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自動車で目指す『異世界“峠”最速プロジェクト』  作者: さけとみりん
孤高の魔法使い編
15/16

なろう系でいこう〜シボネ強化編〜

 そして5日後、MWの改造準備が整った私は工房にいた。エムダはすでにMWの姿で工房の真ん中に駐車している。



「“師匠、結局どんな改造するんです?”」


「いい質問ねエムダくん、では回答として実際に改造しながらお答えするわ」



 改造で目指すMWのステータス値はおおよそ2倍で、馬力や重さ、タイヤのグリップや持久力を改善するのが目標だ。


 そもそもシボレー・MWはワゴンRソリオをベースにした普通乗用車である。

 排気量はすでに1300くらいあって、軽自動車660ccの倍近い数値がある。ハコバンよりも力があるということで、これだけでアイツに負ける要素はない。だが、念には念を入れてさらに強化するつもりだ。


 まずクルマの外についてる、4つのタイヤから改造することにする。

 普通なら専用の工具で外さないと取れないホイールナットも、魔力強化した私の指なら片手で外すことが出来る。まずは試しに運転席側のタイヤから仕上げることにした。



「ふん……っと、よし。結構簡単に外れるわね」


「“まずはタイヤの強化ですね!”」


「タイヤはクルマが走るときに唯一地面に触れているパーツだからね。タイヤの強化は基本中の基本よ。

 今のタイヤは固くて耐久性に優れたタイヤなの。普段使いなら長持ちするほうがいいのだけど、レースならグリップ力のある柔らかいタイヤにしなくちゃ」



 普通乗用車のタイヤはコンフォートタイヤという、耐久やエコ性能に優れたタイヤだ。街乗りぐらいなら必要十分な性能だが、レースで使うなら心許ない。

 そこで私が作るのはスリックタイヤ、F1のフォーミュラカーが装備するタイヤである。

 走行中の熱がタイヤ表面を溶かして路面に直接粘着するため、コンフォートタイヤより優れたグリップ性能を発揮することができる。

 これを私の再生スキルを応用して作るのだ。



「まずは南方から取り寄せたゴムの樹液をスキルで分解、今外したタイヤと合成する」



 右手に樹液の入った容器を持ち、左手をタイヤに添えてスキルを発動する。

 樹液が意思を持ったかのようにさざなみ立ち、容器を傾けるとつぎつぎにタイヤに吸い込まれていく。同時にタイヤも表面の凹凸が薄れていき、私の思い描いたイメージ通りに“再生“が始まった。



「表面積を増やすために幅を拡げて、かつ表面の融点は100度前後。溝は縦に4本……」



 並の術師では真似できない造形だが、人間の臓器を再生する私なら簡単だ。手術をするより容易く、スリックタイヤの”再生”は完了した。



「うん……これで完成。スリック化したついでに横幅も拡げたから、グリップ力はかなり増えたはず」


「“鑑定で見ると品質が+6も上がってます!”」



 回復薬で言えば、品質を+6もすれば売値が3倍近く上がって一流冒険者にしか手にできない高級品になる。

 このタイヤは元が遺物の上で+6だ。十分なレベルアップと言えるだろう。


 だけど、私の強化はそこで終わらない。

 今度はタイヤではなくホイール側に魔術を組み込む。回復魔法を常時展開する術式だ。どんなに優れたタイヤでも、消耗し切ってしまったら意味がない。だが、消耗と同時に回復し続ければ性能が長持ちする最強のタイヤになる。ついでにブレーキパッドも回復するから、一石二鳥だ。



「それって、患者の包帯に刻む回復紋のことですよね?あれは人体にしか効かないのでは?」


「そうね。でも回復紋の仕組みを解析してみたら、あらゆる有機物に応用できることがわかったわ。序文の256語の順番が対象物を現し、主文の1024字が効果範囲、回復上限、消費魔力を調整する。この改造のために用意した回復紋はスリックタイヤ専用に調整してあるから問題無く機能するわ」



