重ねた努力
(えー! かわいい! かっこいい! ねえちゃ~ん!)
アンジェリカは、コルネリアの芸術のような美しい魔法を見て感動していた。
「あの! アンジェリカ様! 前! 前ですわ!」
「へ?」
振り返ると、目の前に迫る矢。それを屈んで躱すアンジェリカ。
「危ない。ありがとう教えてくれて」
「いえ、で、あの~」
アンジェリカに向かって叫んだ赤毛の女の子が赤面しながら、上目遣いでアンジェリカを見る。
「どうした?」
「あの! そろそろ下ろしていただけませんか? この態勢恥ずかしいです」
両手で顔を覆う赤毛の女の子。アンジェリカは脇に抱えてぷらーんとなった女の子の状態に気づき慌てて下ろす。
「ごめんね」
「いえ! 助けてくださったのはアンジェリカ様ですし、そこまで謝られては心苦しいですわ」
しょんぼりとするアンジェリカに、慌てて赤毛の女の子がフォローを入れる。
「あれ? そういえば……」
アンジェリカは、その子に手を向けたまま固まる。そして、赤毛の子ははっと気づき、小さく礼をしながら、
「わたくしは、エリザ。エリザ=カステルフランコと申します」
アンジェリカがコルネリアに怒られて、もう一方の騒動になっている所に向かうと、一人の女の子が子供を抱えて、反乱軍の男達に囲まれていた。
「だ、だ、大丈夫よ、きっと今に助けが来る! 私知ってるんだから!」
「は! 何を知ってるんだよ! 仮に助けに来たとしてもこの人数をどうにか出来ると思ってるのかよ!」
「出来ないと話が進まないでしょう!」
男たちがたじろぐくらい大きな声で女の子が言い返す。
「お、おい! さっきからこいつ言ってること変じゃないか? もう、さっさと始末していこうぜ」
男の一人が弓を構え、女の子に番えた矢を向ける。
そして、ひゅっという風切り音を出しながら矢は……少女に届くことなく、両断された。
「な!?」
「やっと来てくれたのね! 王子様! じゃない!」
女の子が奇妙な驚き方をしたせいか、飛び込んできたアンジェリカも驚いて振り向いた。
赤毛の女の子が、口をパクパクさせながらこっちを見ている。
「あ、アンジェリカ……アンジェリカー!!!」
「うん、私はアンジェリカ。大丈夫だった? けがはない?」
「アンジェリカがやさしい! あ、そうか……まだ、ここは……」
「うん?」
「なんでもない! ではなく、なんでもありませんわ!」
アンジェリカが首を傾げると、赤毛の女の子は慌てて手をぶんぶんと振った。
「頭、打ってない? しっかり見てあげたいところだけど……まずは、ここから少しだけ離れようか」
アンジェリカが振り返った先を赤毛の子も見てみると、陣形を組みなおし、取り囲む十数人の男たちがいた。
「アンジェリカ=エシャロット、最強の姫騎士候補らしいなあ! だが!」
最も長身の男がリーダーらしく、手を挙げると、一斉にクロスボウが向けられる。
「遠距離攻撃にどこまで耐えられるかなあ? やれ」
長身の男が冷たく言い放つと、雨のような矢がアンジェリカたちに降り注げられた。
「エリザ、ごめんね。怖い思いをさせたね」
「い、え……ソンナコトハー」
汗を垂らしながらエリザは答える。
アンジェリカに抱えられてエリザは走馬灯を何十回と見た。
どういう原理か分からないが、超加速したアンジェリカは、矢を全てかわして見せたのだ。
ただし、どれもが紙一重で、耳元でびゅうという音を聞くたび、エリザは震えあがった。
何故か、最初の方でエリザが庇っていた少年は下ろされていたが、エリザは忘れられていた。
(何故!?)
「魔法、か」
長身の男が、呟く。
「その通り」
「いいなあ、貴族様は魔法が簡単に使えてよお。あっちの小さい女もそうだ。あいつ、四つも属性を使いこなしていた、簡単そうに。全く嫌な世の中だ。平民に優しくねえよな。けどな、魔法を持っていればなんとかなると思ったら大間違いだ。さっきの倍だ。さっきの倍の矢がお前を襲う。剣は届かない。逃げればいい逃げて逃げて逃げ疲れて、死ね」
再び、長身の男が手を挙げる。すると、さっきまでが普通の雨とすれば、豪雨と言える矢の雨が降り注いだ。
「アンジェリカ様!」
エリザは思わず叫んだ。が、その後、とんでもないものを見る。
アンジェリカの足が、燃えたのだ。
「〈火脚〉」
そして、その燃えた足からさらに炎を放ち、超加速して見せた。
あっという間に視界の端に飛んでいき、折り返すように爆発音と共に、射手の一人の横を通り過ぎながら切り伏せた。超高速で跳ね回る鞠のように、縦横無尽に駆け回り、訳も分からぬまま反乱軍はやられていく。
「って、いうかあ、何この魔法~。こんなのゲームでなかったでしょ~」
エリザはひとり呟いた。
アンジェリカ・コルネリア姉妹は、前世でこのゲーム『姫騎士と盾の守護者』を知っていた姉妹で死んで生まれかわり、姉と妹を逆転してしまった転生者だ。
エリザもまた、転生者であった。
(今日、ファンディスクであった前日譚イベントの日だと思ってヒロインより先回りして広場に来たら、これどーなってんのよ! アンジェリカがめちゃ強いし! コルネリアも全然死なずにバンバン魔法使ってるんですけど! これ、姫騎士と盾の守護者よね~! ヒロインいるし~!)
