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不死の魔女-増長した人類に鉄槌を下し分からせる絶対不敗の存在-  作者: 手の遅いエリオット


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第三十一話

トーキョーのセントラルタワー。そこの厳重に秘匿された一室に財務官は執務室を構えていた。

彼の部屋はとても質素であり、不要な調度品は一切ない。議長を始め、トーキョーの高官たちが前世の様式を模倣した煌びやかな家具や調度で飾り立てているのとは対照的だ。

部屋の持ち主はそういうことに全く興味はない。彼が興味があるのはただひたすらに経済の設計と人類社会の迅速なる発展だけである。前世で実現できなかった理想を夢見て人類社会を発展させる、それだけを追い求めているのでミクロな人々の細かな事情には関与しない。それが彼が信じる流儀である。


彼の手元には報告書が並べられている。どれもトーキョーの今後を占う大事な指標となるものだ。


一枚目は魔力炉の稼働状況が記されていた。収容されている人数、一人平均の魔力の回収量、回収されている魔力と維持するのに必要な魔力の収支。

これが有効に稼働しなければ、将来の予定が立たない。彼にとっては喫緊の課題だった。


彼が推し進めている魔力本位制。これの最大の問題は、あまりにもエネルギーと貨幣が密接になりすぎたことにある。


各個人が保有している魔力の定量化、それを見える形にする魔力電池。それをベースとした魔力本位制。一見すると非常に洗練されて利便性の高いシステムであった。

魔力電池の原料となる特殊金属は、外部には秘匿された鉱山から採掘されている。これはトーキョーと生産を担っているオオタの一部の人間しか知らない。

電池の普及はトーキョーの市民なら成人の7割、それ以外でも半数が所持している。各世帯にはほぼ完備されている、生活に無くてはならないものだ。


エネルギーが貨幣の価値を支え、貨幣価値の後ろ盾になるケースは地球においても過去に例があった。産油国ではまさに原油の価値が国家の実力となっていたものだ。

だが、行き過ぎた貨幣とのペッグ制は深刻な副作用を生じさせていた。


魔力がそのまま貨幣として機能しているので、金融機関からの借り入れや債券を発行しての資産と負債のバランスシートという概念が原理的に存在できないのである。

これはつまり、現代経済学における信用創造が成り立たないのと同義でもあった。


本来であれば国債を発行して国家の財政を支えるものだが、ここでは現物である魔力がないと貨幣価値が産まれない。分かりやすく言えば『ガソリンタンクを財布として持ち歩き買い物で使っている』ような経済なのだ。国家予算もガソリンをそのまま用いて算出していると思ってもらえば良い。トーキョーにおいては住民からの徴税のシステムも円滑に動いていないので、財政としての安定性にはほど遠い。結果として貨幣の流動性が乏しい。


また、個人が魔力電池を各々で持って運用していることから、市民が銀行に頼る場面がない。預け入れを行う必要がないのである。これは、事業を興す際に貸し付けを行う金融機関が存在しないと言うことと表裏一体であった。

実質的に金融機関が存在しないので、魔力との引き換えで兌換債券を発行しても引き受ける大口投資家が乏しい。一応あるにはあるのだが、募集しても引き受け手が現れないのだ。プレミアムを乗せても入札が不調に終わり、試験的に応募した債券には最終的に金利20%にまで上がってしまった。これは満期時にに魔力を二割増しで返さねばならないので、大規模に募集できる利率ではない。だがそれも市場原理の結果である。信用のない債券が高金利を求められるのは当たり前のことだ。


なので結果としてトーキョーの公的な予算編成は極めて難航することとなった。


貨幣価値の柔軟性を高め、これを補うのが魔力炉の運用である。

炉と呼称しているが、その実態は単なる魔力を収奪する人権無視の収容所である。


トーキョー周辺で転移してきた転生者を、見つけ次第回収してトーキョーに連れてくる。そこで魔力の測定を行い、100以上の魔力保持者を選別して面接を行い、あまり頭の回らないお人好しを昏倒させて魔力炉に連行する。英語の話せない日本人は格好の獲物である。