 タイヤを裏返し、ホイールの裏側に魔力で回復紋を刻む。ナイフの切っ先のような跡が回復紋1万字を掘り込み、最後の一字を刻み終わると文字全体が薄く光った。



「ね、成功よ」


「“今さらっとすごいことしましたよね?回復紋の解析とか歴史に残る発見だとおもうんですけど”」


「そうかしら?まあ対象は有機物だけだし、今はあなたの改造が先!残り3本はチャチャっとやるわよ」



 完成したタイヤを取り付け、残る3本も順番に手早く改造する。一度やってしまえば慣れた作業で、あっという間に終わってしまった。



「よし、じゃあ次はボディの軽量化ね。軽ければ軽いほど速くなるのは当然!

 クルマのフレームはアルミとか鉄の合金で軽く作られてるみたいだけど、こっちの魔鉱石のほうが軽くて丈夫なんだから思い切って全部置換しちゃいましょう!」



 普通の軽量化ならボンネット交換や使わないシートを取り外すくらいだろうが、せっかくの異世界なんだから魔法素材を使わない手はない。

 私なら、魔鉱石のサンプルを解析すればMWのフレームをそのまま魔鉱石に置換できるし、合金化も可能だ。



「“何の金属にするんですか?”」


「この前、古代遺跡で戦った機械仕掛けの魔獣がいたでしょ。あの素材よ」


「“あぁ、討伐隊が三度組まれて全滅、敗れた冒険者も数知れず。返り血で赤く錆びついてなお殺し続けた『神代の防人』とかいう”」


「そうそう、ぶっ壊したときに服に破片がついてたのよ。調べてみたら軽くて丈夫で、魔素伝導率が高いってわかったの。今回はこの素材をフレームに置換するわ」



 説明しながら手をフレームに伸ばす。置換自体は習得までが大変だが実行は一瞬だ。



「はい、終わった」


「“え!?うわっ!身体が軽い!?“」


「ステータスで見ると…150キロも減ってるわ。素材名はミスリル化合物、結構な希少金属だったのね」


「”なんだかふわふわして、これならすごい速く走れそうな気がします!“」



 エムダが車体を上下させて身軽さをアピールする。置換が体脂肪にも使えないか今度研究するとしよう……。



「さあさあ!改造を続けるわよ!

 次は空力に手をつけるわ」


「”空力って何ですか?“」


「簡単に言えばダウンフォース、クルマを地面に押さえつける力よ。

 クルマは軽いほうが速いけど、軽すぎると地面から離れやすくなってしまうの。タイヤが浮き上がってしまうと当然、前に進む力は弱くなってしまうわ。

 だからクルマを押さえ込むためのダウンフォース、つまりGTウイングよ!」



 車体取り付け用のステーが2本付いた横長の板、それがGTウイングである。前から吹く風の力を、斜めに設置した板に当てて下方向の力に変えるのだ。



「そして、これは私特製のウイングよ。風魔法を常時吹かせることで、いかなる速度でもダウンフォースをかけ続ける夢のウイングってわけ」



 これも取り付けは簡単だ。MWは元々飾りの羽パーツが車体後部に付いている。換装はものの5分とかからずに終わった。


 車体の後頭部とも言える部分に二本の取り付け用台座が伸び、GTウイングを固定している。贔屓目かも知れないが凄いかっこいいと思った。



「“師匠ー!なんか強くなった気がします”」


「まだまだ、最後はエンジンに手をつけるわ!

