第32話:“プワゾンロブスターの思い出アクアパッツァ”
「まずは<プワゾンロブスター>を丸茹でだぁ! 殻も身も厚いからじっくり火を通せぇ! あぁ、お母さんとまた会えて嬉しいなぁぁぁ!」
お母さんとせっかく再会できたのだ。
これほど嬉しいことはなく、テンションがどんどん昂っていく。
燃え石でお湯を沸かし、<プワゾンロブスター>をポチャン。
やや強火で茹でる。
殻は熱に強いので、十分ほど茹でる必要があるのだ。
「レベッガのおがあざんに会えるなんで! わだじもうれじい!」
『ネッぢぁんば、がんどうで涙がどまらないニャ!』
「私ばごんなに、がんげぎじだごどばない! ごんなのずるい!」
ロールちゃん、ネッちゃん、キャンデさんは、キッチンの隅でダバダバと泣いていた。
私とお母さんの再会は、彼女らにも強い衝撃を与えたらしい。
感動してくれるのだから、みな良い人だなと思う。
「この間に<フカイアサリ>を砂抜きだぁ! 魔力を込めながら洗うと、ジャンジャン砂が抜けていくぅ!」
「レベッガのだめにも、もっどじっがりじなぐぢゃ!」
『悪いやづがら守れるように、ネッぢゃんは修行ずるニャよ! お風呂も入るニャ!』
「ごれがら毎日食材をがっでぐるがらな!」
<フカイアサリ>は毒の他に、砂が多いことでも有名だった。
でも大丈夫。
魔力を水に溶かし込むイメージで洗えば、すぐに砂は抜けていく。
何度か洗って砂抜き完了。
ロブスターの様子をチェック。
ほっこり茹で上がっていた。
ナイフではさみの根元をカット。
食べやすいように殻も外しとく。
身体と尻尾は、ぶりんと捻じれば簡単に外れる。
頭に詰まったエビみそは栄養満点でおいしいので、これも余さず使う。
「<プワゾンロブスター>と<フカイアサリ>はフライパンで一緒に煮込むよぉ! どっちも海のミネラルが豊富に含まれているぅ! ゆえに、調味料なんて要らないのだぁ!」
「ロール、泣いているばかりじゃダメ! レベッカの料理を見守らないと!」
『そうだニャ! ネッちゃんにはレベッカを守るという使命があるんだニャ!』
「私としたことが自分を見失っていた! 泣いていたら調理が見られないではないか!」
ロブスターとアサリをフライパンにイン。
茹で汁もちょっと入れる。
燃え石で火力調整しつつ、ぐつぐつと煮るのだ。
調理している間、三人はうわあああ! と勢い良く涙を拭いていた。
「山の幸もたんまり使いますよぉ! <ジメしめじ茸>ぇ! 君の出番が来たぁ! 海の幸にも負けない風味を、スープに溶かし込んでくれぇ!」
「切っただけなのに、なんとも香り高いキノコだー!」
『こんなキノコはネッちゃんも初めてだニャー!』
「野菜が好きでない私も食べたくなるぞー!」
<ジメしめじ茸>も最近見つけた新しい毒食材だ。
そのまま食べると、毒により1か月ほどジメッとした気分になってしまう。
だぁが、しかし!
このキノコは大地から、たくさんの栄養を取り込んでいるのだ。
毒消しして食べれば、身体中にその美味しさが行き渡る。
「お次は<ホットマト>ぉ! ほどよい辛みを分けてくれぇ!」
「ロブスターとはまた違った赤が加わって彩り豊かー!」
『どんどん豪華なお料理になっていくニャー!』
「今すぐ食べたくなってしまうぞー! むしろ腹が減ったー! どうしてくれるー!」
この前使った<ホットマト>の皮を剥き、半分にスライスして加える。
塩味をそっと包み込むようなピリ辛味を狙う。
ロブスターにキノコにトマト……。
だいぶ完成に近づいてきたぞ。
野菜たちにも火が通ったら仕上げに入る。
「最後は<パサつきパセリ>を散らしていくぅ! ハーブのような爽やかな香りでお料理全体を引き締めるぅ! 健康的な深い緑にも注目だぁ!」
「あああー! ただでさえ美しいアクアパッツァが一段と美しくー!」
『きっと、天界でもこんなに美味しそうなお料理はないニャー!』
「食材の長所を遺憾なく発揮するー! これぞレベッカの真骨頂だー!」
<パサつきパセリ>は口に入れると、身体中の水分を奪う毒がある。
もちろん、毒消しすれば消え去る。
しかも、普通の物よりえぐみが少なくて甘みが強いのだ。
最後のお口直しに食べてもらいたい。
ひとしきり調理が終わりお皿に取り分けると、徐々に気持ちも落ち着いてきた。
「……さて、お料理を運びますかね」
「わたしも手伝うよ、レベッカ……ぐすっ……」
まだ少し泣いているロールちゃんと一緒に、食堂へお料理を運ぶ。
無事完成したのだけどテンションが平常に戻り、いつものように現実を直視させられていた。
やってしまった……。
また騒いでしまった。
こんなんじゃ心配かけないどころか、逆に不安にさせちゃうよ。
食堂にお料理を運んでいくと、お母さんたちはニコニコと微笑みながら待っていた。
「ごめん、うるさくて……」
〔謝ることなんかないわ。あなたが楽しそうなだけで私は嬉しいわ〕
〔この賑やかな雰囲気も堪能したかったのです〕
お母さんとラウエルさんの優しさが心に沁みる。
ちょっと待って。
……ということは、私が騒いでいる様子も天界から見られていたのか。
まぁ、考えても仕方がない。
今はお料理を楽しんでもらうのだ。
「“<プワゾンロブスター>の思い出アクアパッツァ”です」
〔まぁ、素敵。真っ赤なロブスターがキレイだわ〕
〔天界ではなかなか見ないお料理ですね〕
二人の前にお皿をそっと置く。
<プワゾンロブスター>は茹でると、燃え盛る太陽のように赤くなる。
他の食材と一緒に、お皿の中で堂々と食べられるのを待っていた。
お母さんたちは、ワクワクした様子でナイフとフォークを握る。
〔〔それでは……いただきま~す〕〕
お母さんとラウエルさんは、あ~んとお魚を口に運ぶ。
またお母さんに私のご飯を食べてもらえるなんて……。
嬉しさのあまり、温かい涙がポロリと一つ零れた。
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