「エリザ!」
アンジェリカの声にはっと気づくと、遠くから矢が迫ってくるのが見えた。
(ま、まずい! ま、魔法を!)
慌てて、魔法を使おうとするが、焦ってうまくいかない。
ぱっと前を見ると飛んできた矢がまた両断され、目の前にはアンジェリカが立っていた。
「大丈夫か」
焦げ付くにおいをさせながら、アンジェリカは、エリザの顔を覗き込む。
(ひょ、ひょええええええ~! 分かってはいたけど、イケメンだなあ! アンジェリカ~!)
エリザが、顔を真っ赤にして震えていると、アンジェリカが何を思ったのか。
「ごめん、魔法が熱かったよね」
と、慌てて謝りながら頬に手を当ててきた。
「ごめんね、火属性持ちじゃないと熱かったかも」
「ひ、ひえ……あの、しょの、ひぞくせぇえ持ちでも多分こうなってりゅとおもいましゅ……」
エリザがぴくぴくしながらなんとか受け答えをする。
(え? 何今の? 凛々しいアンジェリカが急にやさしい感じに……ギャップ凄い! 嘘! 私、このイベント見逃してた!?)
正確には、慌てていたせいで、アンジェリカの前世である杏奈が強めに出てしまった結果なのだが、エリザが知るはずもなく、恐ろしい破壊力のギャップ設定で片付いた。
「もう少しだけ待っててね。もう終わらせるから」
アンジェリカが再びイケメンスマイルで微笑むと、長身の男に向き直る。
「あーあー、やだね。顔もいい、金もある、剣の腕もある、魔法も使える。恵まれてるやつが羨ましいよ!」
「恵まれてる?」
「そうだろうがよ! なんでもかんでも与えられて、俺たちは……俺達には、なんであたえられねえんだあああ!」
長身の男が、破れかぶれで大斧を投げつける。
きいん、という音が鳴り響き、大斧は、真っ二つに斬られた。
「う、嘘……」
エリザが長身の男の心を代弁するように驚愕の声でつぶやく。
「一万回だ」
「は?」
「私は、一日一万回剣を振り続けた。才能があったかどうかは知らない。けど、少なくとも百回も振っていないような奴には負けない」
実際に一万回振っていたかどうかはアンジェリカは知らない。
ただ、まあ、なんとなく、そのくらいは振っているんじゃないかという気がしていた。
「魔法はもっと苦手で、死ぬほど特訓した。多分二万回。コルネリアもそうだ。コルネリアは私より頑張り屋だから三万かもしれない」
実際にそうかはアンジェリカは知らない。
ただ、本当に、姉妹は努力し続けた。互いを刺激とし、切磋琢磨し続けた。
そして、姉妹には、『姉(妹)を除けば自分が一番努力した』という自信があった。
その努力と自信が、アンジェリカの剣を、コルネリアの魔法を、世界一のものと思わせた。
長身の男は、崩れ落ち、そのまま動かなくなった。
「これで、終わり、かな。良かった……」
周りを見れば、遅れてやってきた冒険者や騎士団によって、ほぼ解決されていた様だった。
アンジェリカとコルネリアが大半の反乱軍を相手取ったことは誰の目にも明らかで、尊敬と賞賛の眼差しで大勢が詰めかけようとしていた。
が、その足が突如動かなくなる。
「あ~ら、これはどういうことかしらね」
アンジェリカの後ろで声がする。
だれもいなかったはず。
自分が気づかないなんてことがあるわけが……
信じられない思いで振り返ったアンジェリカはアンジェリカの人生で最も目を見開くことになる。
藍色と黒がマーブル模様に混じった奇妙な服を着た魔女が無表情でこちらを見ている。
その魔女と目が合い、アンジェリカは震えが止まらなくなる。唇を震わせながら、漸く一言発することが出来た。
「うそ……スタグナ……【停滞の魔女】」
少し離れたところにいたエリザがアンジェリカの言葉を聞き、顔を歪める。
「それ、ラスボスじゃないのよ……」
お読みくださりありがとうございます。
楽しいだけで書いています! が、もし同じように楽しんでいただけているならば、嬉しいです!
あと多分3話!終わらせます!
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