「青」天の霹靂・2
そんなこんなで、二分以内に自分の持ち分を終わらせることのできた僕は(あと少しで終わるというところで手を止める裏ワザを使っていた)、佐手さんの元へ急ぐべく行動する。
手紙には制服着用とあったから、十秒ほど悩み、青い学ランの方へ袖を通した。あまり着慣れていない学ランに想定以上の時間を掛けてしまったので、駆け足気味に廊下を移動。寮監に見つかったらコトだが、少しでも早く馳せ参じるために。
寮から校舎までは、道路でL字型に結ばれている。これを道なりに歩けば、どうしても五分くらいは必要。もっと寮の近くに建設してくれればいいのに……と僕なんかは思うけれど「その数分で遅刻するような慌ただしい行動などせず、いつもゆとりを持つように。そんな精神の現れなのではないかな」と佐手さんが言っていたのを思い出す。眼から鱗だった。
だが、善は急げと先人はおっしゃった。近道を選ぶ。始点から終点へ、直進で中庭を突っ切る。昔のレースゲームのように大きくショートカットし――
「おや梨山先輩。またそんなはしたないことを」
……急がば回れとも言ってましたね先人様は。貴方を軽んじたばかりに、会いたくない人にばったりと会ってしまいました。後悔の念で満ちる。
ここで無視をしたら角が立つ。僕は一度立ち止まり、ベンチで腰を落ち着かせている彼女に向き合った。取り巻き三人が、僕を粘っこい目で睨む。統率のとれたことで。
僕の大嫌いで大苦手な女性。いつだって取り巻きを引き連れ大名行列。「一人で食事? 一人でお手洗い? どこの蛮族の文化です?」そういう人だ。
僕らの使う『先輩』『後輩』の単語には、先に入学した生徒、後に入学した生徒、それ以上の意味はない。下手に敬称をつけたくないし、だからと言って呼び捨てをするには、僕らの立場を考慮すると好ましくない。苦肉の策だ。
僕はこの人が苦手だし、嫌い。僕は無味乾燥に、年下であろうが丁寧語にしている。あちらも僕が苦手且つ嫌いと公言している。なら近づかないでほしいのだけれど、ズケズケ特攻してくるあたりが、僕は更に苦手だ。
「どうしました。顔が青いですよ布浦後輩」
僕が一応はそう呼びかけると、一同はやや困った顔をする。
「わたくしはアオナシが穢れるとすら思っていますのに。そうでなくても、どうやってクラスのみなさんに説明しようと悩んでいますのに……梨山先輩は暢気なものですのね」
「…………?」
疑問にはなったが、それ以上は皮肉気に鼻で笑うだけで、実のある情報を伝えようとしているようには思えなかった。なんだか気味が悪いので、僕は早々に立ち去る。
まだ時間に猶予はほんの少しだけある。気分転換をしておこう。
日に日に空気は冷めやすくなってきた。とはいえ、こんな突き抜けるような晴天の下で、どうして心に曇天を纏わせなければいけない。すーはーと深呼吸。よし、なんとか。