 ……とは言っても、改造というより魔法をかけるだけなんだけどね。

 クイック、クイック2、エンドクイック、レアリティ1から3を重ね掛けしてバフを乗算させれば、合計で1.8倍の性能アップになる。100馬力が一気に180馬力台に跳ね上がるってことよ」



 開いたボンネットを片手で支えつつ詠唱を始める。武器に魔法を付与するのはある程度の実力がいる作業で、王立魔術学院の特待生クラスの実力が無いと難しい……らしい。私は行ってないから人から聞いた程度だ。


 エンジンルームの真ん中あたりにあるエンジンとその周辺パーツを中心に魔法効果を付与していく。エンジンだけ高回転でラジエーターがそのままなんてあってはならないので、念入りに。エンジンルーム全体が魔法の光に包まれたら完成だ。



「よし、これでおしまい!ちょっとエンジンかけて見て!」


「わかりました!……うわわっ!?」



 エンジンがかかった途端、エムダが変な声を出す。それもそうだろう、今までのエンジンは「ドドドドド」という、いかにもエンジンらしい音だったのが「キィィィィン」という、モーターが高速回転しているような音になったのだ。

 この音こそが本物のチューンの音、私の知るF1マシンのエンジンサウンドだ。



「力が溢れてくる感じがします。これならスズキさんに負けません!」


「気が早いわよ。とにかく試運転しましょう。家の周りをぐるっと回って、峠を軽く流してから改造箇所の再チェック。シェイクダウンで故障なんかしたら目も当てられないんだから、気を抜かずにいくわよ」


「わかりました!」



 運転席に乗り込み、MWのハンドルをしっかり握る。工房の出口からゆっくり出て、街を6割くらいのペースで走り抜ける。



「そういえばこの前、子供が飛び出たときは危なかったですね」


「あのときは止まれる距離じゃなかったから咄嗟に方輪走行したのよね。今なら軽いし止まれるはずよ。それ!」


「ひぇっ!?」



 右足でブレーキをグンッと踏み込む。エムダの情けない声とは対照的に、MWは抜群のブレーキ性能を見せた。



「ほらね」


「し、師匠〜」


「あはは、ごめんごめん。じゃあ気を取り直して峠に向かいましょう」



 街を出て飛竜場方面へ進めば、すぐに峠に差し掛かる。

 緩やかな登り坂が右、左、右と蛇行し続く最初のレイアウトで、MWは元気よくグイグイと駆け上がっていった。



「苦しい感じがしませんね。タイヤもまだまだ余裕で行けます」


「ATでも全然ヘーキね。ギアが噛み合ってない感じもしない。いつもよりスピードも出てるし……。もっと踏んで見ましょうか」



 カーブを抜けた先にはストレートが続いている。アクセルを思い切り踏み込んで、加速力を見ることにしよう。

 右足に力を入れると、スピードメーターはあっという間に100を超え、ブレーキを踏むとガクッと落ち、ハンドルを切ると思った通りに車は曲がった。



「軽量化とエンジンの強化、GTウイングのおかげで加速力が今まで以上になってる。それに加えてスリックタイヤのグリップ力が強いから安心して止まるし、曲がれるようになってるわ。改造は成功ね」



 そのまま走り続け、峠の最頂点にたどり着いたところで車を降りる。足回り、エンジンルームが冷えてからボンネットを開け、オイル漏れや異音がしないかを確かめていく。



「師匠、セルフチェックでも問題ありません」


「こっちも、目視で異常はなし。これで完成ね。私がカスタムしたから……MW・CCってとこかしら」



 MW・シボネカスタムで、略称MW・CC。現代技術と魔法技術を組み合わせた最強マシンの誕生だ。

 180馬力、750kg。スズキのエブリイが50馬力の870kgだからこの時点で勝負はついてるが、さらにスリックタイヤとGTウイングのおかげで道路上を思うがままに走り回ることができる。低グリップタイヤでは走れないラインも、MWCCなら余裕で走り抜けることができる。

 私が手塩にかけた最高の一台、そして最高の相棒を優しく撫でる。きっと、明後日に迫るレースでは大活躍を見せてくれるだろう。エムダも私の期待に気付いてか、エンジンを一際大きくふかして答えてくれた。


