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貴族レコルドゥム・ヴィデンテスの証言

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先代の魔王インぺリウム・イミティスが魔王リエール・モルスに武力をもって倒されたことはパクス=ディエス王国国民全員が知るところではあるが、それ以前に政治的な追い詰められ方をしたことは意外と知られていない。

当時軍団長だったリエール・モルス(当時はスピシエンティス姓だったが混乱を防ぐべくここではモルス姓で統一する)が魔王になれたのは当時大書庫の管理を務めていた司書フィーデス・エスティオークの存在が大きいと考えられる。

下級貴族の出の彼は司書として歴史を記録、管理する仕事をしていたが、魔王インぺリウムはその存在を深くは理解せず、主に戦の数字管理に任せていた。

同僚の私からすれば非常に荷の重い仕事だったと思うが彼はよくやっていた。

そこで必然的に交流頻度が上がるのが軍部関係者である。

中でも軍団長リエールはその戦果の大きさから必然的に接触回数が増えていった。

最初は副軍団長テルム・ヴェナートが報告をしに来ていたのだが、フィーデスと大喧嘩をしてからリエールが報告書を提出するようになった。

そこからフィーデスとリエールの関係は始まった。

リエールは実に勉強熱心な人間で、戦果報告のたびにフィーデスから何かと本を借りていった。

哲学に、帝王学、戦術書あたりが主な読み物だった。

興味深いことに彼女は人間でありながら魔族の言葉に堪能であり、時として詩歌を作っては私に推敲を求めてきたこともある。

彼女の詩歌はさながら報告書のようであるが、文法に差しさわりはなく非常に簡素な詩ながらも人間ならではの言葉の回し方に趣を感じる所である。

言葉の壁を乗り越えてくる、これが彼女の一つの武器である。

彼女の言葉はいたって簡素だ。

無骨と言っても差し支えないだろう。

その飾り気のない言葉が時として相手にこれ以上ないほどの信頼感をもたらす。

フィーデスもそれに乗せられた一人だろう。

静かに語られるリエールの言葉にフィーデスは全幅の信頼を寄せるようになっていった。

リエールが自らの野望を語ったのはその頃だと推察される。

そしてリエールが報告書を提出するようになって確か一年もしたころだったと思う。

魔王インぺリウムが国庫の出納を大書庫に投げてきた。

本来の出納係が魔王の不興を買ったという事で処刑され、その分の仕事をこちらが担当することになった。

金の管理は弱点の露呈に他ならない。

これを確認したフィーデスの動きは早かった。

次々と貴族たちを揺さぶりにかかった。

お前たちと元出納係が癒着していたことは知っている、黙っていてほしければこちら側につけ。

おおよそそういった内容だった。

ちなみにわが伯父も癒着をしていたことが判明した。

何とも情けない限りである。

私の父は絶好の機会とばかりに掃除し、嬉々としてフィーデスについた。

貴族たちは慌てふためいたに違いない。

なにせ弱小貴族だったフィーデス・エスティオークが弱点を元手に着々と頭角を現していくのだから。

潰そうとすればフィーデスが魔王インぺリウムにひっそりと耳打ちする。

以前魔王様をご立腹させた出納係がどこそこの貴族と癒着していたそうですよ、と。

次の日には魔王軍がその貴族を滅ぼしにかかるという寸法だ。

傍観者としては見ていてこれ以上ないほど面白い景色だった。

他にも色々と小細工をしていたようだが、私から観測できたのはこればかりである。

そして大半の貴族が力を失った頃にリエールは魔王軍ごと反旗を翻し、まんまとインぺリウムを蹴落としたわけである。

とはいえ、やはりリエールの戦いぶりが語り草になるのはそれだけインぺリウムが一騎当千の強者であったからに他ならず、それをリエールが一人で倒してしまったからであろう。

私も遠くから見たのだが、文官の私には光が走るばかりで何も見えなかったとだけ言っておく。


かくしてフィーデスは司書から宰相となり、内政としては優秀な政治を敷いたと言える。

弾圧から解放へ、そして一部とはいえ自治を委任するという思い切った采配は魔族だけでなく他種族から歓喜の声で迎えられた。

そこで増長した政治を取れば動くのはもちろん魔王であり、見せしめが行われる。

まったくあのかわいい後輩はいつから飴と鞭を見事に使い分けるようになったのか、司書長として関心しながらも元上司として嘆かわしいばかりである。

内政面では非常に優秀なフィーデスであったが外交面においてはかなり厳しく評価しなくてはならない所もまた事実である。

まずインぺリウム亡き後も外交政策を変更しなかったことは批判しなければならないだろう。

戦争中という中で行ったクーデターなのだから他国と極秘裏に休戦し、平和をもたらすという事も出来たはずである。

そこにおいて動かなければならないのは軍事を担うリエールの役割であり、それを行わなかったことによる国民への不安は懸念しなかったのかと疑問に思わざるを得ない。

しかも、当時軍は大規模攻勢を行っており軍団は副長のテルム・ヴェナートが行っていた。

大規模攻勢においてリエールは軍団長としての責務を放棄し、己の利益のために動いていたのではないか。

攻勢の規模を考えるとうがった見方をされてもおかしくはない。

なぜあの時期だったのか、そこを考察する価値は大いにあるだろう。

が、これ以上「調べもの」をすれば私もただでは済まないことになるのは重々承知である。

とはいえ、推測はできる。

おそらく魔王リエールは血と鉄の上に成り立つ平和を求めているのだろう。

彼女の出自を考えれば存外腑に落ちる仮説ではある。

とはいえ、これ以上は妄言だ。

記録とは認められない。

読者の諸兄には私の日記を参照していただくことになるだろう。

以上がレコルドゥム・ヴィデンテスから見た「リエールの乱」の記録である。


『ヴィデンテス記録:レコルドゥム記録 - リエールの乱』より

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