第10話:王様が来た!?(Side:ワガマリア②)
「ワガマリア! 早く掃除しなさい! あなたが一番若いんだから、率先して家事をしなさい!」
「だから、子どもなんだから若いのは当たり前でしょ!」
「そうだ、そうだ! 本当なら言われる前にやらなければいけないんだぞ、ワガマリア!」
「お義父様も賛同しないで!」
マーグレイブ辺境伯が怒って帰ってからというもの、あたくしの風当たりは増すばかりだった。
おまけに、サンデイズ家のあらゆる雑用を押し付けられている。
掃除をしろ、洗濯をしろ、買い出しをしろ、服の手入れをしろ、手紙を管理しろ……。
「ワガマリア!」
鬱々としていたら、お母様に甲高い声で怒鳴られた。
耳がキンキンしてしょうがない。
叫ぶように怒鳴り返す。
「今度はなに!」
お母様は窓枠を、つつつっと指で撫でる。
かと思いきや、指先についた埃をフッ……と吹き飛ばした。
「まだ全然掃除できてないじゃないの」
「まったく何をやっているんだ、ワガマリア。掃除もできないのか?」
文句あるなら自分たちでやりなさいよ!!
……ものすごいストレスの毎日だ。
今まではこんなことなかったのに。
どうしてこうなったの?
これはきっと、お義姉様のせいだ。
家から逃げたから、お母様たちの攻撃対象があたくしに変わったのだ。
お義姉様めぇぇぇ!
沸々と怒りが湧いてくる。
「あと、ワガマリア」
お母様の声。
がっくりして気絶しそう。
反抗の意思を示すため、どアルトの声を出してやった。
「……なんでしょうか」
「あんたのお小遣いだけど、今月から無しにしたからね」
「ええ!?」
無しにしたからね、したからね、からね……。
頭の中にお母様の声が響く。
「な、なんで!」
「なんでって、食堂が閉まったからに決まっているでしょう。少しでも節約しないと」
サンデイズ食堂を閉鎖して、我が家の収入は激減した。
土地の貸し借りとか、代わりの収入源があるかと思いきや何もなかった。
「納得できませんわ! あたくしのドレス代は誰にも渡しません!」
「お黙りなさい!」
お母様は面倒なことがあると、お黙りなさい! を発動する。
その金切り声は、あらゆる気力を奪うのだった。
これも全て、お義姉様が追放宣言を受けたとき反発しなかったのが原因だ。
家に残ると懇願しなさいよ。
そうすれば、あたくしはこんな目に遭うこともなかった。
お黙りなさい! で奪われた気力を奮い立たし、お母様と話す。
「で、でも、今週末にあるお茶会はどうするの。新しいドレスを買わないといけないのに」
「そんなの古い服でいきなさい」
貴族のお茶会は文字通りお茶を飲む会……ではない。
将来の結婚相手を探す大事なチャンスなのだ。
お母様もわかっているはずでしょう。
……というか。
「お母様が節約すればいいじゃないの! 今週何枚のドレスを買ったのよ!」
「……チィッ!」
仕立て屋から届いた分厚い請求書をテーブルに叩きつける。
手紙の管理をやらされている中、目ざとく見つけておいたのだ。
人のことをこき使いやがって。
仕返ししてやるんだから。
請求書を見ると、お父様が震える手で拾い上げた。
「お、お前、こんなにドレスを買ったのか? しばらく買わないと約束したばかり……」
「……何か文句でも?」
「いや、何でもない」
お母様に睨まれた途端、お義父様はぐんぐん小さくなる。
しっかりしてよ、もう!
お義父様がそんなんだから、お母様は横暴になったのよ。
……というか。
「そもそも、サンデイズ食堂を中止にしたのはお義父様じゃないですか! どうして、あたくしにしわ寄せが……」
「人のせいにするんじゃない、ワガマリア! お前をそんな娘に育てた覚えはないぞ!」
ぬあああああ!
なんて偉そうな義父。
サンデイズ家にはまともな人間がいないの?
右を向けばお母様に、左を向けばお義父様に文句を言われる。
あたくしはなんて可哀想な女の子なんでしょう。
自分の悲運に悲しくなってきた。
まとめると、これも全てお義姉様のせいだ。
自分が追放された後のことを、全然考えていなかったのが悪い。
長女ならもっとちゃんとしなさいよ。
「「サンデイズ家ー! サンデイズ家の者はいないのかー!」」
外から男性の声が聞こえてくる。
何かしら? と思う間もなく、お義父様がカッ! と指を鳴らした。
「ワガマリア、出なさい」
「……」
またあたくしかよ。
聖女のように心が広いあたくしでも、さすがにもう我慢ならん。
「たまにはお義父様が出たらどうですかっ」
「お黙りなさい! あんたが一番若いのだから率先して……」
リビングに小言を残して玄関へ向かう。
だるい気持ちでドアを開けると、身なりのキチッとした男性が数人立っていた。
辺境伯のときとは違った意味で緊張する。
こいつらは王宮の衛兵だ。
制服が同じだもの。
何しに来たんだろう。
ハンサムな人は一人もいないので、ローテンションのまま対応する。
「何用でしょうか」
「「あ! ……なたはサンデイズ家の者ですか?」」
またこの反応だ。
衛兵たちはあたくしをギョッと見ている。
うら若きレディーに失礼でしょうが。
きっと、美人の扱いに慣れてないんでしょうね。
見るからにモテないモブ男ばかりだもの。
「ワガマリア・サンデイズですが、何か?」
「「レベッカ嬢はどちらです?」」
……またお義姉様かよ。
どこまであたくしをイライラさせれば気が済むのだ。
追放したと言ってやれ。
「お義姉様はつい……」
と言いかけたところで、言葉を止めた。
またお母様たちに嫌味を言われるのはイヤだ。
「今ちょうどお料理を作っているわ」
「「お料理を? サンデイズ食堂は閉店したのでは?」」
「また再開したんです」
面倒だから適当に誤魔化しておいた。
さっさと帰りなさい。
「「そうですか、そうですか。いやぁ、それを聞いて安心しました」」
衛兵たちはホッとした表情。
お義姉様の話をしているときは嬉しそうじゃないの、ムカつくわね。
多少イライラしながら質問する。
「安心したって、どういうことで……」
言い切る前に、衛兵たちはとんでもないセリフを吐いた。
「「国王陛下―。サンデイズ食堂は再開したそうです」」
「おお、そうかそうか。ようやく、レベッカ嬢の食事が食べられるのだな。これほど楽しみなことはない」
衛兵の後ろから出てきたのは、フリーデン王国の王様だった。
豊かな白い口ひげに、短い筒みたいな帽子からこれまた長い髪が見えている。
温厚そうに緑の瞳を曲げ、ホッホッホッと笑っていた。
まさか王様が来るなんて予想外もいいとこだ。
「「さあ、王様、参りましょう」」
「そうだな、レベッカ嬢の料理が食べられる日がくるとは」
王様は衛兵に連れられ、サンデイズ家に足を踏み入れる。
今さら嘘を吐いたなんて絶対に言えない。
王様を騙すなんて、それだけで大罪だ。
お義姉様はもういない、サンデイズ食堂は閉店した。
……素直に言えばよかった!
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