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不死の魔女-増長した人類に鉄槌を下し分からせる絶対不敗の存在-  作者: 手の遅いエリオット


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第二十九話

「よっしゃー!ついたー!退屈で死にそう-!早く出よう!」

「あー、ちょっとハパナ!内側から扉を開けないでって!あーーーーっ!」


乗合ドローンの開閉扉を内側から強引に開けようとして、扉がメキメキと悲鳴をあげる。

開きかけていた扉は異音を発して動きを止めてしまった。


その後、ドローンの持ち主が動かなくなった扉のあちこちに手を入れて修理し、どうにか人が出られるスペースを確保できた。乗り合わせていた人たちはブツブツ文句を言いながらその隙間から外に出てくる。


「まったく……うちのドローンを壊すとかどういうつもりだよ?これじゃ商売あがったりだ!知ってる?この手のドローンは本格的に修理するにはオオタのサービス拠点まで曳航してやらなきゃならないんだ!こいつは先月メンテナンスが開けたばかりだってのにさ、これで再入院だよ!ああもう面倒な!」

「すいません、すいません、すいません……」


持ち主が怒って文句を言うのを目の前に、一組の男女がペコペコ頭を下げていた。

その傍らでは壊した張本人が地べたに座り込んで暇そうに空を仰いでいる。本人はそっちに加わって謝罪に加わる気は一切ないようだ。


「なんかさー。外に出たくて押してみただけじゃんね。それで壊れるとか、そもそも機械としてヤワすぎなんじゃないかと思うんだよね-」

「もう、ダメだよハパナ。あなたは他人よりちょっと力が強いんだから、手加減してくれないとね」

「え……デミアソルナさぁ、ちょっとってレベルじゃないとティリシナは思うけどな-」

座り込んだ張本人の横に、頭を撫でて抱きかかえている女の子と更にその横で腕組みをしている小柄な女の子。


それを横目に見ながら、謝っている女の子が魔力電池を取り出した。


「すいません、問題を起こしといてこういう話をするのも恐縮なんですが、さし当たって必要な魔力があるならお詫びとしてお出ししますので……」

「ああ、はい。俺たちは魔力はまぁまぁ余裕があるので、遠慮なく」

隣にいる男もそれに続いて頭を下げる。


「あのさぁ、魔力で済む話じゃないんだよ。でもまあ誠意を見せてくれるつもりなのは分からんでもないけど。そもそも人の持ち物を軽々しく壊すなって話でさぁ……」


何だか、さっきまで怒りに震えていた持ち主の雰囲気が変わってきたようだ。

顔つきも険しさが和らいできて、言葉の調子も緩んできているように思える。


「で、きちんと魔力は出してくれるのかい?口だけじゃないだろうね?」

「あー、はい!すぐに出せるのは500くらいになりますが」

「え!?すぐに?とっ払いで!?」

「ええ。さっきも言いましたけど割と余裕はあるんです」


数字を聞いて相手も想像以上の呈示を受け、さらに態度は緩んだようだ。


持ち主と女の子が双方共に電池を出し、四段目の真ん中のゲージを操作して魔力の受け渡しに入る。金属部分を接触させ、無事に相手の電池へ魔力が移動した。


「はい、確かに。……それにしてもこれだけの魔力の余裕があるなら自分たちで移動用のドローンを持てばいいのに。できるでしょ?」

「あー……前にもそれ、言われたことがあるんです。オオタで見積もりもいただいたんですけど、魔力はあっても設備的に維持できなくて。私たちだけではうまく回せていけないんですよ」

「なるほどなぁ、そっちの問題かぁ。うちで余裕があればメンテナンス代をいただけば保守はついでにやれるかもしれないけどねぇ」

「ありがとうございます。前向きに考えてみますね」


非常に高価なドローンを壊すという本来であればとてつもない大問題を起こしたのにもかかわらず、謝罪と詫び魔力でなんとかその場を乗り切った彼ら。ドアが閉まりきらず半開きのまま、件のドローンはその場を離れていった。


