第38話:“カフェ・アンチドートのパンケーキ”
「では、王様。メニューでございますが、以前お聞きした物でよろしいでしょうか」
「ああ、よろしく頼むぞい。みなもワシと同じでよいか?」
衛兵の皆さんもそろってうなずく。
メニューを聞いたのでキッチンへ戻ってきた。
王様がご所望されたのは、ふんわりしたパンケーキ。
何でも、王宮ではそのような食事は出てこないようだ。
色々と食材は用意してあるけど、前もって聞いていたメニューと同じでよかった。
ロールちゃんたちは傍らでドキドキしている。
「王様にお食事を提供するなんて、宿屋始まって以来だよ! 緊張するぅ!」
『ネッちゃんも緊張で胸が張り裂けそうだニャ』
「ふんっ、レベッカの料理を食べたら、あのジジイ腰を抜かすんじゃないのか」
「「キャ、キャンデさん……あの人は王様……」」
たかが料理、されど料理。
お客さんが満足できるかは私の腕にかかっている。
それはそうとして、まず大事なのは平常心。
凪の状態を強く意識。
心は無風の湖面そのもの。
揺らぐことはまったくない。
いくら料理がおいしくても、料理人が騒いでいたら不安になる。
最大最高級の平常心を呼び覚ませ!
明鏡止水の心で泡立て器を握る……!
「さっそく作りますよぉ! パンケーキの素は<デビルエッグ>のメレンゲだぁ! まずは、卵を黄身と白身にしっかり分けるぅ!」
「『やっぱり……』」
ボウルに<デビルエッグ>を割って入れる。
黄身はこっち、白身はこっち。
別々のボウルにイン。
キッチリ分けるのが大事なポイントなのだ。
王様が来るなんてテンション上がるなぁ!
「お次はかき回していくよぉ! この勢いに振り落とされるなぁ!」
「やっぱり、レベッカの料理は楽しいなぁ……」
『なんだかネッちゃんもふわふわしてきたニャ』
「私も愉快な気持ちになっている……」
くぁぁあ! と、それぞれの卵をかき混ぜる
空気を入れてふんわりしたメレンゲを作るのだ。
生地がふわっと盛り上がったら、黄身と白身のメレンゲを混ぜ合わせる。
隠し味に<魔女リンゴ>の果汁を少々入れましょう。
ぐちゃぐちゃに混ぜちゃうんじゃなくて、互いに下から乗せ合うようにして混ぜる。
こうすると、ふんわり感が壊れない。
「フライパンで焼いていきますよぉ! 潰れないように蒸し焼きを意識ぃ!」
「湧き上がるリンゴの甘い香りがたまらない~!」
『こういうのをかぐわしい香りって言うんだニャ~!』
「ああ、私はあの日を思い出す……そう、レベッカの料理を初めて食べた日だー!」
五分も経たずに、パンケーキは焼き上がった。
立ち昇る甘い香り。
もちろん、これで終わりではない。
「アクセントはベリーのみんなぁ! 出番がきたよぉ! それそれそれそれー!」
「なんという腕裁きー! これぞレベッカの真骨頂だー!」
『ただフルーツを並べているだけなのに、すごいカッコいいニャ!』
「新しい技に取り入れるぞー!」
<ぶるぶるベリー>と、森でゲットした<ルーズベリー>を乗せる。
どちらも選りすぐりの物を厳選した。
<ルーズベリー>は食べると、毒で時間やお金にルーズになってしまう。
ロールちゃんに絶対そのままで食べさせちゃいけない食材だ。
毒消しは済んでいるけどね。
味見!
「『……うぅ~ん、ふんわりふわふわで甘酸っぱ~い!』」
うむ、おいしい。
パンケーキはふわんふわんに焼き上がったし、ベリーたちの味も素晴らしい。
運ぶ!
「お待たせいたしました……“カフェ・アンチドートのパンケーキ”でございます……」
「レベッカ嬢は見かけによらず、おてんばな一面もあるんじゃのぉ、ホッホッホッ」
「あ、いえ、本当に申し訳ございません……」
王様は穏やかに笑いながら、私の奇行を受け止めてくれた。
衛兵の皆さんも同じ。
優しさが心に沁みた。
「見た目も華やかなパンケーキじゃ。食べるのがもったいないくらいじゃよ」
「「これがレベッカ嬢のお料理……」」
王様も衛兵の皆さんも、はぁぁ~っと感嘆しながらパンケーキを眺める。
宮殿の食事に比べて質素なのでは? と不安だったけど、お気に召したようで安心した。
「では、いただくとするかの」
王様たちは、あ~んとパンケーキをお口に運ぶ。
毎度のことながら、この瞬間は内心緊張しまくるのだ。
お願い!
お口に合いますように!
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