そのまま外部と隔離したまま施設に閉じ込め、魔力を生み出す装置とするのである。


これは、転生者はこちらの世界に関して知識がない間に隔離してしまうことで、「ここは死後の世界でありそういう世界なのだ」と思い込ませて諦めさせて成り立っていた。非常に人権的に問題のある方法ではあるが、それに気付かせないように運用を行っている。

効率と安全を考慮し、眠らせたまま生かして魔力を奪い取る方法も模索されたが、それだと健康の問題から魔力の産出量が安定しないので却下された。現在では刑務所のように看守が立哨して適度な運動も取らせて健康を維持させるやり方に落ち着いている。今のところ穏便に運営できているようである。


財務官の目論見としては、この魔力炉がバランスシート上の負債枠として計上できるように整えるつもりだった。それだけの規模にまで引き上げていく予定となっている。


細かなことは現場に任せる。統括する彼にとっては予定した数値と現実に上がってきた数値を見較べて達成率を算出しつつ、それを予定に近づけていく方策を考えさせるまでが仕事だ。些細なことは彼が考えるタスクではない。

現場では担当の者が知恵を絞って何とかするだろう。彼はそれを実績からチェックして達成に応じて報酬を与えるだけだ。


二枚目はノヴィ・ソユーズ調査隊からの中間報告。現状の状況が簡素にまとめられている。


ノヴィ・ソユーズ壊滅に伴い、セメントや鉄鋼など建材や原油を原材料とする化学物質の供給が途絶してしまったのも頭の痛い問題だった。トーキョーにおいては産業振興策として積極的に建造物を増やして経済を回していた側面が大きかったので、これが詰まると各方面に多大な影響が生じる。トーキョー周辺で補えない物品は枯渇すると回らないのである。

殊に現場作業員の仕事がほぼ止まってしまったのが深刻だった。社会環境の安定を目的とし雇用を創出して魔力の循環を促進していかねばならないのだ。

失業者の増加は社会不安に直結する。社会奉仕などのMMT的な雇用創出だけでは限界があるのだ。建設業に取って代わる特殊な技能を必要としない仕事を供給するのは急務であった。ノヴィ・ソユーズ調査チームの続報もそろそろ上がってくるはずだ。これも精査して対策を練らねばならない。言うまでもないがノヴィ・ソユーズ復興か、それを代替できる産地の用意が調うのが一番である。


三枚目はトーキョーにおける人口動態。戸籍制度が確立していないので精緻なデータはないが、概算として5年ごとの出生率と年代ごとの人口集計が上がってきている。


結論としては、とにかくエネルギー供給と貨幣流通量に直結するトーキョーでの魔力産出量を増やさねばならない。マクロの視点から言うなら、とにかく人口を増やすことだ。願わくば前世持ちの魔力を潤沢に持つものを優先的に増やしたいところではあるが、そうでなくても構わない。過去からの蓄積データで現地人と転生者の混血児に魔力を有する者が優位的に産まれることは分かっている。ならば特に制限を設けずとも出生率が上がれば期待値として魔力産出量の増加は予測できる。どんな方法であっても良い、子供を増やすことが最優先だ。多少の課題は魔力が増えれば力業でゴリ押しが可能だ。民間の活力も使えば何とかなるはずなのだ。現在はそこに不安があるので行政側が手助けをしてやらねばならない。


……可能ならば、人間由来以外の魔力供給元が確保できればとも思う。そんな都合の良い存在が見つかるとも思えないが。


……


そこは地盤の底深く、人には決して立ち入ることのできない岩盤の奥底。

かつて、文明が途絶するまではエステラと呼称されていた惑星の地下深く。その名前はその世界では誰もが忘れ去ってしまい、ほとんど使われることはない。魔女自身もその名は忘れてしまった。


そこに、千年以上の長い時間を費やして魔女が自らの活動拠点として掘り進めた広大な空間があった。

魔女には呼吸するための酸素が必要ない。自らが発光するので日光を取り込む必要もない。自らをエネルギー体として変換して物質を通り抜けることもできるので空間として繋がっている必要もない。