「はああああああああああ……」

「何とか乗り切ったわね……」


男の名前はロン。前世持ちだ。腰に自作の木刀を提げている。

隣の女の子はティカナ。女性四人の中では上から二番目で21歳。他が頼りないので問題が発生した場合、彼女が面倒を背負い込む損な役割となっている。


「おつかれー!あははー」

自分が問題を起こした張本人なのにまるで意に介さず笑顔なのがハパナ。年齢は18歳だが精神年齢は恐らく一番幼い。


「だめよ、もう……頑張ったわね、ロン」

そういいながらロンの頭を抱え込んで頭を撫でているのがデミアソルナ。女性メンバーの中では一番年上で、常に誰かを甘やかして慰めるポジションにいる。


「もうー!またそうやってロンを独り占めにしようとするんだからー!」

大声でデミアソルナを引き剥がそうとしているのがティリシナ。面々の中では一番年の若いティカナの実の妹だ。元気で明るい。彼女が魔力を持たず、姉以外には家族揃って魔力を持っていないことで色々苦労をしてきたことから、魔力持ちの人への憧れが人一倍強い。なので並外れた魔力を有しているロンには絶対的な信頼を寄せている。そして彼を何かというと引き寄せてスキンシップをするデミアソルナの行動に目くじらを立てる。


ロンを中心に、デミアソルナとティカナが両隣にいて仲良く手を繋ぎ、ティカナと手を繋ぎつつデミアソルナの行動を監視するティリシナ、そしてあちこち走り回りながらもロンのところに戻ってきて抱きついたり顔を胸に押しつけたりとはしゃぎ回るハパナ。

彼らはいつもこんな調子だった。傍目から見て冷静そうに見えているティカナも、内心ではウキウキして握った手を意識して離そうとはしない。


ただ一人、渦中にいるロンだけが浮かれていなかった。


『こんなの、あり得るわけがないんだよ。フラグ管理もしてないしイベントを起こしたわけでもないのに、なんで俺がハーレムルートに入ってんだよ。絶対破滅イベントじゃん、こんなの……』


彼は前世ではギャルゲーが大好きだった。日本の恋愛ストーリーが大好きで、それが高じて苦労して日本での永住資格を取得して日本で必死に仕事して趣味に費やしていたのである。特に難易度が高く攻略が難しいヒロインを落とすのが楽しくて仕方なかった。

日本に渡ってからは和服にも興味がわいて、狭いワンルームの部屋に大量のハンガーラックを置いて、ゲームのパッケージを積み上げ古着屋で購入した和服のコレクションを大量に置いていた。それらを眺めながらゲームに興じて日頃の仕事の疲れを癒やす日常を送っていたのだった。あまりに趣味にのめり込みすぎて、日本では人間関係を構築できず、残してきた故郷の家族にも塩対応で疎遠になっていた。


彼がこちらに転生したのは、粗悪品のモバイルバッテリーが充電中に火を噴き、部屋中にぶら下がっていた古着に瞬く間に燃え広がり、逃げる間もなく炎に包まれて命が尽きたせいだった。


大事なコレクションが焼けていく。自分の体も灼けていく。熱い、熱い、痛い、痛い。やがて顔も焼け焦げたのか視界が失われ気を失って……


次の瞬間、心配そうな二人の女の子の顔で目を覚ましたのだった。それはティカナとティリシナの姉妹だった。


他の転生者と同様に、ロンはここは異世界転生世界で良くある冒険者として経験値を稼いで名声を上げる世界なのだろうと思い込んだ。

だが、魔物もいないし経験値もないし冒険したら強くなるとかないしステータス画面もない。魔法があるけど呪文詠唱もない。魔方陣を機械にセットして電池で発動するシステムとか、ロマンのかけらもない。しかし彼は転生者としても人並み外れた魔力量を持つと判明した。そして魔力がお金として機能していて、魔力が多いと遊んで暮らせるシステムになっているという。……つまりそういう転生ボーナスなのだろう、そうに違いない。


二人から色々説明を聞きつつ後から話を聞いた限りでは、強い魔力なら感知できるティカナが遠くに魔力と光の強い反応を感じて、二人でそこに向かってみたら虚空から生成されるロンを見つけたのだという。そしてそれはこの世界でもめったにない、『転生者がこの世界に顕現する瞬間』だったらしい。そうやって人が現れてくると風の噂では良く聞くのだが、実際にその光景を目にするのは稀であるとのことだ。しかも彼は卓越した魔力を持っている。一緒にいるだけで食いっぱぐれないほどに。

それもあり、二人にとっては運命の出会いであるとの印象が強くなったようだ。

彼としては異世界の冒険世界を背景にしたギャルゲーワールドなんだと思えてならなかった。召喚イベントに居合わせた初期メンバーですね、把握した。


ロンにとってみればそれはいわゆるシナリオ上必要な出会いイベントだろう。強制発動のやつだ。

そして二人はフラグ管理をしなくても好感度が高いままの初期キャラとでも考えていいのだろう。誰だか知らないが雑な設定でヌルゲーを始めてくれたものだと思う。


姉のティカナは頭がいい。何かと相談にも乗ってくれるし、いざというときには決断力もある。妹のティリシナは姉思いのかわいらしい女の子だ。ロンにもすごく懐いていて、椅子に座ると彼の膝の上にすぐ乗っかってこようとする。

