表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/44

「青」天の霹靂・6

 応接間は職員室の隣にある。本来は、お偉い様のために使用される、らしい。僕はこの部屋が正式な使われ方をした場面を目撃したことはない。この学園に来客などこないからだ。では何故、こんな空間を作ったのだろうと、僕は常々思っていた。なるほど、こういう時か。

「来たな」

 ハクラ先生とはこれまであまり大きな接点はなかった。今年に入り、僕のクラスの担任となった。異国の血を引いているようで、銀色の髪がとても目を引く。その割に、どうも影は薄いというのが僕の印象だ。口調の堅さとは裏腹に、全体的に漂う、ほんわりとした空気のせいだろうか。いつもなにを考えているのかよく分からない。ただ今は、目がちょっと赤くなっていて、少し鼻声だと感じたが。

 そのハクラ先生はソファーに座ってずずっとお茶を啜っていた。僕が到着するまで歓談にでも興じていたのだろうか、カップに注がれた紅茶は湯気が立っていなかった。暖かい時期でもなければ、冷たい紅茶にはしないだろう。

 まあ、こちらは割かし、どうでもいい。

「坊っちゃん。全生徒憧れの存在、【お兄さま】に選ばれた女性です。坊っちゃんのクラスメイトでもあります」

 問題は対面にいる、他校の制服を着た、『彼』。

 短く揃えられている髪。丸みがなく、定規で太い線を引いたような体つき。炯々と輝く瞳。それらは全体的に、僕が動物園で一度だけ生で見たことのある、虎を思わせた。

 なのに朗らかに笑うと、爽やか好青年。これをまともに向けられれば、数多の女性が彼の虜になるだろう。どうしようもなく、彼は男という生物だった。

 ……しかし、その目は如何ともしがたい。底が知れない。

 ハクラ先生は静かに立ち上がり、僕と目を合わせる。

「ナシヤマになら、坊っちゃんを安心して委ねられる。まず始めに、最初は学校案内をしてもらいたい」

「は、はい?」

「了承したな。では、あとは若い人たちに任せる」

 聞き返しただけの言葉なのに、了承と無理矢理受け取られてしまった。そのままふわふわと部屋を出て行ってしまう。僕には解除不能な爆弾を残してだ。……ハクラ先生って、あんな性格だったかな。

「どうも初めまして、諫早森羅です。すみませんね。突然押し掛けたのに、こんな厚かましく」

 ニコリと笑いながら、僕に一礼をしてきた。とても礼儀正しく、まさに優等生といった感じ。

「いえいえ。まだよく掴めていないけれど、頼まれては仕方がない。僕はハクラ先生の命令通り、学園案内の役を買わせてもらうことにする」

 ハクラ先生は僕を【お兄さま】と紹介した。ならば僕の求められている彼の対応はこれで正解なはず。佐手さんにもハクラ先生にも任されたのだから、こちらも好き勝手やらせてもらう。

「そうですか、ありがとうございます」

 彼はテノールの声でそう言った。その首には、喉仏がくっきりと飛び出ている。男装した女子……という線は、残念ながらないようだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