閑話:幸せ
天使の少女は母に向かって微笑む。
「お母さん。いつもの歌って!」
少女の母は少し困った顔をした。
しかしながら、幸せそうな笑顔だ。
「この前も歌ったじゃない?…仕方ないわね。ちょっとだけよ」
そうして、母は鼻歌を歌い始めた。
暫くの間、鼻歌を歌い続ける。
何処か落ち着く様な、そんなメロディ。
やがて鼻歌は止まり、歌詞を歌い始める。
天使の翼は 護る為に有る
綺麗な翼は 生きる為に有る
私達は 自由な天使
僕達は 幸せな者たち
どんな風に生きたっていい
自分の信じる道のみを信じよう
わたしの翼は 羽搏く為に有る
そして歌は止まる。
「…寝ちゃった」
少女は歌を聴き入りながら、母の太ももの上で眠りに入ってしまった。
スースーと安らかな寝息を立てて寝ている。
「今日はもうおしまい」
そういいながら風邪を引かぬようにと―――
我が子を自身の翼で包む。
……………
………
…
「お母さん!」
そんな、走馬灯を母は見ていた。
今はもう叶わぬ幻想を見ていた。
「………あなた…だけでも」
そして、最期に子供へ言葉を遺す。
「生きて」
それは彼女にとって願いであり、呪いだったのかもしれない。
「お母さんも生きる!生きなきゃ嫌だ。私は…私は…う、うぅ………」
返事は、無かった。
母はもう言葉を発さない。
少女は亡骸の服の裾を掴んで咽び泣く。
そこに二人の男がやってくる。
「あーもう。女が一人減ってるぞ。殺すのは男だけって話だっただろうが」
「いやあ…すいません。あまり魔術の制御得意じゃなくて………。治癒魔法を…」
「もうおせーよ、馬鹿。もう死んでんだぞ」
男達はそんな会話をする。
「子供か…。一定層には人気あるだろ。回収するぞ」
「はい。了解っす」
そう言って無理矢理、母から少女を引き剥がす。少女は必死に抵抗する。
「うわああぁあぁあ!嫌だッ!ヤだ!やべろぉっ!離しでッ!お母さんッ!」
「うわっ、うるっせ。とっとと牢に入れろ」
そうして、抵抗も虚しく、牢屋に放り込まれた。
『生きて』
その言葉が彼女の心の中で何度も木霊する。
少女は心の中で決意する。
どんなに惨めだろうと生きる、と。
その日から少女はもう泣くことはなかった。
「生きる………」
冷たい檻の中。誰にも聞こえない声で、そうぼそっと呟いた。
後に彼女はとある白髪の男に助けてもらい、名を貰うこととなる。
―――しかし、それはまた別のお話。




