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のろわれたポピー  作者: ゆずこ
7/7

完結です。

ありがとうございました。

ばつん!



 何かにはじき出されるように、ポピーとタイラーは床に座り込んでいた。

時間を確認するが、針はほとんど進んでいない。


 あれは、鏡の記憶だ。アイビーが大切にしていた鏡に、命が宿ったのだろうか。

ポピーは止まることのない涙を、はらはらと流していた。



何が、魔女の呪いだ。

これは友情の魔法じゃないか。


 それを完成させる前に、アイビーは命を落とした。愛する人と結ばれぬまま。

ポピーは手元に落ちている鏡を、丁寧に拾い、涙でぬらしてしまった場所をそっとぬぐった。




鏡にうつるのは、ただのポピー。

自分の視界にうつるのは、視界の魔法がかかったイボだらけのポピー。




「ポピー…」

「…タイラー」


 思ったより近くにいたタイラー。いつからか、きつく手を握りあっていた。

そうだ。長い時間アイビーと鏡の記憶の中にいたが、自分たちは先刻までここで口論をしていたのだ。

いや、…一方的にポピーが辛辣な言葉を吐いていたのだが。



「途中に出てきた公爵家のあの方…たぶんだけど、5代くらい前にサファイアという名の当主がいたはず。早々に家督を子どもに譲ったんだ、と思ったな」

「じゃあ、この鏡が公爵家の書庫にあったこと、とても納得いくわね」

「でも、この鏡がここにあるって家の人は誰も知らなかった」

「鏡に命があるとしたら、アイビーが願ったように、サファイアさんが楽しんだように、姿を変えてくれる人が現れるのを待っていたのかもしれないわね」

「それが、僕の婚約者ときたもんだ」



 ポピーは手鏡の、繊細な細工を指でなぞる。

ねえ、鏡さん。わたしはあなたを魔女の呪いと決めつけて、蔑んでいた。

知らなかったとはいえ、アイビーとサファイアさんの友情の魔法にとても失礼だった。と。



「タイラー。最後、サファイアさんが言ってたの、わかった?」

「魔法の解き方」

「そう」

「…君さえよければ、試したい」



 琥珀の瞳が揺れている。ああ、先刻もこうして瞳が揺れていた。

こんなにも大好きな幼馴染を、わたしは酷く傷つけた。



「ごめんなさい」

「え?」

「さっきの暴言。全部嘘よ」

「うん」

「本当は、」

「ポピー、君にキスしていいかな」




 どきん、と心臓が大きく跳ねた。ポピーは肯定の代わりに、きゅっと手を握り返す。


ゆるりと近づく琥珀の瞳。


亜麻色と濃紺の髪がふわりと交わる。




「好きだよ、ポピー。ずっと」

「わたしも、」





それから。

 


 相変わらず手鏡はポピーの手元にあった。

10年愛用していれば、愛着もわくものだ。国のしかるべき機関に提出した所、鏡からはもう魔力のかけらすら感じ取れなくなっていた。アイビーと鏡の記憶を見せることに、すべてを費やしたのだろうか。


そして、魔法を解いたのが愛する人との口づけであることを告白するのは、まだ若い二人には酷なことであったが、タイラーに限っては開き直っている。



 ポピーの周囲はしばらく賑やかだった。10年ぶりに、魔女の呪いが解けた、と世間はその話題で持ち切りだった。


それと同時に、アイビーと言う魔法使いの人生を国に報告。

若くして命を落とした彼女が最後に使ったこの魔法は呪いなんかではない、と釈明してほしいと懇願した。

 その証拠になるものが、サファイアが隠居してずっと住んでいたとされる遠方の公爵家の書庫から見つかったのだ。

そう、彼女の日記である。そこに綴られたアイビーとサファイアの楽しい時間の記録で、この鏡は呪いの産物ではないことが証拠づけられた。





 調べると共に、アイビーが昔住んでいた町や昔の恋人たちのことも知ることになる。

昔の恋人だったウェルドは、一人息子を立派に育て上げ、次世代が立派に商家を継いでいた。ウェルドの妻は、ある日王都で見たこともない醜悪な姿で自死していたという。


きっとこのタイミングで魔女の呪いという言葉が生まれたのだろう。




 そして。タイラーが恐れていたことが現実になった。


魔法が解けたおかげでポピーが本来持つ美しい容姿が、世間を黙らせない。

あれだけ邪険にしていた旧友が手のひらを返したように媚び諂う様子には、さすがに一周回って笑いがこみあげた。





そんなある日、学院のランチの時間。

魔法が解けても、結局ポピーはいつもの資料室で静かにランチの時間を過ごす。

もちろん、タイラーも一緒だ。




「もうあれから一年たったのね」

「はは。怒涛の一年だよ。君に婚約破棄されそうになるし」

「いじわるね。それは全部嘘って言ったじゃない」



 ポピーは人前で顔を隠さない。その必要がなくなったからだ。

大きな碧の瞳が、機嫌悪くタイラーを見つめる。




「…まさかとは思うけど、君と僕は、学院を卒業したら結婚する。で間違いないよね」

「ふふ、決定事項よ」






幸せな二人の姿を

金の手鏡はずっと見ている。


今度は幸せな思い出を延々と記録することになるだろう。


ポピー

「お兄さまたち、もう魔法はとけたのに、スキンシップ過剰でなくて?」

ポピー兄

「いや、俺はもう癖だ」

タイラー次兄

「俺も同じく」

タイラー長兄

「可愛い弟の嫉妬心を煽りたい」

タイラー

「あにうえ!!」

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― 新着の感想 ―
[良い点] ハッピーエンド! よかったよかった。 [気になる点] >タイラー長兄 「可愛い弟の嫉妬心を煽りたい」 ええ話や、と思っていたのですけど、この一言で笑いました。 お兄さん、末弟をからかうの…
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