よって、その空間は地中深く完全に外界と隔絶したものであった。


暗い空間にぼんやりと光を放つ魔女の分身たち。

彼女たちは、ここで休むことなく一心不乱に魔方陣の作成に取り組んでいる。


魔女が使う魔方陣は、人間側が使う微細な魔方陣とは全く異なり、とても巨大である。魔方陣の回路が細くて華奢であったら魔女の魔力に耐えきれないので、大きさも文様も大きくないと機能しないのである。

ベースとなる素材は薄くそがれた頁岩から作ったスレート板。

サイズとしては一番小さなもので数十センチ。大きなものになると20メートル四方を越える。

膨大な魔力を通す文様は、刻み込むにも時間が掛かる。大きくて複雑で堅牢な魔方陣の作成には大変な時間と労力を要するので、複数の分身がかかりっきりになっても魔方陣一枚を仕上げるのに数年掛かるのだ。割れやすい石版に文様を刻み込むので、繊細かつ緻密な作業となる。


魔方陣を魔女が使うようになったのは、魔女にとってはつい最近のことだ。もちろん人間の尺度で言えば大変長く、数百年以上にはなる。

人間が魔力を持ち、固有魔法を持つようになったのと同じくらいの時間である。即ち、この世界で魔方陣を伴って魔法が行使されるようになったのもそれからである。


一番巨大な魔方陣は、地平線の端から端までを軽々と焼き尽くせる威力を誇る。それ以上の大きさの魔方陣を書くことも物理的には可能だ。しかしそこまでのものには使い道がないので作っていない。

そもそも、魔方陣は魔法を安定的に放つためのものでもある。威力だけで暴走させても構わないなら魔方陣は要らないのだ。魔女の全ての魔力を解放すれば、この星そのものを消し去れるまでになる。だが魔女はそれを望まない。やっても自分が死なないからだ。自分だけが残されて他の全てが無くなってしまうのは嫌なのだ。退屈でどうにもならなくなるから。


そういう意味においては、人間というのは退屈しのぎにはちょうど良かった。確かに身の程を知らない、傲慢で生意気、ややもすれば教訓を次代に残さない、何度も同じ過ちを繰り返す、その都度魔女が人間を分からせる。人間側の歴史には綴られておらず、魔女にも大昔の記憶は失われているので、いつからそれが繰り返されているのかは、もはや誰にも分からない。長くても二百年足らずで繰り返している。それを数え切れない回数で繰り返している。魔女にとってはうんざりするばかりだ。


魔女にとっては、ここ数十年の変化はある程度好ましいものでもあった。人間側の技術進化が早く、あらゆる物が発展の途上にある。しかも前世持ちたちの話から察するに、『まだ技術進化は前世に追いついていない』らしい。ならば理性と共に魔女と人間が共存できる未来も有り得るのではないか?そう魔女は期待しているのだ。

魔女は越虚にも期待を掛けていた。人間としては長命の彼が、人間社会を可能な限り導いてくれればその期待も大きくなりそうだ。あまりに期待しすぎて叶わなかったら落胆してしまうから、そこは割り引いて期待することにしている。うまいこと分身を伴わせ導く仕掛けも施せた。何かあっても多少はうまくやれそうだ。

そしてカツウラの存在も魔女にとっては希望だった。他の地域や国で人間が暴走しても、カツウラさえ残せればやり直せる種になる。そう信じて魔女はデイジーを置いてまで気に掛けているのだ。……魔女は気付いていないが、デイジーが一向に歳を取らないので幾人かが何かを悟っている様子がある。だがそれはもう少し後になるまでは明るみに出ないのだが。


ちなみに、トーキョーで採掘している魔力電池の原料の金属は、ここの近辺が鉱脈の大元となっている。

魔女の活動により周辺の鉱脈が変質し、魔力を貯蔵できる性質になった金属なのである。

これは、トーキョー側でも魔女側でも把握されていない世界の秘密であった。

一旦、ここで休止とします。完結ではありません。

またメインの登場人物を改めて世界や一部登場人物を引き継ぎながら新たな話を紡ぐ用意もしております。

しばらくお時間をいただきます。ご了承ください。

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