第10話:名付け
「だから!ウイングブレード二世にするっつの!」
「いやいやいや。いくら何でもダサすぎませんか!?」
「ダサっ……。っくねぇし!」
「一世誰なんですかそれ!」
俺は何故か言い合いをしている。
こうなったのは確か数十分前の事。
…
………
………………
あれから、三人で師匠の家に帰ってきたときの事だ。
「随分雨に降られたなー。濡れた濡れた」
「急に降りましたね」
「あ、ところで天使のアンタ。名前は?」
少女はきょとんと首を傾げる。
「なまえ?」
「知らないのか?その…アンタに『生きろ』って言ってた奴に名付けてもらってないのか?」
そのまま考え込んでしまった。どうやら意味が分かっていない様子。コレは――
『天使には名付けの習慣がないんだよ。親が子に名前を与える事は滅多にないみたい』
カガミさんが答えてくれた。なるほど……。
まぁただ、名前が無いと不便ではある。
「カガミさんによると、天使は名前を付ける習慣がないらしいです」
「カガミ…?誰だソイツ」
あれ……?ああ、そうか。鏡乱舞として認識されてるから、カガミという名は知らないのか。
「えっと鏡乱舞です」
「ああ、鏡乱舞か」
簡単に納得してくれた様で何より。
そして師匠は
「名前ってのは、アンタの事を指す言葉だ」
「名前…!」
この子も興味が湧いたようで大変喜ばしい。
さて、ここから問題は名付けに移る事となる。
「呼びづらいし、俺がアンタに名前を付けてやる」
師匠はそう提案した。
「それじゃ、アンタの名は―――」
……………
………
…
ここで冒頭に戻る。
「だから!ウイングブレード二世にするっつの!」
「いやいやいや。いくら何でもダサすぎませんか!?」
「ダサっ……。っくねぇし!」
「一世誰なんですかそれ!」
何だよ、ウイングブレードって。
小学生でももう少し良い名前つけると思う。
天使の少女は困ったような顔で青ざめている。
「………やめよう。お互い不毛過ぎる」
「それもそうだな」
一旦、両者矛を収める事となった。
「千剣破。アンタならどんな名を付ける?」
急に名付けを振られて、俺は言葉に詰まる。
「え、俺ですか?」
「はぁ?散々ダサいって言ってたクセに、アンタは代案も考える気ねーのか?」
えっとそれは――
「ははぁーん?さてはアンタ、ネーミングセンスないんだろ?だから逃げてるのか」
かっちーん。
流石に師匠よりは良い名前付けられるぞ。
「わかりましたよ。考えます」
天使の少女が此方を見る。何処となく救いを求めるような瞳で見ているような気がした。
まぁ、ウイングブレード二世とか嫌だよね。
しっかり考えなくてはならないなコレは。
んー。天使………天使か。エンジェル…。
ジェル。こう、なんかこの少女にしっくり来ないよな。
うん。エンジェルから取るのはやめよう。
………。お、これなんかどうだろう?
――そうだ。君の名前は。
「ハピ」
自分で言っておきながら少し緊張する。
「ハピ…なんてどうかな?こっちの世界で幸せって意味のハッピーから取ったんだ。短くしてハピ」
少女は胸に手を当てる。
「ハピ………」
そして小さくその名を復唱した。
「――ウイングブレ」
「一回静かにしてください、師匠」
その名だけは断固として却下。少し師匠がしょげている気もするが、知ったことか。
「うん。わたしはハピ。ふふっ。ハピ!」
どうやら気に入ってくれたようだ。いや、それにしても…初めて彼女が笑ったのを見たような気がした。
今までは無表情だけだったというのに。
今は年相応の、絵に描いたような満面の笑顔を浮かべている。
「…はぁ。流石に俺も折れるか。どうやらアンタの方が俺よりセンスがあるらしい」
「師匠のセンスが壊滅的なだけじゃ――」
師匠に軽く頭を小突かれた。軽く見えたはずなのに、その一撃は重くじんじんと痛い。
「あいた!」
思わず頭を抱えてしまう。
ハピがその光景を見て、またくすりと笑う。
俺が堪えている間に師匠がハピに話しかける。
「良かったな。アンタが笑うと、きっと天国に居るアンタのお母さんも喜んでるだろうな」
「そうかな?」
「ああ。きっとそうだ」
「――あれ?何でお母さんの事…」
「ふっ、俺は何でも御見通しなのさ」
なんて会話が聞こえる。何でも…ねぇ。
なんだかハピの事を知ったような口振りだ。
お母さんだとか話してたっけか?
――まぁいいか。
最初異世界に来た時は、こんな世界には幸せなんてないとさえ思っていた。
しかし、違う。やはり違っていたのだ。
なぜなら俺は今、確かに幸せを噛み締めているのだから。