 それからしばらくして、遠くから貧弱なエンジン音が聞こえてきた。高い回転数を維持して走る、軽サウンドだ。



「この音は……あいつね」



 私たちが来た道の反対から音は聞こえてくる。ビイィィィンと甲高く、力のなさそうな音だ。道の向こうに視線を向けているとその正体が見えてきた。SUZUKI エブリイ。私たちの対戦相手だ。

 五日前に見たときよりも薄汚れて見える。だいぶ走り込んでいるのか、ボディがフラフラだ。

 エブリイは私たちを見つけるとスピードを緩め、縦列駐車のようにMWの真前に停車した。



「よう、仕上がったのか?」


「ええ。おかげさまでバッチリよ。アンタこそ練習に精が出るわね」



 対戦前だというのに、車から降りてきたスズキは陽気に話しかけてくる。いったいどういうつもりだ、友達とでも思われるのは心外だ。



「魔法が使えないアンタじゃ、練習しかすることないものね。だけどね、レースは車が全てよ。始まる前から結果は決まっていることを教えてあげるわ」


「おぉ、怖ぇー怖ぇー。まあ草レースでんなこと言ったって……」



 MWを見るスズキが、セリフの途中で動きを止める。MWはボンネットを開けたままの状態だ。タイヤ周辺も魔法の光が漏れ出しているし、私がどんな改造をしたのか悟ったのだろう。



「お、お前……エンジンにバフかけたのか?」


「ええ」


「タイヤもコレ、スリックタイヤ?」


「そのとおり」


「しかも後ろに生えてんのはGTウイングかよ!?」


「流石にわかったかしら?アンタの勝ち目は万に一つも無いってこと」



 スズキがよろよろと後退る。圧倒的なスペック差に言葉も出ないようだ。



「なんてこった。その改造、やめてくれって言ってもお前は聞かないんだろうな」


「当たり前でしょ。すぐに戻せるけどアンタをボコボコにするまでは戻してやんない」


「すぐに戻せるのか!?」


「えぇ!?さ、再生魔法をかければ最初の状態に戻すのは簡単なのよ。この程度の改造は、MWの能力をすこーし底上げする程度ってこと!」



 スズキが私のセリフの変なとこに噛み付いてくる。しかも、解説してやると脇目もふらずにエブリイに飛び乗り、エンジンをかけた。



「わりぃ!急用を思い出したから先行くわ!お前らは60キロ以下でゆっくり帰れよ!」


「何よ急に!」


「それと、そのGTウイングは外しとけ!すげーダサイ!」


「んなっ……!!」



 言うだけ言って、スズキのエブリイが走り出す。いくら性能で負けてて悔しいからってそれはあるまい。私は落ちてた石を拾って思い切りぶん投げた。



「カッコ悪く無いわよーーーッ!あぁクソッ、もうあんな遠くまで!」


「いいじゃないですか師匠。きっと悔しいんですよ」


「そりゃ負け犬の遠吠えだってわかってるわよ。だけど私は、アイツをぐうの音も出ないほど徹底的に負かしてやりたいの!」



 エブリイは直線を走り抜け、あっという間に見えなくなる。後には私の投げた石が虚しく転がっていくだけだ。



「師匠、スズキさんも魔法強化しに行ったのでしょうか」


「それは難しいと思う。道具に魔法をかけるには王立魔術学院のトップクラスの実力がいるらしいけど、ハルギにはそんな人材いないし。おおかた、魔具を買いに行ったんじゃ無いかしら?」



 とはいえ、どんな魔具も私のMWCCの前にはガラクタ同然だ。ポン付けチューンごときがきちんとカスタムした車に敵うわけがない。

 私は頭に上った血を降ろし、大きく深呼吸してMWに向き直った。



「よし、とにかくこれで改造はおしまい!あとは明後日、あの馬鹿を完膚なきまでにぶっ潰すだけよ!」



シボネの仕上げた化け物マシンにスズキのエブリイはどう立ち向かうのでしょうか(笑)

次回こうご期待


ー用語解説ー

『シェイクダウン』テスト走行のこと。普通はレース前日にやることだけど異世界だから気にしないでほしい

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