なおティカナは体型が控えめなのがコンプレックスであるらしく、特に妹より胸がないのを指摘されると鬼神のように怒る。それさえ気をつけていればだいたいは機嫌がいい。


次に知り合ったデミアソルナは二人との直接的な関係はないはず、だが出会いイベントで速攻仲間に入って、見る間に好感度MAXになってしまった。

なんかあらゆるところで色気がすごい。成人向けゲームのキャラクターみたいだ。お願いすればすぐいけそうな雰囲気もする。

彼女の不機嫌ポイントは魔力の無駄遣い。特に値段の高そうな物を衝動買いしようとすると、そうはさせじと説教をしてくる。余裕があるんだから多少はいいだろうと言っても、将来的に何があるか分からない、使いすぎは取り返しが付かなくなることもあるんだと頑として聞き入れない。逆にお買い得な品物などの情報には敏感で、放っておいても店主と価格交渉をしたりする。そして値引きが成功すると丸一日ご機嫌だ。


その後行きがかり上拾ってしまったハパナ。頭はゆるいけど怪力の持ち主で、冒険の仲間として戦闘力はある。だが何かと周囲のものを力任せに壊してしまう面倒な性分の持ち主。本人に一切悪気がないのと、それを改める気持ちもないのが始末が悪い。とは言え群を抜いて顔も体型も女らしく、黙っていればすごくチャーミング。無邪気なムードメンバーとして機能はしている。厄介だがかわいいし体型も好みだし、仕方ない。


全員かわいい。全員魅力的。そして全員好感度が天元突破。特別にイベントを進行させた覚えもないのに好感度がみるみる上がってしまった。

さすがにこんなヌルすぎるギャルゲーはストーリーとして雑すぎるんじゃないか。容姿抜群なヒロインが労せず集まり、初期設定でハーレムルート確定とか、意味が分からない。


ギャルゲーをいくつもやってきたロンが最終的に行き着いた結論が、『好感度を上げすぎたら破滅ルートに違いない』とのものだった。

実際、彼らが通りがかると周囲の男性たちが嫉妬と妬みの視線をあからさまに向けてくる。いわゆる『リア充爆発しろ』だ。

もしかしたら見えない神様が彼にチートスキルを用意してくれたのかもしれない。前世で報われなかったから転生先で無双するシナリオを用意してくれたのかもしれない。脳天気に判断するならそれを存分に謳歌していいのかもしれない。


だがロンにとっては見え見えの罠を張られている気がした。美味しい餌を落とし穴の上に置かれているんじゃないか。油断したらゲームオーバーになるバッドエンドがあるのじゃないか?

ロンのそういう発想も、言わばゲームに毒されたオタクの思いつきそうな話だった。


だが。


それは回り回って正解を選んでいたのだ。


種明かしをすると、彼が持っている固有魔法は『範囲魅了』。パッシブスキルで問答無用に周囲を味方にしてしまう恐るべき壊れ能力となっている。

彼がそれを自覚すれば、そしてその使い道に精通すれば、世界はたちまち彼の手中に落ちる。世界全てが彼の足許にひれ伏す。彼が調子に乗れば、確実にそうなる。順当に行けば彼に敵はいない。敵視している人も彼の側に寄ればたちまち味方になってしまう。まさに世界征服を成し遂げられる能力なのだ。


それは、魔女にとって異物認定を受ける代物でもあった。魔女の立場から見れば彼女の箱庭に涌いてきて世界の理をねじ曲げる許されざる害虫に等しい。

その上、彼の魔法は魔女がまだ知らないものであるので、魔法コレクターである魔女の目にとまり素性を知られても運が良くて魔女の監視が付いて自由を奪われる。悪ければ魔女に魔法を習得され即死。強すぎる魔法を保持する人間は今までも魔女の毒牙に掛かってきたので、それが一番自然なルートである。


彼は目立ちたくない。できるだけひっそりと暮らしたい。放っておいても好感度が上がるチート環境で、それを可能な限り受け入れずこそこそと過ごしている。

そして目立てば魔女に見つかりゲームオーバー。目立たなくても見つかれば終了。


チート魔法を持つ前世持ちとハーレムパーティーが繰り広げる珍道中は、こうして始まったのだった。

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