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「バイバイ」

推敲の時間が足りなかったので、ちょっと不備があるかもしれません。

申し訳ありません。

「い、痛かった……」

 あんなものはもう二度と味わいたくない。

 特に頭。

 本気で殺しにかかっているとしか思えない転がり方をした。具体的に言えば頭をあちこちにぶつけた。下手をしたら、適当な木の枝に頭が突き刺さってたんじゃないだろうか?

 もし生き残っても間違いなく障害が残りそうな衝撃が頭に与えられたはずだ。


 しかし……、改めて見下ろしてみるとすごい光景だ。


 こういうのを臨死体験、というのだろうか。

 いや臨死も何も本当に僕は死ぬのだ。

 病院の一室、たくさんの管を突き刺された僕の身体が、ベッドに横たわっていた。

 僕はそれを宙に浮いたまま見ていた。

 死にかけたとき、自分の身体を見下ろすことを臨死体験というのなら、この後死んでしまうこの体験はなんというのだろう。

 くだらないことを考えながら、もう一度僕の身体をじっくりと観察した。

 僕の身体はボロボロで、あちこち青痣が見え隠れしていた。

『これは葬式の時に、見るに堪えないものが出来上がりそうだね』

 僕は何だかおかしくなって笑った。

 僕はまだ死んでいないのだ。

 僕に繋がれた心電図は未だ鼓動があることを示している。

 死神の少女は、まだ現れない。

 もしかしたら僕がまだ死んでいないからかもしれない。

 しかし、こうして見ると結構酷い傷を負ったものだ。

 さっきも言った通り、これじゃ葬式は大変だなぁ。

 しかし、もうそれは僕に関係のない事だ。

 僕は病室の外へ抜け出し、空から街を眺めた。

 酷くタイミングが悪いことに、雨が上がり、雲の切れ間から太陽光が零れた光景が目に映った。

 うっすらと虹までかかり始めた。

 僕は手を伸ばす。


 僕には、この日差しも、雨の匂いも、草の匂いも、蒸した空気も、虹のアーチも全て関係なくなってしまう。

 死んでしまうと、あらゆる現実から解放される。

 それは僕が苦しんでいた人間関係や、僕自身の感情だけじゃない。

 こんなに綺麗な空や虹と言った自然からも解き放たれるのだ。


 不思議なことだ。

 この光景だけを見ていたら、


 もっとこの世界で生きていたくなったよ。


 ……。

 馬鹿馬鹿しい。

 僕は小さく笑った。

 そして僕が、死んだ。



「後悔、してる?」

 現れた死神は開口一番そんなことを聞いてきた。

「してないよ?

 なんで? というか、死神は人間が後悔してたら命を奪わないものなの?」

「いや、後悔しようが抵抗しようが問答無用で奪うけど……、ってそうじゃないの。あんたがその、そんな風に見えたから」

 僕はそんなに沈んでみえるのだろうか。

 目の前では両親が泣いていた。

 肩を震わす二人を見て、申し訳なさを感じないわけがない。

 でも、後悔はしていない。

 二人を悲しませてまで、僕は死にたいと思ってしまった。

 それが自分でも嫌で、だからこそもっと死を望んでしまう。そんな悪循環に陥っていた。

 いつか、そのせいで僕が壊れてしまうのなら、この形が一番良い結末だと思う。そう、信じたい。

「心配してくれてありがとう」

「……」

 まじまじと顔を見つめられて、ちょっと照れる。

「どうしたの?」

「いえ、つくづく変わった人だなと思って」

「死神にお礼を言ったから?」

 彼女は曖昧に微笑んで返した。

「さて、それじゃ行こうか?」

 どこへ行くのかも分からないけど、彼女が死んだ僕の魂に会いに来たのなら、僕を連れて行くのだろう。

「いいの?」

 彼女は両親、そして窓の外へ目を向けながら尋ねた。

「早い方がいいでしょ?」

「そうかもだけど、でも、みんなの別れの言葉を聞いてからでもいいんだよ?」

 僕は彼女の視線を辿り、ゆっくり首を振った。

「……生者の死者への言葉は身勝手だからね」

 何だって言える。何を言っても僕は反応できないのだから。

「聞かなかったことで後悔しない?」

「……それでもだよ」

「なら構わないわ」

 あっさりと引き下がってくれた彼女に、もう一度ありがとうと呟いた。


 死神はふわりと空へ浮かび上がった。

 それに導かれるように、僕もゆっくりと空へ向かう。

 僕は小さくなっていく僕の世界に向けて小さく呟いた。


「バイバイ」



次話にて、最終話となります。


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