結果オーライ?
「学校に女子しかいないからぁ、あーし外で男と遊んでてぇ〜」
聞かれてもない自慢?を教室で垂れ流す品のないやつ。
俺が聞いている立場だったらそう思ってしまうような発言を、俺は教室でしている。
「えぇ、そうなんですね!すごいです!」
そんな自慢をふんふん、と聞いているのが桜さん。そして静かに聞いてくれている椿さん。
桔梗さんは休み時間を勉強をしているけど、俺の話は少し気になっているようだった。
「椿ちゃんも、あーしみたいなメイク似合うと思うんだけどぉ〜」
適度にこういう発言も挟んでいく。
日常的なところからやっておくんだよ。
てかやっぱ恥ずかしいな……ホントの女子からしたらギャルぶってる日陰者ってバレてそうなのが恥ずかしい……!
「ちょっとお手洗い行ってくんね〜」
流石にいたたまれなくなって来たので、教室から出ることにした。
昨日はなんやかんやで急いで帰っちゃったから見れなかったけど、これ聖地巡礼の更に上だよな……オタクの夢だよ……
廊下歩いてるだけでも楽しい。作り込みがハンパないっていうか、現実にしか見えないというか、当たり前なんだけど当たり前とするにはあまりにも夢すぎる。
トイレに入る。
『聖の花束』のことはこの上なく好きだが、どうしてこの世界に俺はいるんだろうか。
自分が知らない女の子の姿になってることとか、なぜか自分がギャルの格好になってることとか、それが突然すぎて色んな人から奇異の目線で見られてることとかを無視しなきゃいけないけど、すごい楽しんじゃってるのは、良くないことなんだろうか?
こうやって1人になると考えすぎてしまうのは、オタク特有の悪癖なんだろう。
悩んでもしかたないしな。さっさと出よう。
またもや避けられながら、教室の方へ戻る。
開いている後ろのドアから、入ろうとした時だった。
桜燈さんの後ろ姿と、その周りに、何人かの生徒?
良く聞こえないので、廊下を壁伝いに歩いて、廊下側の窓から盗み聞く。
「あの人、ちょっと変だよ…….!」
「桜さんが心配で……!」
なにやら心配されてる?
「桜さん、日本のことそこまで詳しくないからって、騙されちゃダメだよ!」
「日本のことだったら、私たちが教えてあげるから!」
まあ日本のことは詳しくないわな……
ここまで話を盗み聞きして、どんな状況か掴めて来た。
彼女たちは簡単に言えば、国内有数の財産を有する桜家に取り入りたい人たちで、最初から仲良くなった俺のことが邪魔なのだろう。
そんな時に俺がすごい変な動きをして急にギャルみたいになるから、ヤバいやつだと思って(妥当ではある)、ここぞとばかりに引き離しに来たんじゃないか。
こんなような話が、原作の中でもあった。このタイミングではなかったし、対象は俺ではなく桔梗さんだったのだけれど。
状況が掴めた俺は、そのまま教室に入って行こうかとも思ったが、動きは止まった。
まずこのイベント自体対象が変わってしまっているし、そもそも俺が桜さんと疎遠になってしまうのはむしろ良いことなんじゃないか?
また頭で考えすぎてしまうのは俺の悪い癖だけど、動き出せないのには別の理由があった。
足がすくんでいるんだ。
こうして自分の悪口を言われていると思うと、そこに突入していくのなんて怖くなってくる。
むしろ、俺がここで口出ししなかったとしても、それで上手くことが流れるのなら、このままで良いんじゃないかと、半分逃げたくなっているような気持ちが膨らんできて、なんとかする方に頭が回らなくなった。
本来のシーンであれば、桔梗さんが俺の立場で、桜さんが周りの言葉などをものともせずに凛と言い返す場面であり、桔梗さんが桜さんの強さに感心してしまうのだが……
「皆さんのお心遣い、感謝いたします」
ここで初めて、桜さんが口を開く。
「私はまだ日本のことがよくわかっておりませんので、皆さんと一緒に一つずつ学んでいきたいと思っております」
もしかしたら俺がいらないと言われてしまうかと思って、心臓がドキドキしてくる。
「じゃあ……」
「ですが」
声色も声量も、何も変わっていないのだけど、桜さんの精神の奥にある凄みが、廊下にいる俺までを圧倒する。
「私はまず、白咲さんから日本のことを学びたいと思っています」
その言葉が聞こえた途端。
自分が一つ大きく息を吸ったと思うと、思考が明瞭になった。世界が眩しく感じて、思わず目を瞑った。
「もし私に至らないことがあれば、またその際は教えていただけると嬉しいです」
オタクの俺は、桜さんの顔を見なくても表情がわかる。皮肉や嫌味などは一切心にもなく、ただひたすら輝かしい笑顔だけを浮かべているのだろう。
「あのさ」
急に俺の耳元で声がかかって心臓が跳ねた。
「え、あ、え!?き、桔梗、さん!?」
教室の中から窓に出て、俺に声をかけて来たのは桔梗さんだった。
「あの子良い子だね。アンタが何考えてそんな格好してるか分からないけど、何かあの子のことでしたいことがあるんでしょ?」
「え……」
桔梗さんは、なんとなく俺のことを察した上で、それでも見守ってくれていた。
「……ほら、そんなとこいないで、教室に入って来なよ」
「あ、う、うん……」
俺は廊下から回って教室に入る。
すると桜さんが嬉しそうにこっちを向いた。
「お帰りなさい!」
もう俺の心には、ギャルは住んでいなかった。
「白咲さん、次の授業は数学ですね!」
「そ、そうだね!」
数学なんて集中できるかな……今は感動やら安心やら、色んな気持ちで、とてもまともではいられなさそうだった。
そんなことを思っていた時だった。
「あ、その次は体育ですね!」
桜さんはそんなことを言った。
「ゑ?」
今日体育あるの?いや、あるな、今朝着替えを持って家を出た……
色んな感情は一気に飛び去って、体育の着替えどうしよう……?という考えに、一気にシフトするのだった。




