プロローグ
「これで……ようやく始められる」
薄く開けた唇から独語を漏らした直後、とある名言が脳裏に閃いた。
『いまは終わりではない。これは終わりの始まりでさえもない。しかし、これはきっと始まりの終わりである』
――ウィンストン・チャーチル
ちっちゃい島国ながら、過去には世界に覇を唱えたこともあった国家――英国(正式名称はグレートブリテン及び北アイルランド連合王国)において、内閣総理大臣を務めた男の言葉である。
その男は弁舌巧みなうえに文才に優れ、一九五三年にノーベル文学賞を受賞している、といつかの世界史の授業で教わった。
包み隠さずに言うと、最初に聞かされたときはなんのことやらさっぱり意味がわからなかった。いや、いまだに文意をつかみ取れているかあやしいものだ。
小学生のときから国語成績はずっと安定の『二』だ。夏休みの読書感想文の返却時、もうすこし文章を読み取る努力をしましょう、とそっけない感想を国語教諭からたまわった経験もある。
難解だったり、くどかったりする言いまわしに遭遇するたびに、頭のなかでいたいけなヒヨコがぴよぴよ鳴いて思考停止に陥ってしまう。
そこで俺は恐れ多くも、自分にとって意味が通りやすくなるよう、偉大な政治家の名言を改変(改悪?)することにした。
「いまは暗黒の青春の終わりではない。これは終わりの始まりでさえもない。しかし、これはきっと輝かしい青春の始まりの終わりである」
こうすると、なんとなくではあるが理解できたような気になるな!
やはりどんな名言至言も、みずからの人生に引きつけてやらなければ、単なる文字の羅列にしかならない。いまさらながら、そう思う。
いま現在の状況は、『栄光の青春・第一部完……近し!』といったところだろうか。
薄暗い暗渠にひとり置き去りにされた子供のように痛ましく、実りない俺の青春はまだ終わってないし、終わる気配すら見当たらない。
生まれつき後ろ向きでネクラな性格ゆえ、明日からなにもかもが一変する、なんていう御都合主義的な未来は思い描けない。
それでも、今日を境になにかが始まる予感はすくなからずあった。
いままさに火蓋が切られようとしているこの一騎打ちこそが、俺にとっての始まりの終わりなのだ。そう思わないと、やってられない!




