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エピローグ

 

「ルナ、お前、今日も祈聴してたのか?」

「誰かの祈願の声が聞こえたから」

「お前なあ……。真面目にやるのはいいことだけど、あまり肩入れするなよ」

「えー、前と言ってたことが違う」

「最近の人間はすぐに神頼みに走るからな。昔はもっと自分たちで努力してたんだけどなあ」

「アーサー、なんだかおじいちゃんみたい」

「馬鹿なことを言うなよ!」

「もう、アーサーはすぐ怒るんだから……」


 ルナはぶつぶつ言いながら祈聴所を出ていく。

 その背を見送って、アーサーはほっと息を吐き出した。

 ルナが神界に戻ってきてしばらく経つが、未だに元気はなく皆が心配している。

 アーサーは心配のあまり、冥府の神であるスデウに会いにいくことを勧めたくらいだ。

 しかし、それはルナ自身に断られてしまった。

 アスラルが望むわけがない、と。

 そしてさらに言ったのだ。


「私たち神でさえ永遠に生きることはできないんだから、死というものを素直に受け入れるべきなの。だけど私という存在が新たな生の証明なんだから、悲観することはないってわかってる。だからあと少しだけ悲しんだら元気になるわ。時間が悲しみを癒してくれることも知ってるから」


 すっかり変わってしまった妹神にアーサーは心配したが、父神や友神になだめられ諭され、しばらく様子を見ることにしていた。

 ルナはそんな兄の気持ちもわかってはいたが、あと少しだけと悲しみを抱いていた。


 アスラルと過ごした人間界での三十年の月日はとても楽しかった。

 少し落ち着いてからディアナにも会いに行き、再会を喜びもした。

 スマテア王国は今もなお目覚ましい発展を遂げている。

 ディアナの子孫たちの試行錯誤しながら成長する姿ははらはらしつつも微笑ましく、きっと子供がいたらこんな気持ちなんだろうなと思うことも多かった。


 アスラルとの生活は楽しいばかりではなく、ケンカをすることもあった。

 ルナが女神であることはアスラルにとって関係なかったのだ。

 怒りもすれば、甘く優しいときもあって、普通の夫婦のように過ごすことができた。


 徐々に衰えていくアスラルと、まったく変わらないルナはお互いがお互いに罪悪感を持ってはいたようだ。

 それでも最期の別れの時まで口にすることはなく、本当に最後の最後一瞬、アスラルは「ごめんな」の一言だけを残したのだ。

「そこは『愛してる』でしょ!」と怒ったルナに対し、アスラルは口元だけでにやりと笑った。


 それからは怒りのままルナは行動したが、すべてが終わったあとは心にぽっかり穴が開いたようでしばらくは放心状態になってしまっていた。

 そんなルナの様子に気付いてアーサーが本神殿に慌てて駆けつけてくれたのだ。

 そこではじめて、ルナは泣いた。

 アーサーに慰められ、神界に戻ってからは側仕えの者たちに言葉をかけられ、友神からは励まされて今に至る。


 いつまでも嘆いていては、アスラルは喜ばない。

 それならばいっそのこと人間界をより良くしようと祈聴を頑張ったのにアーサーに怒られてしまった。


「アーサーは真面目すぎるのよ」


 一人ぼやいたルナはふっと笑った。

 アーサーのおかげで少し元気が出てきたのだ。

 笑えるようになった自分に自信を持って、ルナは部屋へと戻った。



 ――それからどれだけの月日が流れたのだろう。

 アスラルたちと暮らした世界は素晴らしい発展を遂げ、魔物を制圧できるようになっていた。

 同時に神へ祈りを捧げる者も減り、神の存在そのものを忘れてしまった者も多くいた。

 すると神も世界の存在を忘れてしまう。

 それでもルナはアスラルと暮らした世界を見守り続けた。

 だからすぐに気づいたのだ。

 あのとき以上に障害が多くなってしまった険しい山を登ってくる若者に。

 彼はルナとアーサーの本神殿を目指している。


「今の世界で、いったい何を祈願するつもりなのかしら?」


 神を忘れ神が忘れた世界に神は必要ない。

 それでもただ一人、外套も靴も背嚢もボロボロになってまで登ってくるには、何かよほどの理由があるのだろう。

 ルナはいったいどんな願い事なのだろうと、困難を乗り越えて本殿に到着した若者の祈りに耳を傾けた。

 そして――。






これにて『女神ですが、堕ちました!』は完結です。

最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。


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