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女ばかりが生まれる国では五十年に一度産まれる男が王として君臨していた。
史上初の女王となったソニアは十年の治世を終えて王位を禅譲し、自由を謳歌する旅に出かけるのだが……
ぱっと思い浮かんで書いたものを置いてみます
10日程度投稿して完結します
18歳嫉妬深く一途な王×26歳恋愛経験皆無で自由な先代女王
夏に吹く強い南風が花吹雪を連れてきた。
五十年に一度、王が即位する時に河が白くなるほどに撒かれる『王花』だ。
『王花』はその日のために育てられ、その日のために摘み取られる。
風に乗って辿り着いた花は、役目を果たし、役目を終えた花だ。
このまま花は河や土に横たわり、森の糧となる。
川べりに立って、マントについた花をそっと摘まんだソニアは吹く風に花を載せ、風に吹かれたしろい花はくるくると遊ばれて、消えた。
森の木立に馴染む、深緑色のマントのフードを被り。樹に繋いでいた愛馬に跨る。
彼は長年連れ添った愛馬で王宮から唯一持ち出したものだが数多の駿馬のうちの一頭だ。
気性も荒く自分以外には懐いていないので誰も文句は言わないだろう。
いま居る場所から白亜の王宮は遥か遠くだ。
昼下がりの陽光が照って、きっと黄金色に輝いているだろう。
自分が即位した日もそうだったように。
リュシテール王国は森と共に生きる、女の国だ。
そう。女の国というのは比喩ではなく、この国ではどうしたことか基本的に女しか生まれない。
人口の何割、という話ではない。
外の血を入れようが、旅人と交わろうが、国の外で子を産もうが女しか生まれない国なのだ……ただ一人、五十年に一度、王となる定めを背負う男児を除いて。
豊富な水資源を持ち、森や鉱山を擁するこの国が周辺諸国からの侵略に耐えられたのは、偏に武力が高かったからに他ならない。
生まれてくる女は皆、一様に頑健で唯一の例外なく刀剣と弓の名手だった。
故に古代は神の血族とも、魔の血を引く者とも言われたし。弓を引くために右の乳房を切り落とす恐ろしい風習もあった。
リュシテール王国に生まれた男児は王宮で大切に育てられ、十八歳で王に即位する。
そして王は六十八歳で次代の王に王位を禅譲し、自由に余生を過ごすのだ。
女達以上に王は頑健で、百に達する年齢まで生きる者も多くいるという。
こうして五十年の治世が繰り返され、国は続いてきた……のだが。
何事にも例外というものはある。
それがいまから十年前。ソニアが十六歳の時のことだ。
放蕩の限りを尽くしていた当時の王ルークスが、五十八歳で崩御したのだ。
それは今日即位した現王……ルシアンが生まれ、無事に八歳を迎えた矢先のことだった。
国は二つに割れた。
幼い王を即位させるべきか、否か。
放蕩の限りを尽くしていた王ルークスが残した爪痕は大きく、国は乱れていて。僅か齢八歳の王には荷が重いと誰もが判断した。
結果、十年の間に国を立て直し、ルシアンに禅譲する史上初の女王が必要とされた。
そうして白羽の矢が立ったのが、当時神童と名高く、ルシアンの教育係を務めていたソニアだった。
不本意ながら即位したソニアは女王フィロソフィアとして君臨し。
軍事、内政、外政、王ありきの仕組みをすべて見直し、見事に国を立て直してみせた。
当然、楽しい事ばかりではなく恨まれることも命を狙われる事もあった。
どうあっても嫌われるのが為政者であり。優しい王は国を迷わせるので王としての振る舞いを、心を殺して行わなければいけない事も多かった。
女であるのに玉座に座る自分を偽王と罵った人間は数知れない。
内政では五十年先を見据えて行動しつつ、なるべく取りこぼしのないように政を行い。
外交の場では美しく装って微笑みの下で腹を探り合い、答えの出ない問題にどうにか答えを出そうとした。
自分は良い王ではなかったとは思うが間違いなく国は変わったし、王の負担は激減したし、次に即位するルシアン王の布石にはなれたと確信している。
だから……
「もういいよな」
目深に被ったフードの陰でソニアは微笑んだ。
今日はめでたい即位記念日。
王宮ではルシアン王が誕生している。
本当は先王である自分が王冠を譲ることで即位の儀式が成立するというのが従来のものだったが、もう男の王は亡く、そんなことをしたらきっといろいろと面倒臭いことになると思ったので、寸前になって式次第に口を挟んだのだ。
改革万歳だ。
いろいろなことを変えたので、きっと誰も不思議に思うことはないだろう。
もうこの国に過去は必要ない。
そして自分は……自由だ。
今日から自分は毒を警戒して温い食事を摂ることもないし、暗殺を警戒して森に入ることを禁じられることもない。
夜に見張りなく一人で眠れるし昼まで惰眠を貪っても問題ない。
なんなら国内に限らず、いろいろな場所を訪れることだってできるし。
外交、内政、会議、謁見、視察……と眠っている間しか気を抜けない日々ともおさらばだ。
ちなみにルシアンにはそういった自由が約束されるように手を回した。
先々代の王のルークスが度を超えた放蕩に耽ってしまったのも、王としての生活の不自由さへの反発だと思ったからだ。
まぁ尤もルシアンは自分をはじめとする優秀な教師たちが養育したので放蕩に耽ったりする心配はしていない。
ソニアは手始めに好きなだけ愛馬を駆って、昼下がりの木立の中の木漏れ日を存分に楽しんだ後、馬を繋いで、木立に飛び上がるとはるか先の藪に向かって矢を射かけた。
弓を引くのも久しぶりだ。
腕前が落ちていないかほんの少し不安だったけれど、藪の中には左目を射抜かれた鹿が居る。
距離、角度、鏃が刺さった深さも目測通りだ。
この様子だと苦しまずに死んだだろう。
苦しむ間もなく息絶えた鹿の肉は格別に美味いのだ。
人気のない場所を選んで馬を走らせ、川の傍で焚火をする。
祈りをささげたソニアは鹿の血を抜き、早めの昼食を堪能することにした。
まだ日は高いが急ぐことはない。
このまま今日はここで野営してしまってもいいかもしれない。
そんなことを思いながらソニアは焼いた肉に塩を振り、保存食として持ってきた小麦を練った硬いパンを火であぶって齧る。
熱くて、しょっぱくて、思わずふぅっと息を吐いて熱気を逃がして、何もかもが嬉しくて微笑む。
もしかするとちょっとだけ涙が滲んだかもしれない。けれどソニアは気にした様子もなく、頬を乾かす焚火の熱すら堪能するように炎を見つめた。
保存食を作るついでにしばらく炎を見つめていたけれど流石に少し退屈だったので周辺を歩いてみようと思った。
そして立ち上がると、野宿ではなく、柔らかいベッドで寝るのも悪くない気がしてきた。
女王として顔は割れているけれどまさか先王が共もつけずにふらふらしているとは思われないだろうし、いまは化粧もしていないのできっと自分はありふれた女に見えるはずだ。
気を良くしたソニアは焚火の処理をして馬に飛び乗る。
今日は新たな王が即位した日。
きっと街では馳走が振舞われているし金を積めば宿で部屋も用意してもらえるだろう。
その賑わいを『無関係な者』として楽しむのもありだと思った。
ちなみに王宮にはちゃんと置手紙を残してきた。
自由を満喫したいので探すな、と。
十年の献身を知っている家臣やルシアンはきっと、自分の気持ちを尊重して探さないで居てくれるだろう。




