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〈6〉思い知った現実

宅建士の資格を持ちながら、瑞ケ丘ハウスエステートでの仕事は相変わらず物件の清掃と入居者の不具合対応と雑用ばかり。

週に一度の楽しみは、青葉スポーツセンターで行われる小倉麻衣子のビートファイト。

麻衣子に淡い想いを抱いていたが、旦那がいると知った瞬間、現実を思い知らされ、奈落に突き落とされた。

それが今の信也の現実……。

中でも一番ショックだったのは、やはり小倉麻衣子。

自分の想像がただの妄想だったと気づいた。

ショックの傷は深いままだったが、それでも信也は麻衣子のビートファイトに通い続けた。それほど麻衣子のビートファイトの選曲は素晴らしくまさに神。

その楽しさを失うことなど信也には到底、考えられなかった。

信也は麻衣子のビートファイトを受けるために青葉スポーツセンターの地下駐車場に車を駐車した。そして、駐車場にはぽつぽつと車が止まっている。

信也は真っ先に萩が麻衣子を乗せて帰った車を見た。国産の流行りのセダン。

信也の給料ではとても買うことのできない車。車だけで萩と麻衣子の生活が伺える。六畳一間のアパートに住む信也には到底及ばない生活レベル。

何か思い知らされた気持ちになった。

加藤の外車もあった。

〈こんな外車に乗ってるなんて、会社社長か役員?〉

駐車場を見渡すと軽自動車は少なく、ほとんどが明らかに自分よりも生活力の高い人間が乗る車が止まっていた。

スタジオエクササイズの参加者も体育館の参加者もほとんど中高年。

中高年といえば、それなりに出世し、家族もいて、良い生活を送っているだろう。

ちゃんとした人生設計をしているのが車を見て伺えた。

〈それに比べて俺は、この歳になっても人生を迷走している。自分とは大違いだ〉

信也は駐車場に止まっている車を横目にロビーに行き、券売機でスタジオエクササイズが出来る券を買い、麻衣子のビートファイトに参加した。

信也は常連の加藤に「リズムが狂う」とクレームを言われてから声を出すことをやめていた。

信也は声を出さないということで物足りなさがあった。

インストラクターの麻衣子の指示する声以外、誰も声を出さない。

どこか盛り上がりに欠けているように気がしたが、クレームを言われた信也には声を出すことは出来なかった。

どこか不完全燃焼……。

そんな信也の気持ちを麻衣子は知る由もなく、華奢で小柄の身体の中に秘めたスタミナとパワーで参加者を鼓舞する。

麻衣子のビートファイトが終わると信也は更衣室に行き、シャワーを浴びて着替えた。

ロビーでは、萩が麻衣子のことを待っているのが見えた。

信也は逃げるように、足早に地下駐車場に向かった。萩と麻衣子が一緒に帰る姿をみたくなかったのだ。

駐車場に行くと萩の車に目が行った。

「道ならぬ恋どころか、もう既に閉ざされてる」

どんなに思いを巡らせえも詮無き事。

「何か、実家に戻ってもいいのかな……」信也は一人、車の中で呟いた。

そして家路についた。


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