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そんなに僕を殺さないで  作者: 立派な人
1/8

「プロローグ 紅の光線」(1)

とうとうストーリー物に手を出してしまいました……。

少しでも楽しんでもらえましたら嬉しいです。

紅の光線が5本。

遠く水平線付近から、美しく等間隔をあけてゆっくりと、上空に向けて垂直に昇って行く。


光線の先っぽには何か黒いものが付いてるようだが、あまりにも小さすぎてよく分からない。

ただ、その先っぽのあたりから濃厚な煙を大量に噴射していることだけは、何とか分かる。



水平線は遙かに遠く。


水平線としてわずかに残った赤紫色の光の筋の中に、遠い山々の稜線の黒い影がわずかに視認できる。

その手前に、視界を遮るようなものは見当たらない。

そのため、ここら一帯はかなり広大な平原状の大地であることが分かる。


頭上の空はかなり暗く、もう夜が訪れている。



先ほどから上空に向かって垂直に伸び続けていた5本の紅い光線は、ほとんど同時に、突然、カクリと進む方向を変えた。

5本の光線が曲がる角度に規則性は見出せない。

それぞれがランダムに方角を変えたように見える。


バラバラに曲がった5本の光線は、先っぽから濃厚な煙を吐きながら、1本は遠く地平線の向こう側に消えて行き、他の2本も、それぞれ随分と離れた位置であったが、やはり地平線の向こう側へと消えて行った。



美しい。

赤紫色から濃紺へ移り変わるグラデーションの空に、紅いレーザーでゆっくりと線を描いてゆくようなその光景は、そう表現せざるを得ないだろう。



例の5本の紅い光線のうち別の1本の光線は、右のほうの空の彼方へ消えて行き。

そして、かなりの鋭角で地面の方向へ曲がった残りの1本は、水平線よりも下に、つまり手前側に伸びて行き、ある位置で突然、伸びるのを止めた。


その瞬間、止まった先っぽが小さくフラッシュした。

それはそれは、一瞬の光だ。



どこまでも見飽きた荒地が続くバスの旅は、俺の頭の中まで腐らせるんじゃないかと思うほどだったけど、薄汚れた窓越しに見えるこの天空のショー・タイムは、頭の中の言葉さえ失くしてしまうほど、神秘的で美しい。



だが、それは、そんなに生易しいものではないのだろう。


境界線を越えていないコチラ側にいる者にとっては、美しい芸術のように見えるその光の線も、境界線を越えたアチラ側に住む者にとっては、抵抗の術がない死をもたらす恐怖の対象でしかないはずだ。



しっかし、ケツが痛い。

遅めの昼飯を喰ってから、この古いバスに乗せられて、もうかれこれ6時間ほどになろうか。

また、このバスの座席が狭いのなんのって。

左右も狭いが、前後も狭い。

座席もバネが効いてなくて、公園のベンチかよ!?って思いたくなるほど硬い。

このまんまじゃ痔になりかねん。


オマケに隣の席のナニジンだか分からんデブの白人のオッサンが、俺との境界にある真中の肘置きまで占領しやがるから、なおさらだ。

仕方なく、俺は窓側に思いっ切り倒れ込んで、なんとかプライベートスペースを確保している状況だ。

このオッサン、いくつぐらいだ?

30代と言えばギリギリ30代にも見えるし、50代と言えば50代にも見える。


だが、いずれにせよ、そんないい大人の年齢になっても、こんなバカなサバゲー・ツアーに参加してるようじゃ、碌な人間じゃないね。

あー、鼻息かかるから、深い呼吸とかしないでほしいね。

もー、死んで、早く。



とか思ってたら、窓の外。

先ほどの5本の光線がまだ消えてないうちに、遠く右のほうの空からも同じ色の光線が5本、真っ直ぐに伸びて来た。


先ほどよりも近いのだろう。

光線の伸びて行くスピードが速い。


よりハッキリと見える紅い光の筋と灰色の煙の造形が、隣のオッサンのせいで荒んでしまった俺の心を洗い流してくれる。

こんなものが見れるなら、日本から飛び出して、わざわざこんな辺境の地まで旅して来た甲斐があったとゆーもんだ。


右から現れた5本の光線も、最初の5本と同じく、突然に空中で進行方向を変える。

深紅の光線はカクリと折れ曲がると、5本それぞれがバラバラの方向に伸びて行く。


水平線の方角に消えて行くもの。

夜空の彼方で見えなくなってしまうもの。

いろいろあるが、どれも一様に美しい。



だが、そのうち1本の光線が、このバスの遙か頭上を越えていったような気がした。



あれ?


と思う。



ここは境界線の手前側のはずだ。

あんな日常を超えた兵器が飛び交っていいはずがない。

遠くで起こっていることの目の錯覚かなんかかな?



そー思って、左側。

通路を超えた反対側の窓に目をやる。

バスの頭上を越えた紅い光線が、漆黒の空を真っ二つに突き進む様子が見える。


あれ?目の錯覚じゃない?


とか思ってると、紅い光線は水平線のかなり下で止まった。

瞬間、世界の一部が大きくフラッシュした。

目に残像が残るほどに強く。



え?着弾?ほんとに?

そんな予想もしていなかった考えが思い浮かんだ次の瞬間。

雷鳴かと思うような轟音が響き渡った。


悪路な上にサスペンションもいい加減なのだろう。

バスの窓ガラスは、割れるんじゃないか?と思うくらい振動していたけれど、この微細な振動の仕方は違う。

この轟音は、それほどまでの威力を持っている。



バスの前方では、ツアーガイドの男とバスの運転手が、何やらただならぬ様子で捲し立てるように話している。

他の一部の乗客も、今、まさに起こり始めている異変に気付き始めたようだ。



グラデーションの夜空に展開する美しい光のショーは、遠く、境界線の向こうで繰り広げられているだろう他人事ではなくなったんだ。



いや~、まいった。

これ、本気?

あんなワケ分からん光線なんて、こっちに向かって来たら、絶対かわせないから。

てゆーか、自分が運転してないバスの進路なんてコントロールのしよーがないし、コントロール出来たとしたって、相手が巨大過ぎてどうにもならないだろーことは明らかだ。



完全に運任せ。

それが結論である。



ただ、紅い光線の数はそれほど多くない。

この広い夜空を、この広い大地を埋め尽くすことは出来ないだろう。

それほど分が悪いギャンブルでもあるまい。


それにそもそも、バスの頭上を越えた光線は、たまたま境界線を越えてしまった流れ弾に過ぎないはずだ。

光線が向かう先は、基本的に境界線の向こうに限られている。



なんとか、そー思い込むことで、あの紅い光線の群れを、再び、他人事のショー・タイムに仕立て上げる。


だが、それは、そーとーな精神力を要する作業になってきた。

何故なら、空に立ち上る紅い光線は、また5本、また5本と、次々と出現し、グラデーション模様の夜空をゆっくりと貫き始めていたからだ。



俺は、額と両脇に、冷たい汗が滴るのを感じた。

こんな感覚を、生まれてから今に至るまで、たった1回だけ経験したことがある。



プロローグのクセして全3話ほど続きます。ごめんなさい~

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