第12話:“どくどくチキンのオムライス”
「メニューはいかがいたしましょうか。三品ご用意できます」
「「……」」
看板を運び入れて見せる。
お客さんは無言で眺めていた。
茶髪の少年に黒髪の少年、そして金髪の少女。
男性陣は剣を携えているし、女性は杖を持っていた。
この人たちも冒険者パーティーかな。
それにしても、さっきから雰囲気が悪いのはどうしてだろう。
ギスギスした空気が漂っている。
「どのお料理もおいしい食材を使っていますよ」
「「じゃあ、オムライスで……」」
「はい、承知しました」
キッチンに戻ると、さっそくロールちゃんは警戒モードに入っていた。
「また新しいお客さんだ。最近はよく来るなぁ。でも、なんか雰囲気悪いよ。少しも油断できないね」
「まぁまぁ、きっと疲れてるだけだと思うから」
『怪しい客には見えないニャよ』
また大金を出されると手の平返すのだろうか。
ロールちゃんを見つつ、食材と向き合う。
たかが料理だけど、されど料理。
私の作ったご飯で、あの人たちが少しでも元気になったらいいな。
そのためには、冷静に料理するのが大事だ。
そう冷静に。
静かに【毒消し】を済ます。
気持ちを鎮めて手を食材に……。
「<迷子米>を洗いますよぉ! 洗うだけですぐ食べられるのだぁ!」
「今回も始まったね」
『毎度のことだけどテンション高いニャ』
<迷子米>は魔力を込めるとすぐに脱穀できる。
お水でジャブジャブ洗って水を切る。
炊くのは後。
チキンと一緒に炒める所存。
「具材は<満月茸>も入れましょうぅ! 卵と茸で、とろみの二重奏!」
「とろみの二重奏……」
『今日の名言いただいたニャ……』
<満月茸>を細かく刻んでいく。
お肉ばかりじゃバランスが悪いからね。
「<どくどくチキン>はよく叩いて柔らかくするよぉ! 身が引き締まってるけど、そのままじゃ硬いからぁ!」
「すごいナイフ捌きだ」
『冒険者にも負けないくらいに違いないニャ』
ドドドドッ! とナイフの背中で<どくどくチキン>を叩く。
繊維を切って柔らかくするのだ。
ここのところ野草や果物ばかりだったからね。
久しぶりなこともあって、お肉の調理は気持ちが昂りますなぁ!
食べやすいように小さく刻む。
「味付けは<トキシントマト>と<魔女リンゴ>のソースだぁ! 酸味と甘みのハーモニーを味わいたまえぇ!」
「なんだか今回も楽しくなってきた……」
『奇遇ニャね。ボクもニャよ……』
すりつぶした<トキシントマト>と<魔女リンゴ>を混ぜ合わせる。
ヘラを上げたりして、空気と良く混ざるように。
スプーンで一口舐めたら、正解の味だった。
「それでは炒めますよぉ! まずは<どくどくチキン>からぁ! 脂が良く乗っているねぇ! <迷子米>も一緒に炒めていくぅ!」
「食欲をそそる音と匂いー! もうすでにおいしいぞー!」
『お肉を焼いただけでこれニャんて、完成品はとんでもないニャ!』
<どくどくチキン>を熱したフライパンに乗せる。
鳴り響くジュウウ! という音。
いやぁ、素晴らしい。
程よく油が出たところで、<迷子米>をイン!
お肉の味を染み込ませるのだ。
「火が通ったらぁ! <トキシントマト>と<魔女リンゴ>のソースを投入ぅ!」
「色がついてさらにおいしそうになったー!」
『見た目だけじゃなくて味だっておいしいに違いないニャー!』
ソースは入れすぎると味が濃くなるので、お米が真っ赤になるくらいにしておこう。
火が中まで通ったら、一旦蓋をする。
別のフライパンで一番大事なところを作るのだ。
「オムライスの肝はふんわり卵ぉ! <どくどくチキン>の卵をふんだんに使いますよぉ! この勢いに振り落とされるなぁ!」
「目にも止まらぬ早さの撹拌だー! 卵がとことん混ぜられていくー!」
『これで作ったオムライスはふんわりしているに違いないニャー!』
白身と黄身が完全に混ざるように、卵を素早く溶いていく。
それでいて泡立てないよう注意する。
あくまでもオムライスの卵として。
数分混ぜると黄色の卵ベースができた。
ライスが楕円形になるようにお皿へ乗せる。
これで下準備は完了だね。
「いよいよライスを包むときが来たぁ! 卵は火を通し過ぎないのがポイントォ! 半熟くらいがベストォ!」
「料理も佳境に入ってきたー!」
『一番重要なところで緊張するニャー!』
焼きすぎると硬い卵になってしまうので、半熟状態で火を止める。
フライパンを揺すると、ぷるぷる震えていた。
いいね!
ライスの上に乗せナイフでそっと切る。
とろり……と卵が割れて、チキンライスを優しく包んだ。
「『おおお~!』」
黄金のような輝き。
想像以上の出来ですよぉ、これはぁ。
しかも、まだ終わりではないのだ。
「仕上げはこのトマトソースだぁぁぁ! 料理には彩りも大事だよぉぉ!」
「おいしそうな感じが十倍は倍増したー!」
『もうたまらんニャー!』
黄色の卵に赤いソースが眩しい。
味見用に作っておいた物をみんなで食べる。
「スーパー美味!」
「ハイパー美味!」
『ウルトラ美味ニャ!』
こりゃあ、とんでもないオムライスですよぉ。
お客さんたちに食べてもらうのが楽しみだ。
「三人分だからわたしも運ぶよ」
「ありがとう、ロールちゃん」
二人でお皿を持って食堂へ。
「お待たせしました。“どくどくチキンのオムライス”でございます」
ことりとテーブルに置いたら、黒髪少年に睨まれてしまった。
「調理しているのはあなたですか?」
「あ、はい、私です」
「厨房から大きな声が聞こえてきたのでビックリしましたよ。もう少し静かにしてほしいんですけど」
「……申し訳ありません」
ロールちゃんとネッちゃんは、すでに食堂の壁へ退避している。
二人はスン……と静か。
……最後の方は二人とも騒いでなかった?
毎回私だけ怒られている気分になるのはどうして?
「僕たちは静かに食事したいのです」
「俺は疲れてんだよ」
「困ったものですね」
「すみません……」
少年たちは文句を言いながら、オムライスを口に運んでいく。
騒いでしまったのはもうしょうがない。
料理で挽回しろ、レベッカ!
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