」天の霹靂・7

「梨山といえば……梨山杷、ですか?」

「うん、僕の父だ」

「ほう! そのような大人物の娘さんだなんて」

 噂の伝搬する速さを舐めてはいけない。誰が流したわけでなくとも、「男性」の「編入者」という短い情報くらい、夕方までには全学年の隅々まで行き渡るだろう。

 さて、これが単に物珍しさで騒ぐのならまだいい。明るいニュースは大歓迎だ。変化に乏しいアオナシでは、庭の花が咲いたくらいでも、その日一番の話題となることすらある。

 ただ、アオナシは男に耐性のある生徒は非常に少ない。諫早の編入によって、如何なる弊害が起こるか全くの未知数だ。しかも彼がどんな人間かも定かではない状態。女を喰い物にしか考えていない男性だったら、僕は受け入れない。全力を持って排除させてもらう。

 だからといって、最初から敵対心を抱くようなこともしたくない、と思う心もある。それは僕の嫌いな人の得意分野な領域で、こちらから踏み入れたくない。

 まずは様子見をしたい。学校案内の体裁は取りつつ、彼の人物を把握する。

 人が居ないことと、学校内で案内をできるほど内容が充実していること。この二つが、諫早を案内するのに真っ先に浮かんだ条件。これに見合う施設を脳内で検索した。

 学生の象徴、校舎、か。

 校舎は勉強をするための場所であって、趣味に励む楽園ではない。授業のない曜日、あるいは平日でも夕方以降になると、人が滅多に居ないのを利用した秘密の逢瀬ぐらいにしか使えない。そして残念なことに……間違えた、幸いにも、いちゃつき合っているけしからん娘の姿は見受けられなかった。

 こつんこつんと床を叩く歪な足音が二つ、静かな校舎に堅く反響する。外から幼等部の娘の笑い声が届くと、校舎内の寂しさが一層強調される。八月休みの最中、校舎はずっと眠っていたのだろうか。まだ起きて一日目なら、体温も低いままか。

 一階から順に紹介をしていく。校舎は下の階層から順に、職員室、初等部、中等部、高等部となっている。さらにそこからそれぞれ、一年、二年、三年と教室が別れている。

 歳を経る毎に、寮から教室へ移動すると疲れるのはどうとも。「なんとかならないかしらね」という発言で教室が満たされるのは、進学した一年生にはお約束で風物。今年で高二の僕は、去年はその会話をした。……そんなことを雑談のネタにしてみた。彼は「へえ。どこの学校にも、さようなやりとりはあるものですね」だのと傍目には笑って返した。彼の瞳には、いい色は見えなかった。

 どうも彼は僕を値踏みしている節がある。付き合うに値する人間か見極めてでもいるのか。

 本当は、もっと違う質問をしたい。例えば「ここは女子学園だ。普通は入学できない。どうして君は入学したんだ?」といった、核心。しかしそう訊いてみても、「それは後々に判明しますよ」の一点張り。どんなが裏があることやらか。

「高等部。全体的に落ち着いた色調は、訪れた下級生に『大人の世界に迷い込んだ』と思わせるんだ。僕は生徒自治会に昔から所属してるから見慣れたものだけどね。……これでこの校舎は一通り紹介が終わった。他に分からないことがあれば遠慮なく聞いてくれ」

 転入生にはそう聞くのが級長の務め。お兄さまになるために色々と書物は読み解いてきたけれど、どうやらそう言っておくのがマナーらしい。男性慣れはしていても、編入者慣れなんかするはずがない。というより、外の世界でも珍しい類になるのでは。

「ふむ、なるほど。生活行動半径の最小は、寮と校舎、ということになりますかね?」

「それだけじゃあないかな。保健室もあるにはあるけど……まあ、君はそれほど世話にならないかな」

「ああ、そういうことで、ですか」

 これだけで察してくれた。デリカシーはそれなりに持ち合わせているみたいだ。

「あとは食堂だね。図書館とか保健室とかいつかはお世話になる施設もあるけど、これら三つがあれば十分なはずだ。……教員寮には食事施設はないはずだけど、今日の朝と昼はどうやって食事を取ったんだい? 今朝に到着したんだろう?」

「おギンが持ってきたんです。『秘密兵器は隠すから秘密兵器なんです』と言って、俺を軟禁していましたから」

 先ほどハクラ先生に「おギン」と呼びかけていた。僕はハクラ先生のフルネームを知らないけれど、それがハクラ先生の渾名だと連想できないバカではない。

 学園は生徒に、教員のフルネームを明かさない。きちんと生徒手帳に、そういった旨が記載されている。名前を呼び合うことで必要以上に親密になるのを防ぐためだ。これはアオナシの歴史としては浅く、数十年前に制定された校則らしい。……制約が増える。それはつまり、やり過ぎた生徒と教師が過去に在籍していたことの証明だ。僕はこういった過去の人間の犯した過ちを思うと、どうにも切ない想いをしてしまう。

 しかしそれにしても……「おギン」「坊っちゃん」という呼び名。いか様な関係か。選択肢はそれほど多くないだろうが、僕の想像が正しい場合、なにやらの思惑が働いていそうだ。

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