第18話:五人目のお客さん
「ロールちゃん、金貨も魔石も宝石もしまおうね~。盗まれちゃうと大変だからね~」
『せっかくの警戒心はどこ行ったのニャ』
「うぅ~ん、だってぇ~……」
お昼ご飯の後。
相変わらず、私たちはロールちゃんから貴重品を回収する日々だ。
隠し金庫にしまっても、目を離したらすぐテーブルの上に散らかしてしまう。
一日で何回ヒヤヒヤすることか。
しかも、最近は徐々に抵抗されるようになってきた。
ロールちゃんを一人にはしておけない。
私はもう心配でしょうがないよ。
「おーい、またうまそうな食材を見つけてきたぞ」
「キャンデさん、お帰りなさい」
キャンデさんもまた、食材調達に強力してくれる毎日だ。
クエストでお忙しいだろうにありがたい限り。
今日採ってきてくれたのはなんだろうね。
「私にとっても久しぶりの大物だったぞ」
ドサリと置かれたのは大きな鳥。
短くて太い脚に、茶色と黒のまだらな羽。
特筆すべきは、ピリピリ迸る弱い雷。
「ららら<雷神鳥>じゃぁないですかぁ~!」
雷の魔力を宿したレアな鳥。
そのおかげか、肉がとにかく柔らかくておいしい。
しかも地面を歩き回ることが多いので、柔いだけでなく身が引き締まっている。
味だってガツンとくるぞ。
「ネッ! 隠れ食いするなよ。ネコは鳥が大好物だからな」
『するわけないニャ! だから、ネッちゃんは猫妖精ニャの!』
キャンデさんとネッちゃんが何か喋っているけど良く聞こえない。
<雷神鳥>は鶏肉界の三大珍味と言っても過言ではないだろう。
ところが、こいつも毒を持つ。
その名の通り、食べると雷に打たれたように体が数週間も痺れてしまう。
毒消し。
「ついでに果物も採取してきた」
「<毒リコット>とまた出会えるなんて!」
「南の方の深い森にたくさん生えてたぞ」
差し出されたのは、拳大くらいのオレンジ色の果物。
見た目はアプリコットそのまま。
普通の物と違うのは、数段目に眩しい色合いだ。
エネルギーがたくさんありそうで、思わずあ~んと食べたくなっちゃう。
「ネコは果物も好きそうだな」
『猫・妖・精・ニャ!』
だがしかし!
決して油断することなかれ。
その身には危険な毒が詰まっている。
一口齧っただけで昏睡状態となってしまう。
毒消し。
「あとはこんな物も見つけた」
「<爆裂モロコシ>のお出ましだ~!」
テーブルに置かれたのは紫色のトウモロコシ。
見た目通りの毒々しい食材。
食べた毒は身体の中で増幅され、お腹がバンッ! と破裂する。
毒食材の中でも、危険極まりない食べ物。
その代わり、粒を火で炙るとあら不思議。
ポンポンと弾けておいしいお菓子になるのだ。
「と、まぁ、こんな感じだが。どうだ?」
「どれもこれも素晴らしい食材ばかりです。まさしく、毒食材が選り取り見取り……いや、雷神鳥とかけたわけではなくて」
「あひゃひゃひゃっ! 鳥が選り取り見取り……!」
たったそれだけで大笑いするキャンデさん。
日々クエストで命のやり取りをしていると、笑いの底が浅くなるのだろうか。
『これで本当にSランク冒険者なのかニャ?』
ネッちゃんはため息交じりに呟く。
なんだかんだ、この二人は仲が良いのだ。
「新しい食材が入ったことだし、レシピを考えようかな」
「私は甘い味付けが好きだぞ」
『ネッちゃんはしょっぱい味がいいニャ!』
何はともあれ、レシピを考えるのはワクワクするね。
あれこれ頭の中で料理を始める。
う~ん、やっぱりロールちゃんの意見も聞きたいな。
ここの宿の主人だし。
「ロールちゃん、一緒にレシピ考えよ~?」
返事がない。
そういえば、さっきからどこにいるんだろ。
心配になって食堂に戻ると、窓のそばに彼女はいた。
険しい顔でお店の外を見張っている。
「あ、あの……どうしたの?」
「安心して、レベッカ。怪しい人はいないみたい」
エルフ御一行の来店は、なかなかの衝撃があったらしい。
お昼の前後は外の見張りをしていることが多かった。
まぁ、その気持ちもよくわかる。
忘れがちだけど、今やこの宿は資産が豊富なのだ。
そのせいか、貴重品が増えるたび守銭奴になりつつある気がするんだけど……。
いや、きっと気のせいだ。
気のせいということにして、新しいレシピを考え始めた。
□□□
「今日はお客さん来なかったね、レベッカ」
「うん。来るとしたらお昼頃が多いのに」
『きっと、みんなお腹いっぱいだったんだニャ』
夕方は過ぎ、夜が深くなってくる。
キャンデさんはもう寝てしまった。
本日、“カフェ・アンチドート”の来客数はゼロだ。
お客さんは昼頃に来ることが多かったけど、今日は来なかった。
ちなみに、新たな宿泊客もなし。
当然収入もないわけだけど、ロールちゃんは別に気にしていない。
まぁ、あれだけ財産があるのだから、しばらくは大丈夫なんだろう。
金貨を抱きしめたまま飢えることはないだろうしね。
「ロールちゃん、看板片づけようか」
「そうだね。もう誰も来ないと思うよ」
『ネッちゃんも手伝うニャ』
みんなでぞろぞろと入り口へ向かう。
やれやれ、店じまいか。
『すまない。開いているか?』
扉に手をかけようとしたとき、自然にガチャリと開かれた。
静かに入ってきたのは、いかにも紳士然とした男性。
襟の立った長くて黒いマントに磨き上げられた革靴、胸元にはオシャレな赤い蝶ネクタイ。
これだけ見れば、裕福な貴族のようだ。
でも違う。
人間より大きく尖った二本の牙が、彼は人外であることを示している。
“カフェ・アンチドート”5人目のお客さんは……吸血鬼さんだった。
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